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ふたつのヤマ2

「史輝、これから話すことはトップシークレットだ。絶対、誰にも漏らさないでくれ。本当は、話すべきかどうか迷うとこなんだが、お前の話を聞いて俺は確信した。きっと、お前のヤマと俺のヤマはつながっている。」


 思いがけない浩二の話に史輝は体を固くした。史輝は、浩二から何でもいいから必要な情報を得られればそれでいいと思っていた。それなのに史輝の思惑に反して話がでかくなりそうだった。


「お前のヤマ?何だよ、それは?」


「・・・・・・・・。」


 思わせぶりなことを言ったのに、浩二は史輝の問いに答えなかった。史輝は苛立った。


 浩二は何かを知っている。それを聞き出さないと俺は前に進めない。史輝はそう考えて浩二をせっついた。


「浩二、俺は、俺の知っている事を全部お前に話した。もし、お前が俺の話を信じて、俺に協力してくれるならお前の知っている事を教えてくれ。頼む。」


 史輝は浩二に頭を下げた。

 

 浩二はしばらく何かを思案しているようだったが、はあっと、一回ため息をついて重い口を開いた。


「俺のチームは、今、テニスの県大会に絡んだ裏賭博を探っている。」


「裏賭博・・・?」


「そうだ。今まではプロのスポーツを対象に裏賭博を仕切っていた胴元が、こともあろうに、今度は県内の高校テニス大会の優勝チームを予想する賭博をしてるんだ。それも、結構一般人も巻き込んで大がかりに。」


 突然の展開に史輝は唖然とした。浩二の話は自分の追っているドラッグとは何の関係もない話に思えた。翔平の事を考えると時間がない。それなのに浩二はいきなり何を言い出すのかと訝った。


 浩二には史輝の焦りが手に取るようにわかった。だが、史輝には自分の話を聞いてもらわなければいけない。浩二の追っている裏賭博のヤマは、絶対にドラッグの事件と繋がっているはずなのだ。今度こそ、あの忌々しい胴元に手錠をかけたい。自分も史輝に協力しようと思った。だから史輝にも自分に協力してもらう。弟とともに。


「掛け金は、ネットの裏サイトからパソコンでも携帯でも賭ける事ができるようになっている。掛け率もそのサイトで見ることができる。俺たちはその賭けサイトを突き止めて賭けの胴元を割り出そうとするんだけど、いつも、あと少しってとこで気づかれてサイトを閉鎖されるんだ。胴元は、また、新しいサイトを開いて賭けを続行する・・・。

いたちごっこさ。胴元は、そうとう頭の切れる奴だ。うまく警察の網をくぐって裏賭博を堂々と続けているんだからな。最近の掛け率では、お前の弟の学校が1番人気だ。まあ、去年も優勝して全国でもベスト8に入る強豪校だから当然だよな。」


「・・・・・・・・」


 史輝は、浩二の話を無言で聞いていた。話すことばが見つからなかった。


「史輝、ここからが大事だ。」


 浩二は、深く息を吸って、そしてゆっくりはいた。


「おかしいとは思わないか?賭け賭博で1番人気の学校のキャプテンで、且つ勝敗の要になる生徒がドラッグをやっているって情報が警察に入る。それも、大会の1週間前にだ。もし、これが事実だとしたら、新聞沙汰の不祥事でお前の弟の学校は出場停止だ。1番人気の学校が出場しないとなったら大穴がでる確率、大だ。おまけに、2番人気の学校のテニス部のレギュラー数名が交通事故にあって怪我をした。事故にあった全員が全治1ヶ月で、大会には出られない。」


「おいっ!浩二、これって・・・。」


 浩二の話に史輝ははっと息の呑んだ。


 何てことだ・・・。裏賭博なんてことが行われていて、その賭けゴマにされてるのが翔平のチームだなんて。


 驚いて声も出ない史輝にたたみかける様に、にやっと笑って浩二は話を続けた。


「もう1つ面白い情報だ。裏賭博への参加は昨日で締め切りだ。警察に察知されるのを恐れてすでにサイトも閉鎖している。電話での掛け率変更や賭け校変更も、もうできない。昨日までのかけ率でテニス大会の裏賭博は実施されることになる。つまり、もし、お前の弟がドラッグ容疑で捕まったら、1番人気、2番人気が出場できない状況で賭けが開始されるんだ。大穴に賭けた奴は、笑いが止まらなくなるだろうな。こんな偶然、あると思うか?」


