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見えてきた真実2

 しばらく翔平と一平の様子を観察していた海斗が口を開いた。


「・・・・・今朝あったこと、俺らにも話してくれるか?」


 海斗に頷くと、翔平は今朝の事をふたりに話した。






「翔平の話だと、警察は・・・翔平がもらった手紙の中から・・・アメ玉を取り出して、それを・・・“スイートドロップ”だって言って・・・持って行ったんだよね?」


 優衣が、ひと言ずつ確かめるように聞いてきた。


「あぁ、そうだ。沙南からの手紙と一緒に入っていたアメ玉をドラッグだって言って・・・鑑識に回すって、持って行ったんだ。」


 翔平の話を聞きながら、優衣は親指を噛んで眉間にしわを寄せていた。沙南からいつも聞かされていた考え事をする時の優衣の癖だ。


「優衣?どうしたんだよ黙っっちゃって。優衣らしく・・・」


 心配そうに海斗が話しかけると、海斗が話し終わらないうちに優衣が遮って言った。


「そう・・・翔平が持っていた手紙は、沙南からの手紙。そうだよ、あの手紙っ、すり替えたんだから、翔平大丈夫だよ。たとえ警察が念入りに漏れなくくまなく手紙を調べたって何にも出てこないからっ!」


 優衣は翔平の手を握ると嬉しそうにそう言った。


「はぁ?優衣、何言い出すんだよ?」


 優衣のことばに海斗が驚いて言った。他のみんなも驚いて優衣を見た。


「だって・・・あの手紙は、最初の手紙とは違うものなんだもん。沙南が翔平にあげようとした手紙を、私ら・・・私と羽瑠と亜由美と郁美でね、別のとすり替えた。」


 はい?


別のって・・・何?


 男三人、まったくわけがわからなかった。


「どういうことだよ?意味わかんないんだけど?」


 一平が鼻と鼻がくっつくくらい顔を寄せて優衣に詰め寄った。


 い、一平、近っ!優衣に接近しすぎだろっ。


 さすがに翔平は慌てた。優衣は、思わず後ずさりをした。


「一平、近いだろっ!もっと優衣から離れろよっ。」


 海斗が慌ててふたりの間に割って入った。優衣を一平から隠すようにして海斗は一平を睨みつけていた。


 海斗と優衣って・・・そういう関係?


 翔平が目を丸くしていると、海斗がはっとして、優衣を無理やり下がらせて一平との距離をあけると自分も離れて座った。海斗の顔は真っ赤だった。耳まで真っ赤になった海斗は憮然とした表情で腕組みをして座っていた。


 海斗だけではない。優衣も顔はにへっと緩んでいるが、ゆでダコみたいに真っ赤だった。普段はクールなイメージの優衣の意外な一面を見た気がした。


「何だよ。俺は別にお前らふたりの仲を邪魔なんかする気はないぞ。今はそれどころじゃないだろ?」


 一平が海斗に詰め寄った。


「ふ、ふたりの仲って、俺は、そんな気ないしっ。」


 うわっ、海斗、そんなこと言っていいのか・・・?って、ほらっ!優衣の顔が・・・


「そんな気ないって・・・・どんな気がないっていうの・・・?」


 優衣が弱々しく言うのを聞いて海斗は慌てて優衣の手を握った。


「ち、ちがっ!そんな気ないって言ったのは、ことばのあやでっ、俺は、俺は、ちゃんと優衣のこと、好きだからっ。」


「っ!!!!!!」




-------------------------



 ちょっとの間、四人とも無言だった。海斗は可哀そうなくらい、赤くなったり、青くなったりしていた。優衣はとうとう泣き出す始末。一平は天井を仰いでため息をついた。


 翔平は海斗が羨ましかった。海斗にとっては思いがけないハプニングだったかもしれないが結果は上々。優衣も海斗のこと好きみたいだから、お互いに好きなんだって確かめあえたのだ。純粋に自分もそうなれたらと思った。


「はあっ、優衣・・・俺が悪かったよ。謝るからさっ。泣くのをやめてさっきの話、もっとちゃんと説明してくれないか?海斗とのことは・・・この話が終わったら、ふたりでゆっくり話してくれよ。今度は邪魔しないからさ。海斗もさ、今は翔平のことだけを考えないか。」


 一平はふたりに向かって頭を下げた。自分のためにここまでしてくれる一平に翔平は心の中で感謝した。

 

 一平のことばを聞いて、すんと鼻をかむと、さっきの涙は何だったんだって思うくらいいつものクールな優衣に戻っていた。


「沙南はさ、翔平に手紙を渡した日、奈々美から手紙を預かっていたんだ。私らは、って、剣道部の私と・・・」


「だぁぁっ!わかってるからっ。“私ら”って説明はいいから、先続けてっ」


 一平が優衣の話を遮って急かした。


「う、うん・・・わかった。私らはずっと前から沙南のおせっかいにはほとほと呆れていたんだよね。だから、どうせ渡すなら自分の手紙を渡させようって決めて、そうした。」


「自分の手紙って?」


 一平が聞いた。


「沙南の手紙だよ。私らさ、五人集まって自分の好きな人に手紙書いたんだよね。この前のゴールデンウィークに。」


 そんなことしてたのかよ。それじゃ沙南はその時に俺への手紙書いたっての?


