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もつれる思い

本編からは少し外れた内容になっています。読まなくても本編に影響はないかと思いますが、沙南と一平のその後と羽瑠の恋心が綴られているで、読んでくださると嬉しいです。

 奈々美と男が去るのを待って、優衣は学校へと戻った。さっきの2人の話を整理すると翔平は何かきな臭い事件に巻き込まれてるようだ。


 だから激励会に来られなかったんだ。でも、沙南のことが気になって、兄貴に頼んで外に出してもらってテニス部に来たって、そういうことなんだよね?私がテニス部見た時、翔平は部室の外にいた。あれが部室に向かい途中だったとしたら、翔平がまだ部室にいる確率は高い。奈々美と男の会話を翔平に伝えに行こう。


 優衣が学校に戻ると、テニス部の部室前にはもう誰もいなかった。念のために近づいて中の様子を確かめたけど、やっぱり誰もいなかった。


「はあ、遅かったみたい。どうしよう?すぐに翔平の家に行くべき?それともみんなに相談するべき?」


 優衣はしばらく迷っていたが、道場に向かうことにした。


 今度のことはひとりでは抱えきれない。やっぱりみんなに相談しよう。


 優衣が道場に着くと、窓越しに亜由美と郁美の姿が見えた。4人ともまだ道場にいると確信した優衣は、急いで玄関にまわった。


「沙南、亜由美、郁美、羽瑠、大変だよ。」


 優衣は、道場に入るなり叫んだ。道場にいたのは、亜由美と郁美だけだった。沙南と羽瑠の姿が見えない。


 ふたりとも更衣室にいるの?


 優衣は、道場に座り込んでいる2人はほっといて、更衣室のドアを開けた。しかし、そこには誰もいなかった。

 

「亜由美、郁美、沙南と羽瑠は?」


「「・・・・・・・・・・・・」」


 ?

 返事がない。亜由美も郁美も無言のまま、うなだれていた。


 優衣は、2人の異変に気がついて眉をひそめた。


 ぐすっ、ずっ、ぐすっ


 ふたりは、泣いていた。優衣は、急いで2人のそばに行ってふたりの肩を抱きしめた。


「どうしたの?ねえ、何があったの?」


 ふたりが泣いているのにさっきのことが関係しているのかと思い、優衣は胸がざわざわするのを抑えられなかった。もしかしたら、翔平が警察に連行されたのかと思い、優衣はふたりからの返事を待った。


「優衣~。羽瑠が、羽瑠が壊れた!」


 と、亜由美が的外れなことを言い始めた。


「はぁぁ~?壊れたって、どういうことよ?」


「うん、それがさ・・・・・・・・・・・」


 2人は、かわるがわる一平が沙南に抱きつくまでのことを説明してくれた。そして、沙南が一平の気持ちには応えられないと言って部室を飛び出したことも話してくれた。

優衣は、目を覆いたくなった。どうしてこんなややこしい事になっているのだろうか?

沙南が一平を振ったのは当然のことだろう。だが、羽瑠は・・・羽瑠は一平に片思いしていた。羽瑠は自分の切ない恋心を隠して沙南の恋を応援していたのだ。それなのに、自分が好きな相手が、こともあろうにその親友に告白するところを目撃したのだ。羽瑠の心はどれだけの傷を負ったのだろうか。羽瑠が傷つき泣いている様子が頭に浮かんで、優衣の目頭が熱くなった。


「で、羽瑠は?」


 震えと憤りを含んだ優衣の問いに2人は、びくっと肩を震わした。2人とも、ごくりとつばを飲み込んで、大きく息を吐いた。それから、亜由美、郁美、亜由美、郁美の順でかわるがわる話し始めた。


「羽瑠が・・・」

「部室にとっ、飛び込んで・・・」

「そして・・・一平を思いっきり、ぐーで」

「なぐっちゃった。」


 っ!


 優衣は、息をのんでふたりが話を続けるのを待った。2人はお互いの顔を見合わせると大きく頷いて話を続けた。


「「羽瑠がその場で泣き出して、」」

「「一平に『好きなのに』って言った。」」


 羽瑠は、どんな気持ちで一平に自分の思いを伝えたのだろう。羽瑠の切ない、狂おしい胸の内を慮って、優衣の目から一筋涙がこぼれた。


「で、一平は?」


 優衣は、嗚咽を抑えて聞いた。


「今は、こたえられないって・・・」


 話す郁美の声が消えそうになる。


 そうか・・・そうだよね。一平だって沙南に振られたばっかりで、羽瑠の気持ちに応えることなんて、できないよね。


「亜由美、郁美、お願いがある。」


 優衣は、ふたりを見つめながらそう切り出した。いつもの優衣ではない緊迫感に、ふたりは慌てて居ずまいを正した。


「な、なに?」


「ふたりは、羽瑠を慰めて。本当は、私も一緒にいたいんだけど、そうもいかないわけがあって。」


「「わけ?」」


 優衣は、さっき聞いた奈々美と男の会話を簡単に説明した。ふたりは現実離れした話に目を丸くしたが、剣道部で一番冷静な優衣が真剣な顔をして話すことを1ミリも疑う気はなかった。


「わかった。羽瑠のことはまかせて。」


 亜由美が自分の胸をとんと叩いてほほ笑んだ。


「ついでに沙南のフォローもしておくから。」


 立ち上がりながら郁美が言った。


 ふたりの心強いことばに優衣は大きく頷いて笑った。


 亜由美と郁美を頼るわけにはいかなくなった。ふたりには大切な役目をしてもらう。もちろん、沙南や羽瑠を頼ることもできない。翔平のことは自分一人で何とかしなければいけない。優衣は、気を緩めると尻込みしそうになる自分を叱咤して道場を後にした。


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