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好きって・・・言えない

「ねぇ、沙南さな。お願いっ!!一生のお願いだから、きいて。」


 これで何人目の「一生のお願い」を聞いていることかと、沙南はため息をついた。みんな、いいかげん自分で告ってほしい。私が間を取り持ったって、アイツには通じないんだって。どうせ、今回も「またかよ。うぜぇ。」って一蹴されるのがオチなのに。


「あのさ、奈々美。この手紙、翔平しょうへいに・・・渡してもいいけど、期待しないでよ?」

 

 沙南は、奈々美に言い聞かせるようにそう言った。


「うん、いいよ。そのかわり、この手紙は、絶対、渡してよ!」

 

 必死に両手をあわせて懇願する奈々美に、沙南は根負けした。


 もう一度深いため息をついてから、沙南は奈々美から手紙を預かった。預かった手紙は、どんだけ思いをつづったんだか!と思うくらい分厚くて、真ん中がポッコリ膨らんでいる。

 

 まるで、アメ玉か何か入っているみたい。イヤ、奈々美ならアメ入りでもおかしくない。いつも感謝のキモチって言って、沙南にでも誰にでもお菓子くれるから。


「コレ、感謝のキモチ!」

 

 私の心が読まれてる!?って勘違いしそうなノリで、奈々美が棒つきアメをくれた。


「あ、ありがとう・・・」

 

 私が戸惑いながらアメを受け取ると、

「じゃあ、ヨロシク!」

と、手を振ってうれしそうに去っていく奈々美とすれちがいに、羽瑠はるがやってきた。 




 羽瑠は、小学校からずっとつきあってきた親友だ。

 

 誰よりも優しいけど、誰よりもきつい言葉で私をたしなめてくれる。どんだけきつい言葉を言われても、そこに羽瑠の優しさが隠されているのを知っているから、沙南は、いつでも羽瑠の言葉を真摯に受け止めていた。


「また、翔平への告白の手伝い?アンタもいい加減にしなよ。」


 去っていく奈々美に一瞥をくれてから、羽瑠がすっと目を細めて口をとがらせながら話しかけてきた。 

 細まった瞳がゆらっと翳った。

 

 やばい、羽瑠の怒りのボルテージが上がっていく…


「し、しかたないよ。あんなに必死に頼まれたら、こっ、断れないし・・・」

 

 手紙のふちを手でなぞりながら沙南がそうつぶやくと、羽瑠の薄茶色のきれいな瞳が、一気に黒に塗りかえられていく。


「いい加減にしな!いくら翔平が女に興味ないからって、ゲイじゃないんだからね。何度も何度も翔平付きのメッセンジャーよろしく他人の恋の橋渡しばっかして!そのうち翔平好みの子が告ってきたらどうすんの?」

 

 久々の羽瑠の剣幕に、沙南は、ひしっと椅子の背をつかんでのけぞった。こっ、こわっ・・・本気の怒りモード100%越えの羽瑠は、やっぱり怖い。


「えっ、それはそれで・・・」

 

 羽瑠に気圧された沙南がシドロモドロになって手をすり合わせていると、


「本っ当に、いいわけ?アイツに彼女ができても沙南は平気?」


鼻と鼻が触れるかってくらい、ぐうっと沙南に近づいた羽瑠は、そう言い放った。


「しょ、翔平に彼女・・・翔平、に…彼女…」

 

 沙南が、壊れたレコーダーのように繰り返しつぶやいていると、


「アンタはねぇ!ほんっとに意気地がないんだから。いい加減、自分の気持ちにちゃんと向き合いなよ。」


 羽瑠に痛いほど強い力で両腕をつかまれて迫られた沙南は、あたまが真っ白になって何も言えなかった。 

 羽瑠の目が答えを求めているのは、沙南にだって痛いほどよくわかった。羽瑠が、沙南のためにこんなきつい言葉を浴びせかけているのだって、よっく、よっく、わかっていた。


 でも・・・今さら自分の性格をそんなに簡単に変えられるなら、沙南だってこんなに苦しい思いなんかしてないのだ。

 

 誰が好き好んで自分の好きな人へ、他人が書いたラブレターを届けるというのだ。

 

 こんな自分を一番嫌悪しているのは自分なんだって、沙南は心の奥底で叫んでいた。

 

 それでも、言葉になってでてくるのは、ほんとに陳腐な台詞だけ。ほんと、自分が嫌になる。


「えへっ。そんな、分かんないよ、自分の気持ちがどうなのかって。翔平は・・・幼なじみで、兄弟みたいだし。男の子が苦手な私が遠慮なく何でも言える数少ないヤツだし・・・。」

 

 自分の目に浮かぶホントの気持ちを羽瑠に悟られたくたくて、沙南は、下を向きながらそう言った。


「はアぁぁぁ。もういいよ、沙南。」

 

 羽瑠は大げさに肩を落として、沙南をつかんでいた手を離した。

 

 羽瑠の瞳は、まだ沙南に何か言いたげにしていた。

 

 それでも、羽瑠と目を合わせることを避けるように下を向く沙南を見て、羽瑠の瞳は、いつもの薄茶色に戻っていた。

 

 沙南は、預かった手紙と羽瑠をこっそりと見比べながら、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか分かんなくて困ってしまった。


「イイって、沙南。いまどきの子にはめずらしいくらい恋愛に奥手なのも沙南のいいとこなんだから。」

 

 羽瑠は、沙南の肩をポンっとたたくと、半分あきらめまじりの笑顔でそう言った。

 

 本当は・・・自分の気持ちをまっすぐに翔平にぶつけたいと沙南は思った。

 

 でもその気持ちとは裏腹に翔平との関係を壊したくない自分がいるのも事実だった。


 今のままでいいんだって、心のどこかで納得している自分がいる。


 翔平に自分の気持ちを伝えてふられたら、もう、今までのようにはいられない。


 やりたくもない翔平へのラブレター配達人をしていて、そんな子いっぱい見てきた。


 もし、勇気を出してぶつかって、自分も彼女たちと同じ扱うを受けたら?


「そんなの、イヤだ!」

 

 沙南は、思わず叫んでしまっていた。


 私の声に羽瑠も周りもびっくり。目を大きく見開いたクラス中のみんなが、沙南を見ていた。


「イヤ・・ちょっと、寝ぼけてて・・・テストで0点取る夢を思い出しちゃた。ゴメン。寝言・・・」

 

 私は、真っ赤になって、周りに頭を下げながら言い訳した。


「サナギ~。目ぇ開けたまま寝てんじゃねぇヨ!」

 

 男子たちから、からかいのヤジがとぶ。女の子たちからはクスクス笑いが漏れる。そんな中で、羽瑠だけは、笑っていなかった。


 ごめん、羽瑠。


 私、まだ言えない。


 私だって、最近、ようやく自分が翔平を好きなんだって、気づいたんだから。


 だから、まだ勇気がない。


 でも、いつかは・・・ちゃんと言うから。


 それまで、待ってて。


 はじめて投稿します。はじめは、こてこての学園恋愛モノ?って感じで始まりますが、途中から事件がからんできて、主人公たちがなかなか二人きりになれません。未熟な展開になると思いますが、読んでいただけたら嬉しいです。

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