「・・・・・・・・・・」


 史輝は何も言えなかった。自分の追っていたヤマと浩二の追っているヤマがこんな形で繋がるなんて思いもしなかった。


「それからな史輝、俺は、さっき鑑識に行ってお前の課には内緒でお前の弟の所から押収されたアメの成分分析結果を聞いてきた。」


「えっ、何でお前が?そう・・だ。何でお前がアメのことを知っているんだ?俺がお前にアメの事を話したのはほんの少し前だ。翔平からアメを押収した事は、まだ内々にしか分からない情報だぞ。」


 史輝は不思議だった。浩二は、史輝たちのヤマを知りすぎている。まるで、同じように“スイートドロップ”のヤマを追いかけているみたいだ。


 史輝の問いに、浩二は、またにやっと笑った。


「俺んとこのボスは、裏賭博の胴元の影に警察の内部事情に詳しい奴が絡んでいるとふんでいる。」


「内通者がいるって・・・ことか?」


「あぁ。そう考えなければ腑に落ちないことが多すぎるんだよ、俺のヤマは。どんなにチームで代わる代わる一般人のギャンブラーを装ってサイトにアクセスしても、こっちが胴元の影を掴もうとすると、サイトが閉鎖する。携帯でも繋がらなくなる。それはもう、こっちの状況が筒抜けになっていると思わざるを得ないくらいに。そこで、俺のボスは、内通者の存在を洗い出すべくトラップをはった。すると、そのトラップにひとりだけヒットしたんだ。」


「誰なんだ、そいつは?」


 史輝はごくりと唾を飲んだ。浩二は相変わらず少し口角を上げて薄笑いをしていた。


「俺たちはヒットした奴が内通者としての確証を得るために、裏賭博を追う班と内通者を追う班に分かれて捜査を開始した。俺は、内通者を追う班なんだ。」


 浩二は一呼吸、間をおいて、それから話を続けた。


「俺たち内通班のターゲットを調べていると、今回の“スイートドロップ”の件が絡んできた。で、今日はそのターゲットが鑑識にアメの成分分析を依頼してるってんで、それとな~くアメの出所とか、アメを押収した経緯なんかを調べたわけ。」


 史輝にはどうしても腑に落ちないことがあった。いや、心の中にある疑いを無意識に打ち消そうとしていたのかもしれない。それでも疑いは膨らんでいく・・・


「浩二・・・話してくれるなら、教えて欲しい。お前の追っているターゲットって、誰だ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 浩二は、じっと史輝を見てしばらくは口を開こうとしなかった。史輝は、自分が想像したことを否定したくて、もう一度浩二に聞いた。


「浩二、頼む、教えてくれ。誰なんだ、お前の追っているターゲットは?」


「・・・・・・お前んとこの高原さんだ。」


 史輝は、自分の否定したい事を浩二に言いあてられて一瞬足元がぐらつく感じがした。


 高原さんが・・・裏賭博の内通者・・・だって?

うそだ!

そんなこと、あるわけないっ!!


 史輝は信じたくなかった。今の部署に配属されてからずっと高原さんの指導を受けてきた。高原さんは、史輝の中で一番信頼し尊敬できる上司だった。その高原さんが裏賭博に関わっているなんて考えたくもなかった。しかも、浩二の話からすると自分たちの追っているヤマにも高原さんは、犯人側で関わっているかもしれないということになる。自分たちは犯人の指揮で動いていたというのか。そんな滑稽な事、あり得ない!


「浩二・・・、もし、お前の話がでたらめだったら、俺、お前を許さないぞ!」


 史輝は震える拳をぎゅっと握って、自分の怒りを抑えていた。


「お前が・・・そんなリアクション取るだろうって思ったから、俺は話すべきか迷ったんだ。」


 ふうっと一息はいて浩二は呟いた。浩二の目は真剣だった。浩二が嘘をついているようには見えなかった。


「すまない・・・取り乱して。お前の話を100%信じたわけじゃないけど、とにかく、お前が知っていることを正確に俺に伝えているんだって事は、信じるよ。」


「うん・・・。それが、今のお前には精一杯だな。」


 生ぬるい風がふたりを包んだ。纏わりつく風は鬱陶しかったが、史輝は、今、ようやく事件の全貌が見え始めてきたのを感じ取っていた。


 とにかく、今の情報を持って翔平のところに行こう。もし・・・翔平を嵌めようとしているのが高原さんなら・・・いや、ありえない。そんなこと、絶対にあり得ない。


 だけど・・・・・・・、1%でも疑いがあるとしたら、俺は、兄として、翔平には十分気をつけるように言わなければいけない。それが、兄貴として俺が翔平にしてやれることなんだから。


 ・・・・・・・・・・・・・


 警察が敵って知ったら・・・翔平は・・・俺のことも軽蔑するだろうか・・・?


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