気になるあいつ(翔平のつぶやき)
最近、俺の中で何かモヤモヤっとして、説明のできない感情が渦まくことがある。
そんな時、決まってあいつのことが絡んでいるんだよな。
ずっと、チビの時から一緒で兄弟みたいに思ってきた。ずっと、あいつが傍にいるのがあたり前って思っていたんだよな、俺。
それがあたり前じゃないって気づかされたのは、同じテニス部で親友の一平が、あいつに告白するって聞いた時からだ。
一平はいいヤツで、俺も信頼している。一平になら何でも話せる。きっと一平も俺のことそんな風に思ってくれていると思う。
だから、一平は、あいつのことを俺に相談してきたんだよな。
「今度、大会に向けて全部活合同の激励会があるだろ?その時にさ、俺、香村に自分の気持ち伝えようって思ってるんだ。で、翔平に頼みたいことがあるんだ。香村をさ、呼び出して欲しいんだ。ここに。」
部活が終わった部室で、翔平は頭をかきかき照れたように笑ってそう言った。
“気持ちを伝える”と“香村”が俺の耳に入ってきた時、なんだろう?胸がチクリとした。
この気持ちは・・・って考える間もなく、耳まで真っ赤になりながら頼んできた一平が目に入って、俺は思わず頷いていた。
「あぁ・・・うん、わかった。サナギをここに呼び出せばいいんだな。」
「うん、頼む!!」
一平が俺に頭を下げた。
照れてはにかむ一平の顔を見て、親友のために一肌脱ぐのが男気なんだって、わけのわからない感情がよぎってしまい、さっき、胸にチクリと棘のようなものが刺さったのを忘れてしまっていた。
いや、刺さった棘を胸の奥に無理矢理しまったのかもしれない。
「でもさ、香村って、何で、サナギって呼ばれてるんだ?」
唐突に一平が尋ねてきた。
「えっ、さぁ、なんでだったんだろ?覚えてないな。小学校のころに・・・いつの間にか・・・って、なんでそんなこと聞くんだ?」
「そりゃ、知りたいからにきまってるじゃないか。香村のことなら何でも知っておきたいんだ。だから、翔平が知っていること教えろよ?どんなくだらねぇことでもいいんだ。香村のことなら。」
そのことばを聞いて、一平が本当に沙南を好きなんだって気持ちが俺にも伝わった。
マジなんだな。一平。
でも、なんでだろう。素直に喜べない。
なんでだろう・・・?
俺が自分のモヤモヤで悩んでいる時に、あいつは、火に油を注いでんのかってくらい、くだらない話を持ってくる。
それは、手紙だったり、プレゼントだったり。あいつの口から直接聞いたこともあったっけ。
全部、俺への告白。
あいつからじゃない。
別の、ぜんっぜん知らない、興味もない女たちからの。
なんだって、あいつはそんな話を俺に持ってくるんだ。たまには、断れっつうの!
まぁ、本当にあいつからの告白なら、聞いてやらないでもないけど・・・って、ホントか?
俺、何考えてんだ?
あいつからの告白なら、俺OKなのか・・・?
「ああ!!わかんねぇ、自分の気持ち。ずっと傍にいたから。これまでも、これからだって、俺の隣にあいつがいるのが当たり前だって思っていたから。それが兄弟みたいな感情なのか、それとも別のものなのか・・・」
だけど、俺の迷いを薄笑うかのように、時間だけは刻々と過ぎていく。
来週は、激励会だ。
あいつに一平のこと、伝えないと。
会ってくれって。
はぁ、俺もサナギと変わんねえや。
いくら一平の頼みでも断ればいいだろ。別に俺がサナギと一平の告白のお膳立てなんかすることないのに。
俺の中のこのモヤモヤした気持ちがなんなのか、自分でもまだはっきりしていないのに。はっきりしないうちに、俺、あいつのこと、手放せるのか?
そんな時だった。
あいつが、汗だくになって俺のところにやってきた。
話があるって言う。
ちょうどいい。
俺もアイツに話がある。
いつものように茶化しながら、裏門での待ち合わせを取り付けた。
一平からの伝言を伝えなきゃならないのは憂鬱だけど、あいつと帰るの久しぶりだな。
なんだか心がはずむ。早く部活終わらねぇかな。