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おうい  作者: まがりまめ
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04

 「タカー、もういいだろ?」

 週があけた昼休み。やはり一人で行くのは躊躇われ、晴太をさそって墓へと出向くことにした。途中、道端に生えていた花(名前は知らないけど、この季節によく見かける)を二、三本つみとり、墓につくと墓前にそなえ、まずはお参りとしゃれこむ。墓は二つで、学校の創設者とその妻のものだった。洋風の墓石に英語で何か書いてある。

「うん、ちょっと待って」

 もしかして、香川さんって創設者だったとか?ふとそう思い墓銘を見たが違っていた。熱心に墓を見ている俺の視界の隅に、晴太がぶらぶらとつまらなさそうにしているのが映る。

「おー、タカ、これ見ろよ」

 と思ったら、軽く小突かれた。何だ、と彼を見ると「ほら」と墓所の隅を指差した。

「for creaturesだって。動物用の墓だ」

「何で動物用の墓があるんだ?」

 首をかしげた俺に、晴太は、

「実験で使った蛙とか、そんなののための慰霊碑だろ」

とさも当然という風に答えた。

「ああ、なるほど」

「俺がこの前解剖した奴も、ここにまつられてるってワケか」

 茶化すように笑う晴太を、無言でバシンと叩く。

「ちゃんと手、合わせろよ」

「なんだ、いやに道徳的な態度だな」

「蛙一匹でもちゃんと生きてるんだぞ」

「はいはい。本当、タカってそうゆう所きちんとしてるよな」

 軽口をたたきながらも手を合わせる晴太に、俺は密かに笑いかけた。確かに命は尊いものだと思っているが、今はわけが違う。先週の香川さんの話から、何かに呪われるという話は本当にありうると分かったのだ。動物にだって、もしかしたら呪われるかもしれない。

 晴太が「もういいだろ」と目を開けたので、教室に戻ることにした。午後一番の授業は英語、きっと睡魔におそわれるだろう。しかし、あそこに墓がなかったとなると、一体何処から死体はやってくるのだろうか。学校から一番近い墓場と言ったら、創設者の所を除いては少し遠くにしかない。校内ならまだしも、公共の道を死体が歩いていたらきっとかなり目立ってしまう。

「(もしかしたら、体の一部だけかもしれない)」

 明治時代の死体が完全に残っているというのも怪しい話だ。アダムズ・ファミリーみたいに、手だけが図書室を訪問しているのかも。足だけ、というのもありうる。これだと暗闇の中で影に隠れつつ移動していたらきっと目につかないだろう。ちらりと見えても、猫か犬ぐらいにしか思わないだろうし・・・いや、犬はないかな。

 とりあえず、墓はなかったと香川さんに報告しなければならない。


 六時過ぎ、俺は書庫で香川さんのとり憑いた本をかかえ座り込んでいた。

「確かに来るんですよね?」

「ああ、来る。すぐ近くだ」

「近くって、具体的にどことは分かりませんか?」

「分らんよ。僕はここから動けないのだから」

「そうですか・・・」

 死体が来るのは、図書室の扉の前ではないのかもしれない。よく考えれば、書庫の窓の外のほうが、距離的には近いのだ。

「うーん、どこにあるのかなあ」

「そこらへんに埋められてるとかは?」

「ありうるなあ。もしかしたらきちんとした墓は建ててもらってないかもしれん」

「何でですか?」

「だって、凶器が押収されずにここにあるのだよ?それなら、死体は隠されてしまって事件は隠蔽された可能性が高い」

「そんな」

 もしそうだったら骨が見つかりでもすると大問題になる。きっと新聞ぐらいには載るだろうな。でも、きっともう犯人も亡くなっている。

「・・・香川さん」

 突然ふと、俺は妙案を思い付いた。何故、今まで思いつかなかったのだろう。

「もしかしたら体、ここに呼び寄せられるかもしれません」

「何!?本当か?」

「あくまで、もしかしたらですけど」

 月の初めの三日の内のどの日かに、図書室の鍵という鍵を全て開けておけばよいのだ。そうすればきっと、体は香川さんに会えるはず。

「もし体がここに来れない理由が、鍵がかかってるからだったらの話ですけどね」

「おお、それは名案だ!」

「今日は三十日だから、明日体は来るはずですよね」

「そうだ、一、二、三日に来る」

「なら明日、俺が帰りに鍵をあけておきます」

 それで解決するなら万万歳だ。話している内にだんだんと絶対に上手くいくような気がしてきた。それは香川さんも同じようで、

「そうなったら、君とお別れになるかもなあ」

としみじみと言う。

「ああ、でも上手くいかなかったらどうしようか」

「大丈夫ですよ、きっと」

「そうかな」

「ええ」

 ポンポンと軽く本の表紙をたたくと彼は安心したのかいつもの調子を取り戻し、

「では、明日はぜひ頼んだよ、六角君。さあ、今日はもう帰りなさい」

と気取って言った。

「はい、それではさようなら」

 俺も挨拶すると、また本棚の奥に本をつっこんだ。制服についた埃を払いながら書庫から出ると、いつもの通りに戸締りをして図書室から出て行った。


 「怪談?」

 二月一日。昨日香川さんと約束したとおり、俺は図書室の鍵という鍵を全てあけてきた。香川さんに別れを告げ(彼は別れ所ではなく、早く体に会いたいといった様子だった)図書室を出ると、ちょうど部活帰りの晴太に出くわし、只今一緒に帰宅中だ。

