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第二十二話 思い出

「それは一体、どういうことなんだい?母さんはもう何がなんだか……」

 

 母さんはほとんどパニック状態となっている。


 そりゃあそうだよなあ。


 こうやって説明している俺自身も、なんでこんなことになったんだろうかと不思議なくらいなんだから。


「いや、どうもそのう、王女様に気に入ってもらったらしくてさ。それで宮殿へって話なんだよ」


「王女様に気に入られたって、そもそも何処で王女様と?」


 ああ、これも説明がしづらい奴だ。


 どうしようかなあ。


 ちゃんと説明しようとすると、ゲイスに殺されかけたところからしないといけなくなるし。


 でも母さんには心配をかけたくない。


 するとネルヴァが、困っている様子の俺に助け船を出した。


「ご母堂。実は我々ともそうなんですが、あるダンジョンでアリオンと出会いましてね。そこで勇敢に戦う彼を見て、王女様が気に入られたということなんです」


 ネルヴァは至極簡潔に説明した。


 だが母さんは、あまり納得がいっていないようだった。


「そうだったんですか。でもアリオンが戦ってというのはどういうことでしょうか?この子はまだ力が弱く、満足に剣は振れません。それに生まれつき魔力がありませんから、魔法を繰り出すことも出来ません。ですから冒険者パーティーに属してはいますが、それはあくまで荷物持ちとしてなんです。ただ唯一、この子の父親と同じ『アイテムコピー』という固有スキルだけは使えるのですが、戦いに使えるようなものではありません。ですからネルヴァさん、一体どうやってアリオンは戦ったと言うのでしょうか?」


 母さんの矢継ぎ早やの問いかけであったが、ネルヴァは至極冷静に答えた。


「ご説明いたしましょう。ご母堂、確かに彼には魔力はありません。ですが彼には、その替わりとなる神力が生まれつき備わっていたのです」


「神力――それは一体どういうものでしょうか?」


「簡単に申せば、神の力の流用です。しかも彼の潜在的な神力は、我々を遙かに凌駕するほどのものでした。そしてその眠っていた力を解放した結果、彼の今の実力は、大魔導師と呼んで差し支えないほどに成長したのです」


「まあ、何と言うことでしょう――」


 母さんは二の句が継げない様子であった。


 だがその表情には、うれしさがにじみ出ていた。


 母さんは、俺に向かって優しい眼差しを向けつつ、言った。


「おお、アリオン。貴方にそのような力が。死んだ父さんも喜んでくれるわね」


「これでようやく父さんに近づけたような気がするよ」


「ええ、そうね。本当に」


 母さんはそう言って涙を流した。


 俺は誇らしげな気持でその様子をしばし眺めた。


 しばらくして、ネルヴァがコホンと一つ咳払いをした。


「ああ、そうか。引っ越しをしないと」


「ええ。貴重品や思い出の品、それに数日分の着替えだけでよいかと思います。荷造りの用意をお願いします」


 母さんは目を丸くして驚いた。


「まあ、そんなにすぐに引っ越しをしなければいけないの?」


「そうだね。一応、あまり王女様を待たせるのも何だし」


「そう、判ったわ。でもどうしましょう。貴重品といっても」


「貴重品と呼べそうなものはほとんどないよね。大事なのは父さんの遺品くらいかな」


「ええ、そうね。それだけは持って行かないと。他には、家具とかは持って行かなくていいのかしら?」


 母さんの問いかけに、ネルヴァが答えた。


「生活に必要なものは、全て王女様から支給していただけるはずですから、本当に大事な替えの効かないものだけでよいと思いますよ」


 俺は少しだけ考えた末、結論を出した。


「俺は特にないや。母さんも父さんの物だけなんじゃない?」


「ええ、そうね。他には特に」


「じゃあ早速、父さんの遺品をバッグに入れようよ」


「わかったわ。ちょっと待っててもらえるかしら?」


 母さんはそう言って奥の部屋へと向かった。


 レイナが久しぶりに口を開く。


「お前は、本当に持って行く物は何もないのか?」


「ああ。特にはないよ」


「思い出の品とかもないのか?」


 思い出の品か。


 正直そういうものはないな。俺は子供の頃からあまり物に対して執着なかったし。


 そもそもそんなにいい思い出もないしね。


「ないよ」


 俺は簡潔に答えた。


 レイナが、少しだけ悲しそうな顔をした気がした。


 だが開いた口から出た言葉は「そうか」というものだった。


 俺はなにやら気まずい空気を感じ、立ち上がった。


 何とはなしに窓際まで歩いて、外の景色を眺めた。


 いつもと変わらぬ景色がそこには広がっている。


 だけど、特段感慨は湧いてこない。


 それよりも、これからの生活がどうなっていくのかだ。


 正直、あの王女様の修行がどんなものなのかを考えると、不安だらけだ。


 でもそれ以外は、楽しみで仕方がない。


 なんという環境の変化だろうか。


 ちょっと前まで、役立たずの荷物持ちと蔑まれていたのが、今では大賢者曰く大魔導師だ。 


 無論、母さんを納得させるために多少大袈裟に表現したところもあるかとは思う。


 でも実際、大賢者が操る全ての魔法を習得しているわけだし、大魔導師とはいかなくても、れっきとした魔導師くらいにはなっていると思う。


 やっぱり修行は大変そうだけど、それ以外のことにはワクワクしかない。


 俺は窓の外に映るのどかな景色を眺めながら、これから先の未来について心躍らせた。

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