 翔平は無意識にポケットに手をつっこんだ。


 カサッ


 そっと手紙にふれてみる。これは、紛れもなく沙南の書いた手紙なんだ。それから俺は、優衣のことばを頭の中で繰り返した。

『沙南の手紙・・・・自分の好きな人に手紙書いたんだ・・・』

 好きな人って、俺のことだよな。一平じゃなく・・・


「ごめん、優衣。俺よくわかってない・・・もう少し、俺にもわかるように話して?」


 海斗のことばに、翔平はハッと我にかえった。一平の気持ちも考えずにひとりで盛り上がりそうになった自分が恥ずかしかった。翔平はポケットから手を出すと、自分を戒めるようにぎゅっときつく握った。


「はぁっ、しょうがないなぁ。も一回、はじめから説明するよ?ちゃん、聞いていて!いい?」


 優衣は三人をぎろっと睨んだ。優衣に睨まれて三人とも慌てて頷いた。


「この前のゴールデンウィークに好きな人のこと思って詩を書いて手紙にした。ここまではわかった?」


「「「うん」」」


「その手紙は高校の思い出にしようって決めて、羽瑠がみんなのをまとめて持っていたの。そのうちタイムカプセルみたいなことしようかって事になってたから。そしたらこの前、いつものおせっかいで沙南が奈々美が書いた翔平への手紙預かってきちゃったんだよね。で、翔平にその手紙を渡すって言うから、四人で相談して奈々美の手紙とゴールデンウィークに書いた沙南の手紙をすり替えたわけ。ここまでもOK?」


 優衣が一々確かめるように馬鹿丁寧に話をするので翔平は少し苛立っていた。一気に話してほしい。どうやら他のふたりも同じように思っていたようだった。


「「「わかったから、先続けて!!」」」


 三人の剣幕にさすがの優衣も怯んで話を続けた。


「普通にすり替えたんなら沙南も気づくでしょ?だから、沙南が気づかないように封筒も奈々美のと同じにしてアメも入れた。二つの手紙を見比べてもどっちがどっちかわかんないくらいだったから、沙南もすり替えたのに気づかないで自分の手紙を翔平に渡したってわけ。」


 女って、俺には考えもつかないことをするんだな。同じ封筒を用意したりアメ入れたりって手間ひまかけてまで手紙すり替えるなんて、恐れ入ったよ。


 翔平は唖然とした。一平と海斗も同じ思いに違いない。ふたりとも口を半開きにして目を丸くしている。


「翔平、私らに感謝しなよ。翔平が貰った手紙は、正真正銘、沙南が書いた手紙だからアメも本物のアメ。手紙をすり替えた日に買ってきたものだから、“スイートドロップ”なんかじゃない。」


「「「!!!!!!」」」


「じゃあ、警察が持って行ったのは、ただのアメ?」


 一平が確かめるように聞いた。


「そういうこと!だって、奈々美の手紙は、今、郁美が持っているんだもん。警察がこの部屋どんなに捜したって、“スイートドロップ”なんか見つかんないよ。」


「優衣、えらい!」


 海斗はそう叫んでから、はっと、ドアの方を見ると慌てて口を押さえた。


 海斗だけじゃない。俺だって優衣に感謝したい。まあ、優衣だけじゃないけど。剣道部の四人のおかげで俺は犯罪者の烙印を押されないですみそうだ。


 翔平は、少し心が晴れた気がした。まだ状況が好転したわけではないが、少し光が見えてきた。


 優衣の話と翔平の話をすり合わせたおかげで四人は少しずつ翔平が巻き込まれてしまっている事件の輪郭が見えてきたことを感じていた。


これからどうするかをみんなで考えていた時、部屋のドアの外が騒がしくなった。部屋の外で話し声がする。ろう下から聞こえてくる声にはっとして、翔平たちは聞き耳を立てた。


「・・・・・では、自分は、これで署に帰ります。」


「ご苦労様。あとは、こっちで引き継ぐから。」


 史輝の声だ。


 史輝が帰ってきた。


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