「そ。うちの学校の、なんか聞いたことある?」

 事件から解放された気楽さからか、俺は晴太にそんな事を聞いていた。もし香川さんが原因のものがあれば面白いと思ったのだ。晴太は少し考えたあと、ああとうなずく。

「そう言えば、先輩が前何か言ってた気がする」

「何て?」

「えーっとな、たしか・・・ああ、何か夜中に廊下からコツコツいう音が聞こえるとかなんとか」

「コツコツ?」

 もしかしたら、それは香川さんの体のことだろうか。

「なんでも人の足音じゃないそうだ」

 頭にぱっと、手の骨が廊下を疾走する映像がうかんだ。やっぱり香川さんの体は上から下まで完全にあるわけではないのかもしれない。

「でも、急にどうしたよ。タカ、そんな話好きだっけ?」

「ううん、ちょっと思いついただけ」

「・・・もしかして、話聞いた、とか?」

 急に晴太が声のトーンを落とした。

「は?何の事だ?」

「とぼけるなよ。なんだ、知られちゃってたか」

 ぺろりと舌を出した晴太を見つめ、俺は首をかしげた。

「何の事?」

「だから、知らないふりはいいって。じゃあ三日の夜、七時教室集合な」

「は?」

「いやさ、本当はドッキリでお前引き入れようとしたんだけどなあ。まさかばれるとは」

 まあいいか、と欠伸をする晴太に、俺は全くついていけてなかった。三日の夜に、七時に、教室?

「ちょっと待って晴太」

「うん?夜メシは持参な」

「いや、待って。何の話?」

「は?四人で夜集まって泊まりで肝試ししようって・・・まさか、お前」

「知らないよ」

 はあ、と溜息をつく。そんな話、全く知らなかった。最近は香川さんの事で何かと気を取られていたのだ。他の事に気がまわるわけがない。

「あー、やっちまった?俺」

 パシンと右手で頭をたたき、晴太が顔をしかめる。

「やっちまったよ。全然知らなかったよ、そんな計画」

 勘違いと早とちりは晴太の悪い癖だ。

「で、何だって?肝試し?」

 とりあえず全て吐かせてしまえと先を促すと彼は頷いて、彼らのたてていた計画とやらを語りだした。

「はじめは俺と明で学校泊まってみてーみたいな話してて、夜いてもばれなさそうな所を挙げていってたらさあ、出来るんじゃね?ってなって。それで我らが大将の大島京介君に話を持ちかけてみたのですよ。したら、案の定のってくれて、それなら肝試しもしようぜって事になり、タカはドッキリで呼ぼうって事になり」

「まてよ、何でそこで俺はドッキリで呼ぶことになるんだ?」

「えー、だって敬英君真面目っ子だから普通に誘っても参加しないと思って。俺たちなりの配慮ってやつ?」

 あはは、と笑う晴太に俺は力なく笑い返した。よかった、事前に知れて。晴太と明、そして京介の三人が集まったらろくな事はない。個人単位だとけして悪ガキではないのだが、集まればただちに学年随一のトラブルメーカーとなってしまうのだ。そして、いつもそれに巻き込まれてしまう、俺。何を気に入られているのか知らないが、悪事を働く時は必ず「敬英も」という事になる。

「配慮の仕方、間違ってるよ」

 あきれたを通り越して、溜息もでない。

「で、参加するだろ?」

 そんな俺の様子に気づいていないのか、ケロリと晴太は誘いをかける。

「しないよ」

「なんで!?」

「なんででも」

 夜の学校だなんて、怖くてとても泊まれたものではない、と思う。それに先生に見つかったら面倒だ。

「ふん、どうせタカはそう言うと思ってたさ」

「予想がつくならあきらめろよ、馬鹿」

「馬鹿じゃないぞ。こうなることを予想して、プランBがある!」

 どうだ、と自慢気に鼻を鳴らす晴太に、今度は何のリアクションもとれなかった。

「俺にばれる事前提かよ・・・」

 そのぐらい、あきれてしまったのだ。

 結局逃げられないと悟った俺はちゃんと参加すると晴太に約束した。何も準備のない状態でつかまるより良いと思ったのだ。晴太は俺の約束にご機嫌になったらしく、街灯に照らし出された横顔にはにこにことずっと笑みがうかんでいた。


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