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第二十六話 暗殺計画

「いつ、暗殺を決行するのだ?」


 俺はぼんやりとした頭で、そんな台詞を聞いたと思う。


 う……ん……何だって?……あんさつ?……えーと、どういう意味だっけ?


 ダメだ……頭が全然回らない。


「今夜だ」


 また何か聞こえた。


 だが俺の脳はまったく働いていない。疲れているんだ。


「わかった。だが大丈夫なのか?」


「何を心配している?」


「今夜は、剣聖と大賢者がいるぞ?」


 けんせい……だい……何だって?……はあ、ぼんやりだ……。


「大丈夫だ。あの二人は離れにいる。居館からはかなりの距離があるから、素早くやれば問題ない」


「わかった。では暗殺決行の、その時に」


 ぼんやりと足音が聞こえた。


 何だったんだ、今の話は?……ダメだ。疲れがピークだ。


 頭がまったく回らない……意識がだんだんと遠のいていく……




「はっ!」


 俺は何かにうなされた後のように、激しく目を見開いて起きた。


 だが身体は動かない。金縛りにでも遭ったのか?


 いや、違う。塩風呂だ。


 俺は今、固まった塩の中にいるんだ。


 だから身体が動かないんだ。


「ちょっと!誰か!」


 俺の叫びを聞きつけ、係員が驚いて近付いてきた。


「どうした?」


「どうもこうもない!動けるようにしてくれ!」


「まだ始まったばかりだぞ?」


「いいから!早くしてくれ!」


「わかった。ちょっと待っててくれ?」


 係員はのんびりした様子で何かを取りに戻った。


「いや、ちょっと急いで!」


「はいはい、わかったって。すぐには無理なんだ」


 係員はそう言いつつ、木槌を持って戻ってきた。

 

 そして俺の身体を固めている塩を、カーンカーンと叩いて壊していく。


 だが俺の身体が自由を取り戻すまでに、時間にして二分ほど掛かった。


 俺は慌てて立ち上がり、隣の仕切りの向こうに。


 だが当然のことながら、そこには誰も居なかった。


 俺はその場で立ちすくみ、中空を睨みつけた。


「今のはまずい!王女の身に危険が迫っている!」





 俺は手早く着替えを済ますと、急いで駆けだした。


 身体の節々が悲鳴を上げ続けたが、そんなことは言っていられない。


 俺は宮殿の裏庭を真っ直ぐに突っ切り、ネルヴァたちのいる離れへと急行した。


「ネルヴァ!レイナ!」


 血相を変えた俺が部屋に飛び込んできたため、ネルヴァたちは非常に驚いた。


 だがそんなことに構ってはいられない。


 俺は出来るだけ正確に、なおかつ簡潔に先程の出来事を二人に話した。


 二人の表情はみるみる一変し、共に非常に険しくなった。


「それは困ったことになりましたね」


 険しい表情ながらも、ネルヴァは冷静に言った。


「ちっ!何処のどいつだ?王女様を暗殺しようなんて輩は!」


 レイナは、もうすでにいきり立っている。


 俺はここまでダッシュで来たため息が切れていたが、ようやくここで息を整えた。


「奴ら、二人のことはずいぶんと恐れているようだった。だから二人が王女の部屋を警護すれば、暗殺計画の実行は延期すると思う」


 ネルヴァの目が妖しく光る。


「ですがそれでは、犯人の正体がわかりませんよ?」


「それはそうだけど、じゃあどうすればいいんだ?」


 横からレイナが殺気のこもった声で言う。


「隠れておいて、敵が襲ってくるのを待つ!」


 確かに、それならば敵を捕縛し、その正体を突き止められるか。


 だが俺は心配性なのか、不安に駆られた。


「でもそれだと、王女様に危険が及ぶ可能性があるよ」


「おや、心配ですか?」


 俺は咄嗟に叫ぶように言った。


「そんなんじゃないよ!」


 ネルヴァはにこりと微笑んだ。


「冗談です。いや、冗談を言っている場合ではなかったですね。すみません。ですが安心してください。王女様は、例え縛りがあったとはいえ、今や大魔導師クラスの実力を誇る貴方と互角に戦った方なんですよ」


「それはまあ、そうだけどさ」


 確かにあの王女様なら、そう心配しなくても大丈夫か。


 追い打ちを掛けるようにネルヴァは言う。


「それでも心配だと言うのでしたら、貴方には最も王女に近いところで警護してもらいます。それでどうですか?」


 これだけ言われたら、反論のしようがない。


 俺は大きくうなずいた。


「わかった。それでいい」


 ネルヴァはうなずき、次いでレイナを見た。


 レイナも大きくうなずき、同意した。


 これで方針は決まった。


 だが――


「ところで一番近いところって、何処なの?」





 その日の深夜、宮殿の裏庭の生け垣を、妖しくうごめく黒い影が走った。


 しかもそれは一つではない。


 影はムカデのように連なり、生け垣の隙間を素早い動きで移動していた。


 その数、およそ百。


 その先頭が月明かりの下、本殿の裏口付近へと到着した。


 コンコンと、先頭の者が扉を叩く。


 扉が音もなく開く。


 室内の者が扉を開けたのだ。


 黒ずくめの影たちは、音もなくスルスルと部屋の中へと入っていった。


 影は建物の造りを熟知しているのか、何の迷いもない素早い動きで、進んでいく。


 廊下を直進し、曲がり、さらに直進。


 階段をスルスルと音もなく昇り、また廊下を突き進んだ。


 すると前方の大きな扉に行方を遮られた。


 だが先頭の男は慌てず、建物に侵入したときと同じくコンコンと二回扉を叩いた。


 大きな扉は、音もなくゆっくり観音開きに開いた。


 先頭の男は、大扉を開けた中の男たちと黙礼を交わすと、その先の道を真っ直ぐ突き進む。


 そこは本殿と、王女が起居する居館とを繋ぐ渡り廊下であった。


 黒い連なった影が、月明かりの下を凄い勢いでまっしぐらに突き進んでいく。


 だがそこで、何故か突然先頭の者が立ち止まった。


 前方に何かを発見したらしい。


 影たちが目を細めて前方を睨む。


 煌々とした月明かりの下、燃えるように(あか)い髪が、夜風に吹かれて颯爽とたなびいていた。

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