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会いたい

 翔平は、お互いの気持ちが通じ合っている事を確認するように、沙南の手紙を何度も読み返した。その手紙が、自分をわけのわからない事件に巻き込んでいる事ことは、すっかり忘れていた。


 沙南に会いたい。


 会って、直接、沙南から聞きたい。


 俺が好きなんだって。


 そして、俺も沙南に自分の気持ちを伝えたい。


 今、沙南は、学校の激励会にいる。きっと、バーベキューを楽しんで・・・


 そこで翔平は思考を止めた。


 ちがう!


 翔平は、ベットから飛び起きた。言いようのない焦りと不安が胸を覆った。


 沙南は・・・


 沙南は、もしかしたら、テニス部に行ってる頃か?


 テニス部では、一平が待っている。沙南に告白するために。

 

 そのお膳立ては、俺がしたんだ。


 もし、沙南が一平の告白、受け入れたら・・・


 いやいや、それは・・・ないだろ?だって、沙南は俺を好きなんだし。

 

 でも・・・

 

 でも、もし、沙南が一平の気持ちにぐらっときたら・・・?沙南はまだ俺も沙南を好きだってことは知らない。一平はいいヤツだし、一平が本気だってわかったら、沙南だって気持ちが動くかも知れない。


 そんなのいやだ!


 沙南が一平とつき合うなんて、絶対、阻止しないと!それだけは、認められない!


 一平、悪い。沙南はだめだ。沙南だけは、渡さない。たとえ親友のお前にでも。


 沙南は俺のものだ!!


「一平より先に俺の気持ちを沙南に伝えなきゃ。」


 翔平は、後先考えずに急いで部屋から二階のろうかに出た。ろう下には誰もいなかった。だから翔平は、自分が軟禁されている事をすっかり忘れていた。


 階段を下りようとして、慌てて立ち止まった。


「ご苦労様です。息子は、二階です。」


 母の美里の声だ。その声が翔平を現実に引き戻した。


「失礼します。上がらせていただきます。相沢刑事たちは、一旦署に戻りました。代わりに自分たちが翔平君の監視をします。」


 玄関で警官の声がして、家の中に入って来るのがわかった。


 まずい。部屋から出ているのを見られたら、ややこしいことになる。


 翔平は、急いで部屋に戻った。


 俺、軟禁状態だっけ。しばらくは、部屋から出れないんだった。

 

 くそっ!


 自分の現実を認識して舌打ちした。


 どうする?兄貴もしばらくは、おとなしくしとけって言ってたし。兄貴から連絡あるまで待ってたほうがいいんだよな?


 でも・・・こうしているうちに一平が沙南に告白するかもしれない。


 そう考えると、翔平はいてもたってもいられなかった。


 俺は、沙南のほうが大事。何とか、部屋から抜け出さないと。


 翔平が部屋をうろうろしながら考えていると、トントンとドアをたたく音がした。翔平は、音立てないように素早くベットにもぐりこむと寝たふりをした。


 かちゃっ


 ドアが開いて、警官が部屋をのぞきこむ。


 薄手の掛け布団を頭からかぶって警官に背を向けている翔平を警官がじっと見ているのがわかった。背中に冷たい視線を感じてタヌキ寝入りがばれたかと身震いしたが、翔平が動く気配がないのを見届けて警官はそっとドアを閉めた。


「翔平君、寝ているみたいですね。」


 ドアの外で話し声がする。


「はぁ・・・、き、今日は、いろいろあったので、息子も疲れたのかもしれないです

ね・・・。皆さんにも、ご苦労をおかけします。あとで、飲み物をお持ちします。」


 トントントンと、美里が階段を下りる音を聞きながら、翔平は静かに起き上がった。


 とにかく、ここから抜け出すことを考えようと翔平は思った。


 そっとベッドを下りて音を立てずにドアに近づき外の気配を窺った。すぐ近くには気配を感じない。美里が監視のためにと用意した椅子は階段よりに2つ並んで置かれていた。警官は、そこに座っているのかもしれない。


 チャンスだ。あの椅子の位置ならうまくやれば、部屋の中の動きは察知されにくいはずだ。


 翔平はそう確信すると、部屋中のクッションやら毛布やらを集めてベットの上で人の形を作ると、上から布団をかぶせた。


 翔平は、こっそり遊びに行く時のアリバイ工作がこんな時に役に立つなんて思いもしなかった。


 たまには夜遊びもやってみるもんだな。

 

 翔平はにやっと笑って作業を続けた。いつもなら5分もかからない作業のはずなのに、部屋の外の警官に気づかれないように動いているので、何倍もの時間がかかった。


 すでに1時間が経ってしまったような気がした。額からは汗がふき出している。やっと納得のいる形になってふうっと一息をついた。遠目にみるとベットで人が眠っているようにしか見えない。


 よし!


 翔平は、満足してうなずくと、机の上の出窓を開けて、そっと頭を出してあたりを見回した。


 だれもいない。さすがに、家の周りで張り込みみたいなことはしてないらしい。音を立てずに窓から出て、横にあった排水溝のパイプにしがみつくと、ゆっくりと窓を閉めた。片手で排水溝につかまりながら、もう片方の手で音を立てずに窓を閉めるのは至難の業だった。だが、今日の翔平はそんな作業も難なくこなしていく。


 これって、恋の力?沙南に会って、一平よりも先に自分の気持ち伝えようとしている俺は、今、世界で最強かも。何でもやれる気がする。


 そう思うと力が湧いてきた。翔平は慎重にパイプにつかまって、そろりそろりと下に降りた。


 翔平の部屋の向いは空き地になっている。普段は、ほとんど人も通らず空き地の周りはちょっと高めの塀で囲まれていたので外から見えにくい。そのおかげで翔平は、脱出を誰にも見咎められずに成功させた。


 空き地を出ると、人に会わないように気をつけながら学校に向かった。学校までは15分。


 間に合うだろうか?


 弱気な心が顔をのぞかせる。


 その気持ちを打ち消すように、ぱんぱんと自分のほほを2回叩いて気合を込めた。


 今さらなに言ってんだ。ちゃんと自分の気持ちを沙南に伝えるために、こんな危険おかしているんだろ?きっと、間に合う。きっと、大丈夫だ。


 はやる心を抑えながら翔平は学校へ向った。自然と駆け足になる。


 早く、沙南に会いたい。


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