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決戦前夜2

私は刑事ものには素人なので、やっぱり事件って書くのが大変です。つじつまが合っているか、とても心配なのですが、素人が書いたものだと大目に見ていただけるとありがたいです。

 浩二のことばに翔平は顔を強張らせた。自分がおとりになるのは覚悟の上だが、沙南もそうするというのは了解できない。


「浩二さん、それ、どういうこと?」


「奈々美が呼び出したのは、沙南ちゃんだ。おそらくその事は奈々美を動かしている奴も知っている。それなのに、明日の朝、沙南ちゃんが学校に顔を出さないとなると奴は絶対に不審に思う。そうしたら奴は奈々美を切り捨てて逃げてしまうだろう。もう、ことは動き出しているんだ。このヤマに関わっている者、ひとりひとりが決められた役割をこなしてくれなければ困るんだ。明日の千載一遇の機会を絶対つぶさせない。」


「それは、浩二さんの・・・警察の事情だろっ。沙南には何の関係も、ない。俺は、沙南が危険な目に合う事は絶対させたくない。それを呑んでくれなければ、俺は浩二さんに協力できない。」


 翔平は怒りを露わにして浩二にかみついた。浩二は聞き分けがないとばかりに翔平を睨みつけたが、翔平の気持ちが動かないと知ると、翔平を説得するために自分が追っているヤマの実情を放し始めた。


「・・・・・さっき、俺の上司から連絡があった。俺のヤマの重要参考人のTが動き出したと。」


「いきなり何?今は沙南を・・・」


「まあ、黙って聞けっ。俺の話を聞き終わってから、それから沙南をおとりにする事について話し合おう。」


 有無を言わさない浩二の態度に翔平は憮然として黙り込んだ。その時、Tと聞いて、史輝が苦しそうに顔を歪めた事に翔平は気づかなかった。


「Tは、翔平が巻き込まれているドラッグ事件にも関わっているんだ。さっき上司に、夕方押収した手紙の分析の結果、史輝のヤマと俺のヤマは繋がっていたことがはっきりしたと言われた。」


 意外な話の展開に翔平は驚いたが、状況を掴むまでは黙っていようと決めていたので、そのまま浩二の話に集中した。


「俺たちチームは、この3カ月近くTを追っていた。Tは、史輝のヤマではドラッグの密売に関わっているが、俺のヤマでは裏賭博に関わっている。俺たちのチームのがほんとうに追っているのは裏賭博の組織と胴元だ。こいつはものすごく切れる奴で賭場を開いても絶対に痕跡を残さない。裏賭博は必ず胴元が有利になるように仕組まれている、つまり完全な八百長なのだが、それを賭けている者に気づかれないように巧みにやるので、奴の賭場の人気が衰える事は、これまでなかった。奴は、八百長を仕組むために手駒を使う。そのひとりとして動かされているのが、Tだ。胴元は絶対自分からは動かない。だから、胴元を追い詰めるためには手駒から攻めるしかないんだ。」


「・・・他にも手駒はいるんだろう?なんでTを追うことにしたの?」


 翔平が聞くと、浩二は顔を歪めて自嘲気味に笑った。


「Tが警察関係者だからだ。」


「えっ・・・」


「胴元の奴は、自分を追い詰める事が出来ない俺たちを嘲笑うかのように、手駒に警察の者を使ったんだ。ここまでバカにされて黙っていられるかっ。胴元に警察を手駒に使った事を後悔させてやる。」


 浩二は語気を荒げて吐き捨てるように言った。


「浩二、落ち着け。」


 たしなめるような史輝のことばに、浩二は気持ちを鎮めようと深く息を吐いてから、話しを続けた。


「俺たちは、何とかTのしっぽを掴みたいんだが、敵もさる者、さすがに胴元が見込んだだけの事はあって、なかなかしっぽを掴ませてくれない。Tは本当にうまく立ち回っていて、失敗がなかったんだ、これまでは。」


 浩二が、翔平を見て笑った。


 はぁっ?なに、その微笑みは?浩二さん、キモいんだけど・・・・


「ところが、だ。今回、Tは初めて失敗した。友だち思いの女の子4人組が、Tの思惑に反して、手紙をすり替えてくれたおかげでね。翔平は、ほんとラッキーだったな。お前、運が強いよ。それに、奈々美って子は、Tの指示に反して、Tがドラッグ以外の悪事に関わっている事を匂わせるようなことを手紙に書いてあったらしい。それで、史輝と俺のヤマが繋がっている事がわかったと上司は言ったんだ。」


 ああ、そういうことか。


 それを聞いて翔平は、心底から優衣たちに感謝した。


「本当なら、今日、翔平がドラッグ所持で逮捕されて、史輝のヤマはジ・エンドだった。お前がどんなに冤罪を主張しても証拠がある以上、どうにもならない。まあ、お前の主張を握り潰す事が朝飯前のとこにTはいるわけだし。翔平も史輝も奈落の底に落とされていただろう。そして、俺のヤマは、またまた胴元にチェックメイトできずにうやむやになって、振り出しに戻るとこだったんだ。

 ところが、予定外のことが起きたものだから、TもTが駒として使っている奴も、そして、裏賭博の胴元も慌てた。どちらにとっても拙い状況になったからな。とりわけ完璧主義者の胴元には許し難い事だ。

 それで、Tは、胴元から最後通牒を突きつけられた。つまり、すぐにでも何とかしなければお前を切るって言われたわけだ。Tにとって胴元から切り捨てられる事は身の破滅を意味する。これまでの手駒がそうだったから。胴元は手駒を切り捨てる時には徹底してやる。おそらくTが警察を追放されるくらいの爆弾を落とす用意をしていると思う。それが何かはわからないが、Tも胴元がそのつもりだってことはわかっているはずだ。」


