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ふたつのヤマ1

 今回は、翔平のために兄の指揮が奮闘します。事件の輪郭も見えてきていよいよ佳境にはいる・・・かな?

 でも、事件のこともドラッグのことも素人の頭で考えたものなので、多少のつじつまの合わなさは許してください。

 史輝は、署に戻ると急いで親友の須藤浩二すどうこうじの所に向かった。浩二は情報収集が得意で、警察内部の事情にも詳しかった。浩二には情報収集の巧さを買われての内密の任務もあるようだったが、詳しい事は敢えて聞かないようにしていた。


 浩二なら今回の件について何か手がかりになることを知っているかもしれない。


 史輝は、内心では翔平がドラッグに関係しているなんて思ってはいなかった。けっして身贔屓しているからではない。翔平の性格が法に触れることを絶対に受け付けない事を兄として知っているからだ。

それに、翔平はテニスが好きで、寝ても覚めてもテニス、テニスで、他の事に興味を持つなんて考えられないくらいのテニスバカだった。弟のあまりにもテニス一色の生活に、正直、女にも興味がないのかと兄として心配するくらいだった。


 そんな翔平がどうしてドラッグに興味もつというのだ。お袋の話では、学校のある日は、いつも夜7時半には帰宅して、朝は早朝練習に間に合わせて6時に家を出る。帰宅後は、風呂に入って飯食って、ちょこっと勉強したらぐっすり眠って朝まで起きないらしい。たまにお使いを頼んでも拒否で、めったに外に出ない。学校でも真面目で素行も良く気になる所はないと担任から言われたとお袋が親父に話していたのはつい先週の事だ。土日も基本テニス中心の生活だ。たまに遊びに行くのだって、だいたいテニス部の友だちか、幼なじみの沙南くらい・・・。


 まったく面白味がないくらい翔平の行動は、普通のスポーツバカの高校生のそれだった。翔平の日常にはドラッグとの接点が全然ない。それなのにどうして上は翔平が関わっているってことを確信してるような行動をとっているんだろうか?


 確かに翔平の言うとおり、冷静に考えたらおかしい。史輝が全く知らない処で翔平が黒だと証明できるような核心的な情報があるとしたら話は別だが、今の状況では何か目に見えない大きな力がこの事件を故意に動かしているみたいだ。


 史輝があれやこれやと考えているうちに浩二のいる課に着いた。


「失礼します。須藤巡査部長、いますか?」


「おう、相沢、お前がここに来るなんて珍しい。どうしたんだ?」


 浩二が奥のデスクから手を振った。史輝が浩二に手を振って目くばせをすると、浩二は軽くうなずいて席を立った。


「少し休憩してコーヒー飲んできます。」


 軽い口調でそう言うと浩二は部屋を出てきた。


「ちょっと外に出るか。」


 浩二はそう言ってろう下の隅の自動販売機でコーヒーを買うと、さっさと玄関から外に出た。史輝も同じようにコーヒーを買って浩二の後に続いた。


 ふたりは署を出てから裏の方へ回った。ふたりだけで情報のやり取りをする時はいつもここだ。ここなら滅多に人は通らない。しかも塀の裏は、あまり売れない中古車の販売店になっていてやっぱり人の気配がない。秘密の情報交換をするにはうってつけの場所なのだ。


 浩二は、塀にもたれながら缶コーヒーを開けると一口飲んだ。


「で、どうしたんだ。弟のことか?」


 浩二が単刀直入に聞いてきた。


 相変わらずだな浩二は。もう翔平のこと耳に入っているんだ。


「あぁ、知っているなら話が早い。浩二・・・俺、まだ冷静な状況判断ができないでいるんだ。翔平の事だからじゃない。今回のヤマは、身内が容疑者だからと俺にはあまり情報が入ってこないんだ。でも、どう考えても腑に落ちない点がいくつかある。翔平が容疑者だってことも俺には信じられない。あいつはテニスバカでテニスに命かけてるのかってくらいテニスに打ち込んでいる。そんな奴が自分のテニス人生を潰すかもしれないドラッグなんかに関わりを持つとはどうしても思えないんだ。でも、もしも・・・もしもだぞ。万が一弟が黒だとしたら、俺は俺で、覚悟を決める。だけど、その前にきちんと白黒つけられるだけの情報を得たい。だから自分が知っていることとお前が知っていることを照らし合わせて状況を整理したい。浩二・・・協力してくれるか?」


