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第二十四話 謁見

「リリーサ・アルト・メリッサ王女のおな~り~」


 侍従と思われる者の大音声が、謁見の間に響き渡った。


 俺は王女とはすでに会っているし、ずいぶんと大仰だなと思いつつも、ネルヴァたちに習って右手を左胸に当ててお辞儀をした。


 俺はそのまま平伏しつつ、先程チラリと見たリリーサの格好に驚いていた。


 それは、フリフリのレースで山ほど彩られた、豪華なロングドレスであった。


 リリーサがおずおずと数段高い場所へと進んでいくのが、衣擦れの音で判る。


 だがその歩みは、ロングドレスを引きずって歩いているからか、とても遅かった。


 ようやくとリリーサが中央の椅子に座る衣擦れの音が聞こえた。


 途端に、リリーサの凜とした声音が響く。


「皆の者、おもてを上げよ」


 俺たちは一斉に顔を上げた。


 見ると、やはりリリーサはロングドレスに身を包んで座っていた。


 俺たち相手にそんなものを着込む必要はないのにな。


 そう俺が思っていると、ネルヴァが一同を代表して挨拶の言葉を述べた。


「王女様におかれましては、ご機嫌うるわしゅう存じます。この度はわたくしどもの来訪を受け入れてくださり、なおかつそのご尊顔を拝し奉る栄誉を与えていただきましたことを、心より感謝申し上げます」


 もの凄く仰々しい。


 昨日の物言いとはあまりにも違いすぎる。


 これが大人の建前という奴か。


 俺がそんなことをつらつらと思っていると、リリーサが満足げにうなずいた。


「苦しゅうない。遠路はるばる大儀であった」

 

 いや、遠路はるばるって、馬車で半日の距離ですが。


 俺が心の中で突っ込んでいると、リリーサの呼ぶ声が聞こえた。


「アリオン」


 俺は慌てて返事した。


「は、はい」


「そちらがお母上か?」


「はい。そうです。母のイリヤと申します」


 俺は母さんをすかさず紹介した。


「初めまして王女様。母のイリヤにございます」


 母さんはかなり緊張しているのか、声をうわずらせながら挨拶した。


 するとその緊張を解そうとしてか、リリーサはとても優しい声で話し掛けた。


「良く来てくれました。遠いところを呼び立てして申し訳ない。病の具合はどうか?」


「あ、はい。王女様。お気遣いありがとうございます。最近は発作もほとんどなく、快調に過ごしております」


「それはよかった。今日からここは、そなたの家となる。心やすく療養されよ。何か困ったことがあったら、すぐに言ってほしい。皆の者にも、その旨伝えてある」


「有り難き幸せにございます」


 母さんは感激のあまり、泣きそうになっている。


 俺はそんな母さんの背中に、そっと手を置いた。


 するとまたリリーサは、俺に語りかけた。


「アリオン、そなたもここで何か不都合があれば、遠慮なく申せよ」


「はい。有り難き幸せ」


 俺は母さんの言い方を真似て言った。


 リリーサは満足げにうなずき、すっと立ち上がった。


「王女様、ご退室~」


 侍従がまたも大音声で言った。


 それに合わせてリリーサは踵を返して退室していった。


 俺は、皆に合わせて胸に手を当て、退室するまで首を垂れ続けた。




「あれ、意味ある?」


 俺は、母さんを与えられた部屋まで送り届けると、廊下でネルヴァたちに向かって首を傾げながら問い掛けた。


 ネルヴァは、苦笑を浮かべながら答えた。


「儀礼的なものです。必要でしょう」


「誰にとって必要なのさ?」


 さらに首を傾げて問う俺に、ネルヴァはさらに苦い笑みを浮かべながら答えた。


「貴方のご母堂に決まっているでしょう」


 ???


 母さん?


「わかりませんか?王女様は貴方のご母堂のためだけに、あれだけ大仰な儀式を用意されたのです」


「あの儀式が、どうして母さんにとって必要なのさ」


「貴方方が王女様にとって正式な客人であること。それも非常に大切に思っていることを、儀式を執り行うことで示したのですよ。それによりご母堂が、今後一切の気兼ねなくこの宮殿で暮らしていけるようにしたのと同時に、この宮殿で働く者たちにもそのことを示したのです」


 そこでようやく、俺は納得した。


「なるほどね。そうか。そういうことか。意外とリリーサって気が回るんだな」


「そりゃあ好きな男のためですからねえ」


 ネルヴァはニヤニヤ笑いながら言った。


 隣では当然のようにレイナもニヤニヤしている。


 俺はうんざりした表情を見せた。


「そんなんじゃないと思うよ。だって――」


 俺が抗弁しようとしたその時、召使いがすっと近くに寄ってきた。


 俺はそのことに気付き、振り向くと、召使いは一礼しながら言った。


「お話し中、失礼いたします。アリオン様、王女様がお呼びです」


「あ、俺一人?」


「はい。そう伺っております」


 横を見ると、ネルヴァたちがこれ以上ないという位にニヤけていた。


 俺は思わずケッとという表情を二人に対して食らわせつつも、召使いに対しては笑顔を見せて返事した。


「わかった。すぐに行くよ」


 召使いは深々と一礼し、去って行った。


 俺が改めて振り向くと、案の定ネルヴァたちはニヤニヤしていた。


「あのさあ、それしかすることがないわけ?」


「することがないわけではありませんが、二人の恋の行方は大変面白そうですので」


「そうそう。こいつは見物だと思ってな。ネルヴァと二人して、楽しんでいるってわけだ」


 ダメだ、この二人。何が剣聖と大賢者だ。まったくみっともない。


 俺は心の中で吐き捨てると、相変わらず馬鹿の一つ覚えみたいにニヤニヤしている二人に向かって言い放った。


「行ってくる!」


 俺は言うなり、ふんと首を振って歩き出した。


 だが途中であることに気づき、ばつが悪そうに振り向いた。


「ところで、リリーサ王女って何処にいるのかな?」

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