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思わぬ展開

沙南と祥平のために優衣が活躍します。優衣、怖い思いしながらも頑張りました。

「まったく、あの3人ときたら!私に片づけ押しつけて、自分たちはさっさと覗き見しに行っちゃって。」


 優衣は、今にも湯気が出そうな顔をして体育館から出てきた。結局、剣道部割り当ての片づけは、海斗に押し付けてきたのだから、優衣が3人を怒るのは筋違いというものであるが、あえてそれには触れないようにしたい。


「早く行かないと、いいとこ見逃しちゃう!」


 優衣は、小走りで部室長屋へと急いだ。部室長屋が見えるところまで行くと、優衣は、ぴたっと足を止めた。優衣の目にぞっとするほど険しい表情をした奈々美が飛び込んできたからだ。


「奈々美・・・?何を見ているの?しかも、物凄いこわい顔して。」


 優衣は、自分だけ聞こえる声で呟きながら、奈々美が見ている方向に目を向けた。奈々美の視線の先には、テニス部の部室を覗きこんでいる羽瑠と亜由美と郁美がいた。


 あいつらってば!私だけ仲間はずれしようなんて、そうは問屋がおろさないんだから。


 優衣が3人を見て、自分が部室長屋に何をしに来たのかを思い出してそこへ行こうとすると、風に乗って奈々美の呟き声が届いてきた。


「なんで・・・?なんで、翔平が外にいるの?」


 へっ、翔平?どこどこ?


 優衣は、また自分の目的を忘れて、きょろきょろと奈々美の視線の先を探した。


 翔平は、学校と道路を区切る網の向こう側にいた。


 優衣は不思議だった。テニス部の部室で沙南と会っているはずの翔平が、なぜ網の向こうにいるのか。


 優衣が眉をひそめて思案顔をしていると、優衣の度肝を抜くような科白が奈々美から飛び出した。

「翔平は、なぜここにいるの?警察に捕まっているはずなのに、どうして?まさか・・・私らのことがばれたんじゃないよね?」


 えっ、どういうこと?


 普段の奈々美からは想像もつかないきな臭い科白に、優衣は反射的に奈々美に見られないように部室長屋の壁の陰に隠れた。


 優衣は、奈々美が呟いた科白のひと言ひと言を思い返していた。


 胸騒ぎがした。奈々美は、ミステリ小説やドラマでしか馴染みのない言葉をさらっと言っていなかっただろうか?


『翔平は、なぜここにいるの?』とは、翔平はここにいられるはずがないってことだよね。それから奈々美はなんて言っていただろうか・・・


 そうだ。『警察に捕まっているはずなのに』って言っていた。警察に捕まるって、翔平がだよね?どうして?


『どうして?』って奈々美も同じことを。そして、『私らのことばれたんじゃ・・・』と。


 それって、奈々美以外にも関わっている人間がいて、ばれたら困ることをしているってことだ。


 胸がどきどきする。怖い・・・。足が地面から切り離されてしまったかのように足元が覚束ない。優衣が軽くパニックになりかけていると、奈々美の苦々しい声が聞こえた。


「それに、なんでテニス部の前に剣道部の余分3姉妹がいるのよ?これじゃ、テニス部に近づけないじゃない!!」


 よ、余分3姉妹?“塩分、糖分、脂肪”ってこと?そんな昔のCM持ち出して何てことを。そりゃ、そう言われても仕方ないかなってとこは、あるけどさ・・・あの3人。

 

 いやいやいや、今は、そんなおふざけにつっこみ入れている場合ではない。


 優衣がふるふると頭をふって邪念を振り払っていると、奈々美はさっときびすを返して裏門から出て行った。奈々美の口が動いた。


「これじゃ、計画は実行できない。あの人に相談して仕切りなおさなくちゃ。」


 風が味方をしてくれていると優衣は思った。それまで凪いでいたのに、まるではかったかのように一陣の風が通り過ぎ、奈々美の呟きを優衣の所まで運んでくれた。


 何かある。


 優衣は、思い切って奈々美の後をつけることにした。





 奈々美は考え事をしているらしく、優衣の尾行にまったく気づかなかった。奈々美は、急ぎ足で学校近くの坂を下ると公園のほうへ左折した。優衣は、奈々美を見失なわないように急ぎ足で曲がり角まで来ると、そっと公園のほうを覗いた。