 翔平は、浩二の話につばをごくりと唾を呑んだ。


 Tというのが誰のことかは、わからないけど、そいつが駒として使っているのは、あのサングラスの男だよな。俺にも少しずつわかってきた。


「Tは焦ったと思う。人間って焦ると、どんなに冷静で落ち度のない人でもボロが出るんだ。俺は、そこにつけ入ろうと考えた。

サングラスの男は、明日の朝、奈々美が沙南に会うように仕向けたのは、おそらくTだ。奈々美が自分が考えて陥れるターゲットを勝手に変えるとは考えにくいからな。それを利用させてもらう。」

「利用するって?」


 翔平が聞いた。


「・・・・・沙南が翔平をくどいて、直接、奈々美から手紙を貰うようにしたって情報をある筋を通してTに流す。それと同時にTが使っている駒を確保する。そしたら、Tは、自分で動くしかないからな。もうすでにTの使える駒は全部抑えた。だから・・・」


 浩二の話の途中で史輝が、がばっと立ち上がった。


「やっぱり危険すぎる。高校生がおとりだなんて。それに、今の話じゃ翔平だけじゃなく、沙南にまで危険が及ぶってことだ。」


 翔平は息を呑んだ。


 そうだ。浩二さんのシナリオどおりに動いたら沙南が危険になるんだ。それはごめんだ。俺がおとりになるのは、全然構わないけど、沙南を巻き込むのは絶対嫌だ。


「俺もいやです。沙南を巻き込むのは、やめて下さい。」


「翔平。俺は、この1年、ずっと胴元をそして3か月前からはTを追ってきた。さっきも話したように、奴らは頭がよくて絶対しっぽを出さない。それが、今度の失敗からTのしっぽを掴めそうなんだ。こんなチャンス、もう二度とないだろう。   

それに、お前は、沙南ちゃんを巻き込みたくないって言っているけど、彼女はすでに巻き込まれているよ。沙南ちゃんは、すでにあてゴマとして利用されようとしているんだ。一度捉えたターゲットをそのままにするほど奴らはおめでたくはない。沙南ちゃんが事情を知っていようが知っていまいが関係ないんだ。奴らは沙南ちゃんは事情を知っている人間として認識してしまった。お前の言うとおりにしたって、別の機会に沙南ちゃんが狙われるだけだ。」


「それでも、みすみす沙南が危険な目にあうのを黙ってみてるなんて嫌だっ。」


 俺は、思わずいすから立ち上がり、声を荒げて言った。


「落ち着け、翔平。」


 浩二は、静かにそう言って翔平を制した。浩二は、大きく深呼吸をすると太くしっかりした声で言った。


「翔平、今、奴らの思惑に反してこちらが行動すれば、奴らを逃がしてしまう確率が圧倒的に高くなってしまう。そうしたら、奴らは自分たちのヤマに関わっている人間を排除する事を始めるだろう。奴らは渦中の者に一切容赦しない。お前も、沙南ちゃんもいずれ明日以上に危険な目に合う事になるんだ。お前がどんなに沙南ちゃんを守りたいって思っても、何日も、しかも24時間体制で守る事なんて物理的に無理だ。だから、明日、予定通りに行動して、その上で奴らの裏をかくしかないんだ。頼む、翔平、俺に協力してくれ。」


 浩二は悲痛を帯びた顔で翔平に頭を下げた。翔平の心は千路に乱れていた。沙南を危険な目に合わせたくはないのに、事態はそれを許さない。


 このまま浩二さんの言うとおりにしていいのか?ほんとうにそれが最良なのか?


 翔平は迷った。翔平が迷っているのを察知したかのように浩二はたたみかけた。


「翔平も沙南ちゃんも俺と史輝が必ず守る。それに、もう、Tを追って応援部隊も動き出してる。ふたりを危険な目には合わせない。だから協力してくれ。」


 史輝は、それまで目を閉じてふたりの話を聞いていたが、思いつめたように目を開くと、翔平を見て言った。


「翔平、浩二の言うとおりだと思う。お前も沙南も絶対守るから、おとりを引き受けてくれ。俺もそれしかないんだと、思う。」


 史輝の目に苦悩の色が見える。史輝がどれだけ悩み、迷って、今のことばを言ったのか、翔平にはよくわかった。


 兄貴は、悩んだ末に浩二さんの計画に乗るって決めたんだ。それなら俺も覚悟をきめる。


「・・・・・わかった。」


 翔平は、決意をこめてそう返事した。


 もし、兄貴たちが助けることができなくても、いざとなったら、沙南は俺が守る。


「兄貴、浩二さん、明日は俺にできることを精いっぱいやるよ。俺ももう、こんな理不尽なことは早く終わりにしたい。沙南に何かあったらと思うと、俺は耐えられない。頼む、俺の事はどうでもいい。沙南は・・・沙南だけは、絶対守るって約束してくれ。」


 翔平のことばに史輝も浩二も頷いた。


「ありがとう、翔平。頼むよ。」


 浩二が頭を下げた。


「うん、わかった・・・ところで浩二さん、Tって、誰ですか?俺の知っている人なんですか?」


 史輝がぴくっと肩を震わせた。浩二も気まずそうに史輝をちらっと見た。

 

 さっきから、兄貴は何か様子が変だ。Tって、兄貴となにか関係がある人なのだろうか?


 浩二が言いよどんでいると、史輝が決心したように口を開いた。


「翔平・・・Tっていうのは、高原さんだ。」


 えっ、高原さんって、兄貴の上司の?うそだろっ!!


 言った後の史輝は苦しんでいるように見えた。その顔がそれが事実である事を告げていた。


 ほんとなんだ。兄貴・・・


 翔平は、史輝の苦しい胸中を知って辛かった。


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