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第六話 六箇条の家訓

 その後、レイナからの剣技魔法の伝授は、そんなに時間は掛からなかった。


 それというのも剣技魔法の種類自体が、そもそも少ないからだった。


 それでもレイナが習得している二十余りの剣技魔法の全てを、俺はしっかりと受け取った。


「レイナ、ありがとう。今はまだどれも俺には扱えないけど、いつか筋力を鍛えたら使わせてもらうよ」


「それでいい。お前だったら悪用することはなさそうだしな」


「もちろんだよ。俺はそんなことはしないさ」


 俺は断言した。


 当然だ。俺は子供の頃から魔力がないのに『アイテムコピー』が使えたせいで、まわりから気味悪がられ、いじめられた側だ。


 『アイテムコピー』の能力は、俺が幼い頃に亡くなった父さんからの遺伝だったらしい。


 俺を女で一つで育ててくれた母さんが言っていたから、間違いない。


 そんな母さんが俺に授けた六箇条がある。


 あなたの能力を悪用してはいけない。楽して儲けようなんて考えてはいけない。


 他人が困るようなことはしてはいけない。人々の助けとなりなさい。


 あなたが思う正義を実行しなさい。そして、あなたの正義を育てなさい、とね。


 最後の意味はまだよくわからない。だけどこれだけは言える。


 俺は、みんなが困るようなことをしたりはしない。


 だから、授けてもらった能力を悪用したりなんて、するわけがないさ。



 ネルヴァが、晴れやかな声で言う。


「さあ、これで全ての魔法を伝授しました。アリオン、これからどうしますか?」


 ネルヴァから振られ、俺はしばし考えた。


 だが俺は、そこでふとあることに気づいた。


「そういえばネルヴァたちが、このダンジョンに入った目的はなんなの?」


 俺の素朴な疑問に、ネルヴァが少し表情を曇らせた。


「ああ、それは、このダンジョンの最下層にいる魔物に囚われた王女様を救い出すことです」


 俺は驚いた。まさかそんな重大な任務の最中だったなんて。


「えっ!?そうだったの?それは大変じゃないか。だったらこんなところでグズグズしていないで、さっさと急がなくちゃいけないんじゃなかったの?」


 ネルヴァは少し困ったような表情を浮かべる。


「ええ、まあ。それはそうなんですけどね」


 うん?何か変だな。どうも乗り気じゃない?


 俺がチラッとレイナを見ると、こちらは思いっきりそっぽを向いている。


 明らかにおかしい、これはもしかして――


 俺はあらためてネルヴァに尋ねた。


「あのう、もしかしてその囚われた王女っていうのは――」


 するとネルヴァは、少々うんざりした表情を浮かべて言った。


「あなたが想像しているとおりの人物だと思いますよ」


 やはりか。


 あの、お姫様か。


 リリーサ・アルト・メリッサ。


 我が祖国、メリッサ王国の第二王女にして、現在俺たちがいるアルト地方の領主でもある。


 別名アルト公爵。


 それはいい。それはいいんだが――


 このお姫様には、さらに別の異名があった。


 それは、『暴虐姫』というものであった。


 なるほどね。そういうことだったか。


「あのリリーサ姫が、この下にいるの?」


 俺の問いに、ネルヴァは少々嫌そうに答えた。


「ええ。いるんです」


「それは大変だ」


「そうなんです。ですからね。我々、あなたに色々と伝授していたんですよ。まあ一種の現実逃避といいますか」


「なるほど。つまりは下に行きたくなかったと」


「そうなんです。ですが、さすがにそろそろ行かないと――いけませんかねえ?」


 ネルヴァは、心底嫌そうであった。


 レイナをふと見ると、やはりずっとそっぽを向いたままだ。


「確かさっき、囚われたって言ったっけ?」


「ええ。言いましたね。確かに」


「それって、攫われたじゃなくて?」


「そうですねえ。攫われたわけじゃないですねえ」


 ふむ、あくまで囚われたのであって攫われたわけじゃない。となると――


「ということは、もしかして?」


 俺の問い掛けにネルヴァは、ふ~~~~~っと深いため息を吐いた。


「ご推察の通り。王女自らが魔物を討伐してやる!と息巻き、親衛隊を引き連れてこのダンジョンに入り込んだそうです」


「つまり、自ら飛び込んだ末に捕まったということか」


「そういうことです。その後に王女の親衛隊の一人が解放され、王国に対して身代金を要求してきましてね。それで我々が派遣されたというわけです」


 なるほどね。


 あの王女様のやりそうなことだ。


 それに確かに囚われの身とはいえ、身代金目当てならば王女様に危害を加えたりはしないだろう。


 だからネルヴァたちは先を急いでいないんだな。


「あのさ、俺はもちろん庶民の出だからリリーサ姫に会ったことなんてないんだけど、ネルヴァは会ったことあるの?」


「ええ。ありますね。何せわたし、王女の家庭教師をしていたもので」


「そうなの!?じゃあその縁でここに?」


「まあ、そうです。それに家庭教師をしていたのはわたしだけではありません」


 俺は即座にネルヴァの言う言葉の意味を理解した。


「レイナもってことね」


「さすがです。その通りです」


 俺はそこで全てを理解した。


 いや、理解したつもりとなった。


 それがいけなかったのかもしれない。


 大賢者と剣聖に全ての魔法を伝授してもらったことで、何か気持ちが大きくなっていたことも、要因の一つだったのかもしれない。


 俺みたいな庶民の出からしたら、王女様なんて雲の上みたいな存在だ。


 上流階級。それも一番上の方だ。憧れないと言ったら嘘になる。見てみたいと思うのは仕方が無いだろう。


 だからそれも要因の一つだったと思う。


 魔が差したんだろうな。そういうことって往々にしてあるよな。


 結果、俺は後々後悔することになる、ある重大な決断を下してしまったんだ。

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