「・・・・・・お前の知っていることは?先にそれを聞かないと俺が協力できるかわからない。」


 ポーカーフェイスのままコーヒーを一口飲んで浩二が言った。史輝は無表情の浩二を一瞥するとため息をついた。


 浩二が手放しで俺に協力するとは思っていなかった。だけどこうして事務的なくらい感情なく条件を出されると、自分の甘さを突きつけられた気がする。俺は、親友だからと浩二に甘えようと思っていたんだ。だが、浩二には浩二の立場がある。俺に協力できるかどうかは俺の話を聞いて判断しようと考えるのは非情でも何でもない。当たり前のことだ。これは賭けだ。俺の話に浩二がのってくるのを信じるしかない。


 史輝はごくりと唾を飲み込むと決心したように口を開いた。


「最近、“スイートドロップ”というドラッグが中高生の間で出回り始めている。見た目がアメ玉みたいだから中高生も警戒心が弱くなるらしい。実際、アメだっていって食べさせられた後常習化している子もいる。ドラッグとしては比較的弱い方だから、1~2回食べたくらいじゃ常習化はしない。でも即効性が高いから、食べた後、結構すぐに気分がハイになって落ち込んだ気分が吹っ飛ぶんだそうだ。それが中高生たちには快感になるらしい。だからそれがきっかけで、もう1回、もう1回と食べて、気がついたら抜け出せなくなっているってパターンが」ほとんどだ。」


「・・・・・“スイートドロップ”のことは俺も知っている。お前がそれを追いかけている事も。・・・・・続けて」


 浩二は淡々とそう言うと、飲み終わった缶を握りつぶしてゴミ箱に放り込んだ。史輝は無言で頷いた。


「最近、市内で“スイートドロップ”を捌いている奴がやっとしっぽを出して、うちの課で包囲網を狭めていたとこなんだ。でも、まだ証拠が不十分だから逮捕できないでいるんだ。一応、見張りがついた状況で泳がせている。高原さんがこのヤマを指揮していて、俺たちが掴んだネタは一旦高原さんに集まることになっている。今朝、高原さんからの緊急招集を受けて課に行ったら、確かな筋からの情報だと、翔平が“スイートドロップ”を自分の学校で売り捌いているって聞いたんだ・・・。」


「高原さんはその情報をどこから手に入れたんだ?」


「それが・・・教えてくれないんだ。俺は容疑者に近すぎるから教えることはできないって。」


 史輝は悔しそうに顔を歪めた。


「まあ、そうだろうな。他に話す事は?」


 浩二が話の先を促したので、史輝は自分の感情を押し殺してふたたび口を開いた。


「高原さん話では、翔平は、今日、学校で買い手に“スイートドロップ”を渡すことになっていたようだ。“スイートドロップ”は、封筒に入っていて一見しては中身が確認できないようになっているから、渡す前にその封筒を押収しようってことになった。そして今朝・・・翔平が学校で捌く前に家で現物を押収した・・・わけだ。だけど、“スイートドロップ”と一緒に入っていると言われていた中学校での売り捌き先の個名リストが押収物からは発見されなかった。」


「じゃあ封筒には、“スイートドロップ”だけ入っていたって事か?」


「いや、手紙が入っていたんだけど・・・それは、個名リストなんかじゃなくって弟への・・・ラブレターだったんだ。」


「はぁ?なんだ、それ、そのラブレターが暗号になっているってことはないのか?」


「いいや、その形跡はまったくなかった。ただのラブレターだったよ。もちろん、鑑識でもいろいろ調べてもらった。でも、どんなに調べてもリストといえるものは何も見つからなかった。」


「なるほどな・・・それを聞いて鑑識からの報告に納得がいった。」


 浩二が大きく頷いた。史輝は浩二のことばに目を剥いた。

 

 合点がいかない。一体どういう事だ?


「浩二、お前が言っている事が理解できないんだけど。何だよ?鑑識からの報告って?」


 史輝は浩二に問い質した。浩二は、史輝をじっと見て、それから硬い表情で話し始めた。


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