 

 奈々美は、公園のところに止まっている黒いセダンのところに駆け寄っていった。車には、黒いサングラスをかけた30歳くらいの男が乗っていた。

 

 奈々美は、硬い表情でサングラスの男としゃべていた。優衣の位置からはふたりの会話を聞くことはできなかった。


 どうにかして2人の話を聞くことができないだろうか。


 優衣は、かりっと爪を噛みながら考えた。優衣が身を潜めている角の家は、幸い?にも留守のようだった。もし無断侵入を咎められれば、目に涙をためて適当な言い訳をすればいい。優衣は、覚悟を決めて堂々と入っていった。


 足音をたてないように、だけど早足で公園に面した塀に近づいた。


 ぱきっと踏んだ小枝が折れる音がして、はっと立ち止まった。だが、それ以上の物音も人の声も聞こえない。心臓が口からせり出しそうになる。手も足も自分のものではないように勝手に震えていた。汗がほほを伝って顎への滑り落ちる。


 ごくりと唾を飲み込むと再び塀を目指した。その間わずかに数分も経っていなかったはずだが、優衣には1時間以上かかった気がした。ようやく塀に辿り着き、そろっと身を乗り出して外をのぞくと、奈々美はまだ男と話をしていた。さっきよりも距離が近くなったので、ぽつりぽつりと話し声が聞こえてきた。優衣は、慎重に耳をすまして2人の会話に耳を傾けた。


「“スイートドロップ”は、相沢のロッカーに入れられたか?」


 男が低く脅すように尋ねる。


 優衣は、男の凄味のある声に、絶対あの男のそばには近寄らないでおこうと固く心に誓った。


「ううん、無理だった。邪魔が入って。」


 短く必要なことだけを答える奈々美の声には、張り詰めた緊張感が漂っていた。


「邪魔?それで何もせず戻ってきたのか、お前は。これはお遊びではないんだぞ。わかっているのか!」


 こ、怖すぎる。あの男、もしかして・・・やのつく人?


 優衣は、もし見つかったらとんでもない事になると本能で感じて、微動だにしなかった。もしかしたら、反射的に息を止めていたかもしれない。


「あ、明日。明日の朝、みんなが来る前にちゃんと仕込んでおくから。や、約束する。信じて。」


 奈々美、声が上擦っている。


「ほんとだな?」


 男の有無も言わさない声に奈々美は震え上がった。


 優衣も怖かった。かたかたと小刻みに震える手を口にあてて、無意識にでも声を出さないように必死に口を抑えていた。


「も、もちろん。明日になれば、部室からも証拠品が見つかれば、翔平は終わりだよ。もちろん、うちのテニス部も。大会どころじゃなくなるって。」


 上擦った奈々美の声が緊張を伝えていた。


「いいだろう。明日まで待とう。でも、しくじったら、わかってるな?」


 相変わらずドスのきいた男の低い声。


「わ、わかってるよ。そ、それよりさっき、翔平が外を歩いていたのを見たんだけど、あいつ警察に捕まったんじゃないの?」


 !!!


 奈々美の話に優衣はいっそう、耳をダンボにした。


「ふん、仕方ないさ。あのガキを監視してるの、そいつの兄貴だからな。身内には、どうしても甘くなるんだろうよ。」


「なに、それ。警察がそんなんで、いいの?」


 奈々美が嘲るように笑った。男の声がすこし柔らかくなったせいか、奈々美の声はさっきより落ち着いていた。


「いいんだよ、今はな。ガキの逮捕と一緒に兄貴も警察を追放される予定だから。」


「くくっ、翔平も兄貴もかわいそうに。」


 奈々美の意地の悪そうな笑い声に優衣は怒りを覚えた。


 それにしても、ふたりの会話は現実離れしていた。その内容は優衣にたくさんの疑問を抱かせた。


 なぜ翔平が警察に捕まらなければならないのか?しかも翔平の兄まで警察を追放になるという。そして、奈々美と話していた男は何者なのか?奈々美が言った“スイートドロップ”とは、いったい何なのか?

 

 いったい、翔平は、どんな事件に巻き込まれているの?沙南は?沙南は、このこと知っているのだろうか?それより何より、あの2人の告白はどうなったの?


 思わぬ展開に、優衣の頭はショート寸前になっていた。


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