第三話 神力
「アリオン、あなたの神力は途轍もないレベルですね」
俺は、ネルヴァの言う言葉の意味がわからなかった。
神力?何だそれは?聞いたことがないぞ?
だから俺は、正直にそう告げた。
「今、神力って言った?それって何のことかな?聞いたこともないんだけど」
ネルヴァは笑みを浮かべ、俺に丁寧に説明する。
「神力とは文字通り、神の力です。魔力が魔界の力を流用しているように、神力は神界の力を使うのです」
「神の力――そんなものが、俺に?」
驚く俺に、ネルヴァが落ち着いた声音で指摘する。
「アリオンは、魔力がありませんよね?」
「そうなんだ。まったくのゼロなんだよ」
俺はうなずきつつ言った。
するとネルヴァは、俺が長年不思議に思っていたことを解決してくれた。
「魔力がゼロなのに『アイテムコピー』の能力が使える。おかしいとは思いませんか?ですが答えは簡単です。『アイテムコピー』は魔力ではなく、神力でもって発動していたのですから」
俺は愕然としつつも、大いに納得した。
「そういうことか。それで俺は『アイテムコピー』を使えていたのか。そんなこと、今まで誰も教えてくれなかったよ」
「そうでしょうね。普通、神力なんて知りません。もちろん人によっては知っている方もいるかとは思いますが、ほとんどいないでしょうね。ましてや神力を持ち、なおかつ使用できる者となれば、我々くらいのものですから」
「ということは、ネルヴァたちは神力を使えるの?」
「我々、こう見えて大賢者と剣聖なもので。さて、話しを元に戻しますと、あなたが魔力ゼロにも関わらず、固有スキルが使えたことをあなた同様に人々が不思議に思っていたとしても、それは当然のことなのです」
「そうだったのか」
俺が子供の頃、教会で信託を受けた際、魔力ゼロでありながら固有スキルを持っていることで周りから気味悪がられたのは、誰も神力のことを知らなかったからだったのからだと、初めて納得した。
そこでネルヴァが、レイナを呼んだ。
レイナは剣を見比べることに夢中だったものの、ネルヴァに呼ばれて顔を向けた。
「アリオンを見てください。彼には神力がある」
ネルヴァに言われ、レイナが驚きつつも俺を凝視した。
そしてレイナは俺の顔を見ながら、ひどく感心したように言った。
「はあ、なるほどなあ。確かに神力をまとっているようだ。これは驚きだな」
俺はそうなのか?と不思議がった。
そのことに気付いたのか、ネルヴァが再び解説する。
「あなたは神力のことについてまったくご存じないようですから教えて差し上げますが、普通神力というものはとても厳しい修行の果てに会得するものでして、あなたのように、恐らくですが生まれつき備わっている者などほとんど聞いたことがありません」
レイナはいまだ感心しきりといった様子で、俺に問い掛けてきた。
「わたしも生まれつきなど聞いたことが無いぞ。聞くがアリオン、お前めっちゃくっちゃ厳しい修行とかしてないよな?」
俺はこれまでの人生において、厳しい修行と呼べるようなものは一切経験していなかった。
ましてや、めっちゃくっちゃな厳しい修行なんてものにはまったく縁が無い。
「してないよ。そもそも俺が『アイテムコピー』を使えるようになったのは五歳の時だし。その前にそんな厳しい修行なんて出来ないよ」
すると二人ともが驚愕の表情となった。
俺はそんなに驚くことかと思ったものの、二人の驚きようは凄かった。
特にレイナは飛び上がらんばかりに驚き、マジマジと俺の顔を覗きこんでくる。
「五歳から~?それはとんでもないことだぞ!神力を五歳の頃から使えるなんて、お前化け物じゃないか?」
するとネルヴァまでもが俺を褒めたたえる。
「確かに。化け物クラスといって差し支えないでしょうね。たとえ生まれつき神力をまとっていたとして、能力としてそれを初めて行使したのがわずか五歳というのは、さすがのわたしも驚きですよ」
レイナはさらに俺を褒めそやす。
「わたしが神力を纏いはじめたのは、地獄のようなきっつい修行を始めて、一年以上が経ってからだぞ。ましてや神力を能力として使えるようになったのなんて、それからさらに二年かかったんだ。なのにアリオンは生まれつき神力を宿した上に、わずか五歳で能力行使とは!開いた口がふさがらないとはこのことだ」
「同感です。しかも見てください。彼の神力は、まだちゃんとは解放されていないんです」
ネルヴァがそう言うと、レイナがまたも俺をジッと凝視しだす。
そしてしばらくして、首をブンブンと勢いよく縦に振った。
「おお!本当だ!よく見ればまだ未解放じゃないか。まとっている神力は、もしかしたらただ溢れ出ているだけか?」
「そうです。いわば無理矢理蓋をしているものの、神力が詰め込まれすぎていて、溢れ出てしまっているようなものです。恐らくですが、アリオンの中には膨大な量の神力が内包されていると、わたしは見ました」
「それは凄いぞ!おいネルヴァ、今すぐ解放してやろうじゃないか」
「そうしましょう。アリオン、いいですか?」
ネルヴァたちの提案に、俺は嫌も応もなかった。
「あ、ああ。いいけど。俺はどうしたらいいんだ?」
戸惑う俺に、ネルヴァが優しく微笑みかけた。
「後ろを向いてください。ただそれだけで大丈夫です。後は我々でやりますので」
俺はもちろんよくわからなかったが、命の恩人の言うことでもあり、大人しく従い後ろを向いた。
すると間もなく、二つの温かな手のぬくもりを背中に感じ初めた。
ぬくもりは次第に熱を帯び、だんだんと熱くなっていった。
俺はその熱さに顔をしかめたものの、我慢できないほどではないため、ジッと耐え続けた。
すると一分ほど経った頃だろうか、二人の手が俺の背中からスッと離れた。
「もう大丈夫ですよ。アリオン、こちらを向いてください」
ネルヴァの優しげな声に誘われるように俺は振り返った。
「これでその、神力が解放されたのかな?」
俺は自分の両手をマジマジと見つめながら、二人に問い掛けた。
「ああ、安心しろ!お前の神力は完全に解放されたぞ!」
レイナが力強く俺に言った。
だが俺は、まだ半信半疑だった。
彼らの言う、その神力とやらが解放されたという実感はまるでなかった。
だが次の瞬間、俺の目の前にパラメーター表示が突如として浮かび上がった。
俺はそれを、驚きの眼でもって見つめた。
レベル 5
体力 35
攻撃力 15
防御力 17
俊敏性 23
魔力 0
神力 99999
俺はこの最後のとんでもない数字を見て、心底驚愕した。




