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足音

掲載日:2026/07/23

お久しぶりです。くりぃむしちゅぅです。

高校受験のためしばらく投稿を控えていました。

生活も安定し始めたので、今日からまたぼちぼち投稿を再開させていただこうと思います。

それでは、お楽しみください。

小学生の頃、奇妙な体験をした

その頃、私は、路地裏が好きだった

日が当たらない、暗い路地

そこは、私にとっての、憩いの場だった

誰も寄り付かない、不気味で、少し怖い所

路地から見えるのは、ブランコしかない、小さな公園

私は、そこが好きだった

ここにいる間だけは、私は一人で居られる

誰にも侵害されない、私だけの、秘密基地

クラスメイトからの嘲笑も、家族からの冷たい視線も

ここでは全て、忘れられる


「ふーっ」


夏、いつもの通りに、公園でブランコを漕いでいた

その時、私の足元に、猫が現れた

黄色い瞳に、真っ黒な毛

猫は、私の膝に上ってきた


「一人なの?」


猫は、低めの声で鳴いた


「私も、一人なんだ」


首輪は、つけていなかった

それ以降、私だけの憩いの場は、私と猫の、憩いの場になった


「今日ね、サクラちゃんにね、わるぐちを言われたの」


私は、猫に愚痴を吐くようになった


「パパもママもね、わたしの話なんて、聞いてくれないの」


両親にも打ち明けられない、私の愚痴

猫は、黙って聞いてくれた


「じゃあ、明日も来るから」

空が、朱色に染まる頃、私は猫に別れを告げ、家に帰る

私はそれが、憂鬱で仕方なかった


「ただいま」


小学生の頃の私は、その行為が理解できなかった

家に帰ると、父が、母以外の女性と、身体を重ねていた

母は机に突っ伏し、酒を飲むのみだった

誰も、私のことなんて、見てくれない


朝、支度を整え、学校へ向かう

この時間も、憂鬱だった


「あ!ビンボー菌だ!きったねー!」

「あいつ、風呂入ってないらしいぜー!きったねー!」

「近づかないでくれる?ビンボー菌がうつる」


私は『ビンボー菌』らしかった

近づくと、それがうつり、周りの人も、貧乏になるらしかった

教師でさえ、誰も近づかなかった


いつもの通り、路地裏へ向かう

そこに行けば、猫が待っててくれる

その時だった


カタン……


背後で、音がした

私のスニーカーとは違う、硬い音

振り返っても、誰も居なかった

気のせいかと思い、私は路地に入った

また


カタン……


また、音がした


カタン……


どんどん、近づいてくる


カタン……カタン……

音は、近い


カタン……カタン


でも、背後には、誰も居ない


カタン、カタン、カタン


私は、早足になった


カタン、カタンカタン


カタンカタンカタン

カタンカタンカタン

カタンカタンカタン


速い、追いつかれる


カタンカタンカタン

カタンカタンカタン……


公園に入った瞬間、それは止んだ


ニャー


遠くで、猫の声が聞こえた

コンクリートの塀に、猫は乗っていた

私は、さっきあったことを話した

猫は、黙って聞いてくれた


「じゃあ、明日も来るね」


私は猫を撫でて、家に帰ろうとした


その時だった


カタン……


一時間前の、あの音がした


カタン……カタン……

「なんなの……これ……」


背後の音は、止むことがなかった

路地を抜けるまで、その音は止まなかった


「ただいま……」

「だから!俺はあいつの██なんかいらねえの!」

「じゃああの子をどうしろって言うのよ……!そもそも、あなたの███で産まれた子でしょ!?責任持って……育ててよ……」

「うるせえな!お前が産んだのが悪いんだろ!?だから俺は█ろせって言ったんだ!」


私は、言葉の意味がわからなかった

だが、両親が喧嘩をしていることはわかった

学校にも、家にも、居場所はなかった

私のことをわかってくれるのはあの猫だけ


「ふーっ……」


私はまた、路地裏に来てしまった


カタン……


また、だ


カタン、カタン


昨日よりも、速い


カタン、カタンカタン


音が、耳元まで、やってきた


カタンカタンカタン


追いつかれる


ニャー


公園の入口に、猫がいた

猫は、私を見ていなかった


「あっ……」

転んで、しまった


カタンカタンカタン


掴まれる

音が、もうそこまで


カタンカタンカタン

カタンカタンカタン

カタンカタンカタン


シャー!


威嚇

猫が、威嚇した

その瞬間、音が、止んだ


「助けて、くれたの?」


猫は、高い声で鳴いた


「あ……」


猫は、ブランコの隣の茂みから、何かを取り出した

そしてそれを咥え、私の元に寄ってきた


「これ、くつ?」


それは、黒く光る、大きい靴だった


「あ……!」


音の正体が、わかった

猫が靴を離した時の音

靴が、地面に落ちた時の音

思い返せば、父が仕事に行く時、その音を鳴らしていた

それは『革靴』というらしかった

その音が、背後でずっと、鳴っていた

音の正体はわかったが、結局、その後が鳴る原因は、わからなかった


「……じゃあ、帰るね……」


私はランドセルを背負い、公園を出ようとした


「……っ!」


スカートに、猫は噛みついた


「どうしたの?」


猫は、後ろ足で、革靴を指した


「ここから、出ちゃ駄目なの?」


猫は、返事をしなかった


「ごめんね、でも、帰らなきゃ、いけないんだ」


私は猫を撫でて、路地へ駆け出した

その瞬間だった


カタン……


音が、鳴った


「……っ!」


走る、この音から、逃げるためだ


カタンカタンカタン


音は、私についてくる


カタンカタンカタン

カタンカタンカタン

カタンカタンカタン


走る、走る

追いつかれないように、必死に


カタンカタンカタン

カタンカタンカタン

カタンカタンカタン


早く、ここから出ないと


カタンカタンカタン


出口が、近い

もうすぐだ

そう思った、時だった


「……っ!あ゛っ……」


息が、詰まる

息が、できない

首に、圧力がかかる


「う゛っ……あ゛ぁ゛……っ!」


何かに、首を絞められていた

息が、浅くなる

視界が、暗くなる

落ちる


「……っ!」


目が覚めた時、私は、路地の入口に、立っていた

路地を見る

そこには何もなく、ただ暗い、いつもの景色が広がっていた

それ以降、私は路地に寄り付かなくなった

そのまま月日が流れ、十数年の時が経った

度々、思い出す

あの音のことを

あの音は、結局なんだったのか

あの猫は、私に何を伝えたかったのか

久しぶりに、帰郷した

そして今、私の目の前には、あの路地がある

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