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第三十話 暗雲

「ここからは、俺が相手だ!」


 俺はそう言って、居並ぶ黒ずくめの者たちを、ギロリと端から順に睨みつけた。


 リリーサは素早い動きで敵の間をする抜け、俺の隣にすかさず陣取った。


「剣を頂戴。わたしが援護するから。貴方は遠慮なくぶっ放しちゃって!」


 俺は腰に佩いた剣をリリーサに手渡しながら、ニヤリと笑って言った。


「いいんですか?この豪華な部屋をぐちゃぐちゃにしても」


「何を言ってるのよ。もうすでに扉を粉々に壊しているじゃない」


 俺は思わず苦笑した。


「だってしょうがないじゃないですか。あの扉、防音がしっかりしているのか、王女様が叫ぶまで中で何があったのか、全然聞こえなかったくらいなんですから。なので、叫び声を聞いて慌ててぶっ放しちゃいました」


「あら、そうだったの?わたしはてっきり、知らんぷりしていたのだとばっかり思っていたわ」


「そんなわけないじゃないですか。いやですねえ、王女様は」


「ふん、まあいいわ。やるわよ!」


「了解です」


 俺はそう言うなり、次々に魔法を繰り出した。


雷帝爆撃(ケルンドグス)八連撃!」


 俺は、そうは言っても炎の魔法などを使えば、この部屋が火の海になってしまうと思い、強大ながらももっとも被害が少なそうな魔法を選んで、リーダー格の男を除いた人数分を一気に繰り出した。


 すると思った通り、それほど大きな損害を出さずに八人を一斉に倒すことに成功した。


 残りはリーダー格の男、ただ一人である。


「さすがね!わたしが援護する間もなかったわ」


 リリーサはとても嬉しそうに言った。


 やっぱりネルヴァたちが言うとおり、この俺に気があったりするのかな?


 そんなことを思ってしまった俺は、そこで思わず頬を赤く染めてしまったらしい。


 リリーサは首を可愛らしく捻って、俺に向かって言った。


「うん?どうしたの?顔真っ赤よ?」


 俺は慌てて首を横にブンブンと振った。


 そんなことで顔の赤みが取れるとは思わなかったが、そのあまりにも速い動きのせいで残像となり、しっかりとは顔を見られないんじゃないかとか馬鹿なことを考えて、俺は首を横に降り続けた。


 そこで背後から声が聞こえた。


「どうやら、ご無事だったようですね?」


 ネルヴァである。


 そしてその横には当然のようにレイナもいた。


「アリオンのおかげで無事だったわ」


「それはそれは。やはりアリオンのメイド化計画は正しかったようですね」


「最高よ!」


 何がアリオンメイド化計画だ。何が最高だ。冗談じゃないよ、まったく。


 すると、残されたリーダー格の男が、悔しそうに歯ぎしりをしながら言った。


「くそ、貴様等――」


 俺はそこで、右手の人差し指をビッと前に出した決めポーズを取って言った。


「観念しろ!お前たちの悪事もここまでだ!」


 するとレイナがニヤリと笑った。


「格好つけるのは構わんが、メイドさんの台詞としては、それはどうなんだ?ここは一つ、観念しろ!よりも、観念しなさいの方がわたしは良いと思うのだが」


 俺は頬をこれ以上ないくらいにビキビキと引き攣らせた。

 

 ついでにこめかみに怒りマークをビッキビキに浮き上がらせて。


 だがすぐに、ネルヴァが穏やかに事を収めるように言った。


「さあ、ふざけるのもそのくらいで。さて、この男は殺さないでくださいよ。聞きたいことが山のようにありますのでね」


 ネルヴァはそう言って、リーダー格の男を睨みつけた。


 すると男は、大きく一つ深呼吸をした。


 そして何かを悟ったような穏やかな表情を浮かべる。


 俺は、不審に思った。


 うん?この期に及んで何かあるのか?もしかして他にもまだ敵がいる?


 だが、そうではなかった。


 男は突然大きく口を開けたかと思うと、力強く口を閉じて噛み締めた。


「しまった!」


 その瞬間、ネルヴァは駆けだした。


 次いでレイナも凄まじい速さで動き出し、リーダー格の男に駆け寄った。


 男のあごを力強くつまんで、口をこじ開ける。


 男の口から、大量の鮮血が吹き出す。


 その量は尋常じゃなく、それまで訳がわからなかった俺も、それを見て全てを悟った。


「これは参りましたね。まさか自害するとは」


 ネルヴァは珍しく、後悔しているようであった。


 レイナも痛恨の表情を浮かべている。


「他の連中もダメだな。皆死んでいるようだ」


 俺は思わず、舌打ちをした。


 しまった。やりすぎたか。


 リリーサ王女が襲われたことで、加減が出来なかったのかも知れない。


 くそっ!これで敵の正体はわからずじまいだ。


 だがそんな風に悔しがっている俺を、あらためてリリーサが褒めた。


「アリオン、貴方はよくやったわ。もしも貴方が来てくれなかったら、わたしはたぶんダメだったもの」


 ネルヴァも俺を褒め称える。


「王女様の言うとおりです。見事なお手並みですよ。さすがです」


 次いでレイナも。


「うむ!この威力、さすがとしか言い様がないな!」


 俺はみんなの気持ちに感謝した。


 確かに敵の正体は知れなかったかもしれないが、とりあえずの危険は去った。


 暗雲はまだ垂れ込めているのは間違いないが、まず今のところはリリーサ王女の無事を喜ぶとしよう。

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