何があっても婚約解消出来ないのなら…
ハッピーエンドとは言えませんが、浮気男がざまぁされるお話です。
「わざわざ呼び出して何の用事かと思えば…いい加減にしてくれないかメノア。君の説教はウンザリだよ。」
政略結婚で結ばれた婚約者であるデビット・オロカ侯爵令息とメノア・メビウス侯爵令嬢。この婚約は両家の為に絶対に結ばれなければならないものであり、本人達の意志で解消する事は不可能だった。メノアはデビットに対する愛情は無かったが、婚約者として尊重しようと向き合っていたつもりだ。しかしデビットはメノアの想いを無下にして浮気してばかりだった。メノアは何度もデビットに浮気を止めて欲しいと忠告したが話を聞いて貰えなかった。メノアの父であるメビウス侯爵に相談しても家族への情より家の事を優先するメビウス侯爵はメノアに我慢しろと言うだけだった。デビットの父であるオロカ侯爵も同じく家の利益しか考えておらず、デビットの態度に口出しする事はなかった。
そして現在、メノアはデビットをメビウス侯爵家の応接室に通し、何度目になるかも分からない浮気に対する忠告をしていた。しかしデビットは呆れたように、面倒臭そうにメノアを見るだけで聞く耳を持たない。
「たかが浮気をするくらい何が問題なんだ。そんなに俺が浮気をする事が不満ならもっと魅力的になったらどうだ。」
「…私に魅力がないからと言って浮気をして良い訳ではありません。」
「君以外に忠告する者なんて誰もいないぞ。それはつまり俺の浮気は許されていると言う事ではないのか?」
「…。」
眉を顰めて何も言い返せないメノアに、デビットは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「いい加減に理解しろメノア。俺達の婚約は何があっても絶対に解消出来ない。たかが浮気くらいで一々騒がないでくれよ。」
嘲笑い見下してくるデビットに、メノアは俯いてしまった。デビットはメノアを小気味良さそうに見た後立ち上がり、話は済んだとばかりに帰る準備をしようとしたのだが、
コツコツコツコツ…ブスッ!
小さな足音と共に近づいてきた気配、そして何かが刺さる嫌な音と右足への衝撃に、デビットが視線を下に向けると…
「っ、ぐぁあああっ!!!」
数秒後に遅れて襲ってきた激痛に悶え、デビットは右脚を抱えながら床に仰向けに倒れる。デビットの右太腿には小さな銀色のナイフが突き刺さっており、メノアは痛みに苦しむデビットを静かに見つめていた…。
◇◆◇
デビットはその後、デビットの叫び声を聞いて集まった使用人に介抱された。メビウス侯爵はすぐに専属の医者を呼びデビットの手当てをさせた。デビットの命に別状はなかったが、右脚は神経を傷付けてしまい元の状態に戻る事が出来なくなってしまった。今後は右脚を引き摺りながら過ごす事になるのだろう…。
「…さて、どういう事か説明してもらおうか。」
連絡を受けたオロカ侯爵は数人の護衛を待機させ、デビットと共にソファに座りメノアとメビウス侯爵を睨みつけてきた。メビウス侯爵の方もオロカ侯爵と同様に護衛を待機させ、室内は緊迫感に包まれていた。
「メノア嬢、君がデビットを刺したのは本当か?」
「はい。」
オロカ侯爵の隣で凄い形相で睨見つけてくるデビットを一瞬見た後にメノアは頷いた。メビウス侯爵はそんなメノアを面倒臭そうに見ている。
「…何故そんな事をした。我が息子を傷付けるなんて、どうなるか分かっているのか。」
オロカ侯爵の声に威圧感が込められるが、メノアは全く動じずに口を開いた。
「嫉妬です。」
そして、あっさりとした口調でただ一言話した。
「…嫉妬だと?」
「はい、そうです。」
オロカ侯爵が少し目を見開いてメノアを見た。メビウス侯爵も同じような反応をするだけで2人は何も言わない。
「嫉妬だと…ふ、巫山戯るなよメノア!! そんな下らない理由で俺の脚を刺したと言うのかっ!!?」
刺された本人であるデビットは我慢出来ずに怒りを剥き出しにして、メノアを怒鳴りつけた。
「…お父様もオロカ侯爵もご存知でしょう。デビット様は他の令嬢とばかり遊んでおります。私達は政略結婚の為の縁でしかない。それは分かっておりました。でも、それだけでは割り切れなくて…つい、手を出してしまいました。本当に申し訳ありませんでした。」
メノアはそう言って深く頭を下げた。
「謝罪程度で済まされる事だと思っているのかっ!! 父上、この婚約は破棄しましょう!! そしてこの女を裁判所に突き出し然るべき報いを受けさせましょう!!」
メノアの謝罪を聞いたところで少しも気分が晴れないデビットの怒声だけが響き渡った。侯爵令息が一生消えない傷を負わされたのだ。いくら同位貴族である侯爵令嬢であっても無事では済まない罪を背負う事になるだろう。そして、勿論メビウス侯爵家としても何かしらの責任を負う事になる。
「ですが、私は別にデビット様を殺そうと思っていた訳ではありません。つい、嫉妬心から手を出してしまっただけです。」
「…なんだと?」
だが、メノアは頭を上げると慌てる様子を見せることなく淡々と話した。デビットだけでなく、メビウス侯爵とオロカ侯爵も少し驚いた様子を見せた。
「デビット様の右脚が不自由になってしまう怪我をさせた程度の事なんて、この婚約に何の影響も及ぼしませんよね? 」
「…はぁっ!?」
メノアの主張にデビットは何を言っているんだコイツ…というような怒りと唖然とした気持ちが混じったような声を発した。
「…確かに、何も問題もないな。」
そして、メノアの主張に同意するようにメビウス侯爵も頷いた。デビットは2人の言葉と態度に耐えきれずに再び怒鳴り出した。
