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第三十三話 Fランク

「し、し、失礼いたしましたっっっ!!!」


 ギルドのおっさんは先程までとガラッと態度を変えて、俺たちに対して深々とお辞儀した。


「「「失礼しましたっ!」」」


 周りの冒険者たちも同様に、叫ぶようにして大きく腰を曲げ、俺たちに詫びる。


 すると俺の横で顔を真っ赤にして怒っていたリリーサが、早速機嫌を直し、胸をそびやかしてふんぞり返った。


「そうよ!それでいいのよ!」


 いや、リリーサに対してじゃないから。


 これはレイナたちにビビった結果だから。


 でもまあ、リリーサは王女様だからなあ。


 ああした舐めた態度には慣れてないよなあ。


 だからまあこうなったのはいいとして、やっぱりこの手柄はレイナたちによるものだから、リリーサがふんぞり返るのは、やっぱり違うと思うんだけど――まあいいか。


 俺はギルドのおっさんに向き直り、言った。


「依頼を受けたいんだけど」


 おっさんは凄い勢いでもって返事し、それと同時に依頼リストを素早く広げて見せた。


 俺は、おっさんの態度の変わり様を現金なものだと思いつつも、面倒だったので何も言わず、無言で静かにリストをめくった。


「始めたばかりだから、最低のFランクだよなあ。となるとあまり難しいものはないな」


 おっさんは揉み手をしながら、愛想笑いをした。


「正直申しまして、剣聖様、大賢者様とパーティーを組んでいらっしゃるアリオン様にとっては退屈な依頼ばかりかと。ですが、FランクのパーティーはFランク仕事しか受けられない仕組みとなっておりますものですから、お手数ではございますが、Fランク仕事をいくつかお受けいただき、条件が整いましたらEランク申請していただくという形となります」


「ううん、やっぱりそうなるよなあ」


 俺がぼやいていると、隣にいるリリーサが興味深そうにリストをのぞき込みながら尋ねてきた。


「ねえ、Fランクの依頼ってどんなの?」


「そうだなあ、例えば畑を荒しに来るゴブリンを狩るとか、家の庭に出て来るスライムを退治するとかかな」


「しょっぼ!何よそれ!つまらないわ」


「そうなんだよなあ。なにせFランクだから、危険度が極めて低くなっているんだよ」


「低いも何も楽勝過ぎるわよ。面白みの欠片もないわ」


「だけどしょうがないんだよ。とにかく手っ取り早く一つ請け負ってさっさと片付けるとしよう」


「一つ片付けるだけで、ランクが上がるの?」


「いや、そうじゃない。俺が言っているのはノルマのことだよ。二ヶ月以内にそのランクの依頼を最低一つはやらないと資格を取り消されるって話の方」


「ああ、ノルマね。それでランクアップにはどれだけこなせばいいのよ?」


「う~んと、確か5回連続だったかな?」


 俺はそう言いつつ、確認のためギルドのおっさんを見た。


「Fランクの場合は5回連続でこなせばEランク申請が可能です。なお途中失敗した場合は、合計10回こなすことで、やはり申請が可能となります」


「5連チャンでいいのね?」


「さようで」


「いいわ!だったら最速で5回こなすわよ!」


 へ?


「ちょっと待って!一回だけでいいでしょ?まさかずっと冒険者をやろうってんじゃないだろうね?」


 リリーサは可愛らしく小首を傾げた。


 実際可愛い。本当に可愛い。黙っているとなおさら可愛い。


 だけどこの王女様はずっと黙ってはいないんだよなあ。


「何を言っているのよ!ずっとやるに決まっているじゃない!」


「いやいやいやいや、ダメだよ。だって王女――い、いや仕事の方はどうするのさ?」


 俺は王女といいかけ、いや、完全に言ってしまったが、そこでなんとか誤魔化し言った。


「仕事?ああ、執務ね。だからそれは内政官――」


 リリーサが正体バレバレになりそうなことを言い始めたので、俺は咄嗟に大声を出した。


「わああああああああああ!!!!」


 周りの冒険者たちは驚き、一斉に俺たちの方を振り返った。


 しまった。逆に注目を浴びてしまった。


 俺は慌ててリリーサに近づき、その耳元でささやいた。


「王女であることは隠して。そうでないと面倒ごとになっちゃうよ」


 すると今度はリリーサが、俺を引き寄せ、耳元でささやいた。


「そうね。いいわ。そのかわりにわたしもパーティーに入れなさい」


「はあ~~~?」


 リリーサが俺の耳を引っ張る。


「そうでないと、みんなに自己紹介をするわよ?」


 俺は頬を引き攣らせつつ、仕方なしに同意の意味のうなずきをせざるを得なかった。


「わかったよ。登録すればいいんだろ?登録すれば」


「そうよ。さあ早くして」


 くそっ!偉そうに。いや、確かに偉いけど。王女だし。


 俺はどっと疲れがこみ上げてきながらも、仕方なしにギルドのおっさんに言った。


「パーティーにメンバーを追加したいんだけど」


 ギルドのおっさんは、俺からただならぬ殺気を感じ取ったのか、かなりビビりながら登録用紙を差し出した。


 俺はそこに不承不承書き込み始めるも、ある記入欄のところでピタッと筆が止まった。


 俺はリリーサを手招き、また耳打ちした。


「あのさ、名前なんだけど、リリーサは問題ないと思うんだ。だけどフルネームで本名を書くのはまずいと思う。だから名字を変えようと思うんだけど、何か希望の名字ってある?」


 リリーサは人差し指をあごに当て、上を向いて考え込む。


 そしてしばらくすると、名案が浮かんだとばかりに満面の笑みとなった。


 リリーサは先程と反対に俺を手招くと、そっと顔を近づけて耳打ちをした。


「じゃあ、リリーサ・レイスでいいんじゃない?」


 俺はドキッとして、思わず心臓が止まりかけた。

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