「な、何を馬鹿な事をっ、俺は刺されたんだっ!! メノアに危害を加えられたんだぞっ!? 浮気をされた腹いせにだなんて理由で納得出来るものかっ!!」
「デビット様、これはただの事故です。命が脅かされた訳ではありませんし、そんな事で私達の婚約を破棄するだなんて両家にとって大損ですよ。」
メノアの言っている事を理解出来ない、いやしたくないとデビットはオロカ侯爵に助けを求めるように目線を送る。しかしオロカ侯爵はメノアの言葉を否定しないだけでなく、デビットを見る事すらしない。つまり、殺意をもって危害を加えて来ない限り婚約破棄は認めないと言っているのだ。デビットもオロカ侯爵が家の利益ばかりで、息子であるデビットの事を気にかけていない事は分かっていた。けれど、いくら何でもここまで薄情だとは思っていなかったのだろう。デビットは父親への怒りと焦りから冷や汗を流しながらもこの状況を変えようとメノアを睨み付けた。
「命が脅かされた訳じゃないだと?! 凶器をメノアが用意していた時点で俺への殺意があった事への証明になると言えるのではないのか?!!」
「あのナイフは護身用に常に携帯しておりました。何時何が起こるか分かりませんのでね。」
「なっ…!?」
実際にどれ程の令嬢が護身用のアイテムを常備しているかは分からない。けれどドレスや髪留め、扇子に凶器を忍ばせているのは貴族の常識として何もおかしな事では無かった。
「それに、もし私にデビット様に対して殺意があったのならば胸や腹を刺すか、首を狙った筈でしょう。」
「…確かに、その通りだな。」
続くメノアの主張に、オロカ侯爵が同意するように頷いた。デビットは呆然とした後、認めたくないと言わんばかりに首を振る。
「う、五月蝿いっ!! 俺が刺されたのは事実だ!! 傷跡も後遺症もある…そ、そうだ! メノアに刺されたんだと俺自身が世間に公表すれば全て終わりだ!!」
「デビット令息は我が娘に不満があり、どうしても婚約解消したくてそのような嘘をつこうと言うのだな? 浮気相手の中に誰か本命が出来たという事かね?」
デビットの叫びを掻き消すように、メビウス侯爵が話す。まるでデビットが結婚したい相手と結ばれる為にメノアを陥れようとするのか、とでも言うように。
「っ〜、な、馬鹿な事を言わないで頂きたいっ!! 俺は実際にメノアに刺されたんですよ?! メノアだって認めているではないですかっ!!!」
「お前はどこぞの不審者に刺されたんだ。」
次は叫びはオロカ侯爵の声に消されてしまった。
「浮気相手と遊んだ帰り道で1人になった所を襲われたんだ、不運だったな。」
「ま、まさかメノアのした事を隠蔽すると言うのですかっ!!?」
あまりの仕打ちにデビットの声は怒りよりも、悲痛さが含まれている。
「1人で不用心に行動するからそうなるのだ。これからはオロカ侯爵令息としての自覚を持ち、節度ある行動を心掛けろ。そして今後は外出時には護衛をつける事を義務付ける。当然、学園でも護衛を同伴させるようにな。」
「あ、あり得ない…そんな馬鹿なっ……父上、俺はそんな事が言いたい訳ではありませんっ!!!」
オロカ侯爵はデビットの言葉に反応しない。それどころか1人で自由にしていたデビットが悪いとでも言うように流して終わらせてしまった。護衛をつける事だって今後メノアがデビットに危害を加えないように護る為という意味もあるかもしれないが、デビットがメノアの事をバラさない様に監視する為だろう。デビットは必死に現状を変えたくて何かを言おうとしたが、その前にメノアが話しかけてきた。
「片足が不自由になったくらい何だと言うのです? 大丈夫です、貴方の今後は婚約者として私が支えますからね。」
「メノア、貴様ぁぁっ…!」
あたかもデビットを気遣うような口調で話しかけてくるメノアに、デビットはメノアへの憎しみを込めて睨みつける。だがメノアはそんなデビットを気にする事なく微笑んだ。
「“俺達の婚約は何があっても絶対に解消出来ない”、でしたね。」
「…っ!」
それはデビットがメノアに言った言葉だった。
「勿論、私達がお互いを殺そうとすれば罪に問われ解消される事は確認できましたけれど…貴方の浮気も、私の嫉妬による怪我もこの婚約に何の影響も及ぼしませんでしたね。ふふっ…。」
「ま、まさか…。」
微笑むメノアに、デビットは顔を青褪めさせた。
「デビット様。これからは常に護衛の方が貴方の傍におります。だから私がどんなに嫉妬心に駆られても貴方を衝動で傷付けてしまう事はありません。本当に良かったです。」
メノアは、デビットがどんなに浮気をしても婚約破棄されない事を分かった上でメノアの言葉を無視したように、デビットの脚を刺した程度では婚約解消されないと見越したうえでデビットを傷付けたのだとデビットは察した。
「でも、護衛の方が常に一緒となるとデビット様は他の令嬢達と会いづらいかもしれませんね。私としては有難いですけどね、ふふっ。」
「あっ…あぁ…。」
微笑むメノアにデビットは恐怖し震える事しか出来なかった…。
ヒロインの性格が怖くなってしまいました 笑 何があっても婚約破棄されない事を良い事に浮気しまくった駄目令息が、何があっても婚約破棄されない事を逆に利用されて危害を加えられるお話でした。まぁ、一番頭おかしいのは2人の父親だと思いますが 笑 ツッコミどころ満載だと思いますが最後まで読んで頂き有難うございました!! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




