第二十一話 我が家
そうこうするうちに俺は全ての記入を済ませ、冒険者登録は完了した。
役割を終えてホッとした俺は、レイナたちが酒盛りしているテーブル席に向かい、空いている椅子を引いて腰掛けた。
するとレイナは、酒瓶をぐいっと勢いよく俺に向けた。
「飲むか?」
おいおい、俺は14歳だよ?飲めるわけないでしょう?
「いや、俺はいらないよ。それより登録の方は無事に済んだよ」
と、隣のネルヴァが――
「ご苦労様でした。それではいよいよ貴方のお宅へ向かうとしましょうか」
レイナは抗議の声を上げる。
「ええ~!飲み始めたばかりだぞ?もう行くのか?」
「あまり遅いと日が暮れてしまいますからね。酒瓶は持って行けばいいでしょう?」
「ふん、仕方がない。歩きながら飲むか」
レイナは早速立ち上がった。
ネルヴァもすぐに立ち上がったため、俺も座ったばかりだというのに仕方なく立ち上がった。
「よし!それではアリオンの家に向かって出発だ!」
レイナはそう言うなり、さっさと踵を返してギルドを出て行った。
ネルヴァも颯爽と続き、ギルド内には俺だけが残された。
すると周囲の冒険者たちが、次々に俺に話しかけてきた。
「凄いなアリオン!伝説級の人たちとパーティーを組むなんてよ!」「本当だぜ!びっくりしたよ!」
「でもあのアリオンの炎の魔法を見たら納得だけどな!」「これから頑張れよ!元気でな!」
俺は何やら照れ笑いを浮かべながらギルドを後にした。
そして出口で待ち受ける剣聖と大賢者と共に、揚々として家路へついた。
「見えた。あれが俺の家だよ」
俺は通りの向こうに見える、少しくたびれた様子の小さな家を指し示した。
「ほう、あれですか。なかなかに町から遠いのですね。少々疲れましたよ」
レイナがネルヴァに毒づく。
「このくらいで何を言っている。それでも大賢者か!」
「それとこれとは関係ないじゃないですか。わたしは貴女のような体力自慢ではないですし」
「ふん!軟弱な。なんならお前も宮殿に行ってリリーサ王女に鍛えてもらったらどうだ?」
「冗談言ってもらっては困ります。いくらリリーサが素晴らしく鍛え上げられていると言っても、わたしの方が気力体力共に遙かに上ですよ」
「だったら弱音を吐くな!」
「弱音ではありません。ただの感想です」
「何だその言い訳は?よくわからん!」
二人が何やら言い争っている内に、家へと到着した。
俺が扉を開けて中に入ると、満面の笑みを浮かべた母さんが迎えてくれた。
「あら、アリオン。おかえり」
「ただいま、母さん」
俺は笑顔で帰宅の挨拶を交わすと、二人を家の中へと招き入れた。
「二人とも、入ってよ」
レイナ、ネルヴァの順に、二人が家の中へ入った。
俺は早速母さんに二人を紹介した。
「母さん、紹介するよ。こちらがレイナ・ベルン。そしてあちらがネルヴァ・ロキ」
二人は俺の紹介を受け、順番に丁寧に挨拶をした。
「初めまして。レイナ・ベルンです。よろしくお見知りおきを」
「初めましてご母堂。わたくしはネルヴァ・ロキと申します。お会いできて光栄です」
すると二人の名前に心当たりがあったのか、母さんは目を丸くした。
「まあまあ、これはいかがいたしましょう。名にし負う剣聖様と大賢者様に、このような狭苦しいところへお越しいただくとは。申し遅れました。アリオンの母のイリヤでございます」
「ご丁寧な挨拶痛み入ります」
ネルヴァはまたも丁重に頭を下げた。
見るとレイナも深々と頭を下げている。
普段はぶっきらぼうだが、レイナもこういう時はきちんと挨拶できるんだな。感心した。
「まあとりあえず、二人ともこっちに座ってよ」
俺はリビング中央のテーブル席に二人を案内した。
二人はうなずき、それぞれに座った。
俺は二人とは対面する席に座り、慌ててお茶の用意をしている母さんを手招いた。
母さんは手にお盆を持ってテーブルへと到着すると、手際よく四人分のお茶を入れ、少々戸惑いながら俺の隣に座った。
「母さん、驚いた?」
「そりゃあ驚くよ。剣聖様と大賢者様だよ。驚かない者がいるかい?」
ネルヴァは笑顔を浮かべ、右掌を前に出して言った。
「いや、ご母堂。様は必要ありません。ネルヴァで結構です」
「でも……」
「それではネルヴァさんでお願いします。レイナもそれで」
レイナはネルヴァの横で朗らかな笑顔を見せて、大きくうなずいた。
俺は、母さんがまだ戸惑っている様子なので、一言添えた。
「母さん、二人がそう言ってくれてるんだから」
母さんは、それでようやく笑顔を見せて受け入れた。
「そうかい?じゃあネルヴァさん、レイナさんとお呼びしますね」
「それでお願いします」「うむ、それで!」」
そこでレイナが、目の前のお茶に手を付ける。
「うむ、美味い!」
ネルヴァもお茶を口に含んだ。
「なるほど。これはお世辞ではなく、本当に美味しいですね」
母さんは恐縮しながら頭を下げた。
代わりに俺が二人に説明した。
「このお茶は、ここアルバ村の名産なんだ。外国とも取引しているくらいなんだよ」
「ほう、それはそれは。確かにこの辺りは温暖で、適度な降水量がありそうですね。それになだらかながらも高低差があり、土壌の排水性もよさそうです。なるほど、確かにお茶の栽培には適していそうですね」
さすがは大賢者、知識も豊富らしい。
片やレイナは知らん顔だ。
本当にこの二人は対照的だなあ。
「ところでアリオン、どうしてお二人と?」
そこで俺は回答を躊躇した。
母さんにいらぬ心配を掛けたくなかったからだ。
「うん、まあ色々あってね。でも実は、驚くことは二人のことだけじゃないんだよ」
「ええ?これ以上に驚くことがあるのかい?」
「そうなんだ。実はその、今度リリーサ王女の宮殿に住むことになってね」
「王女様の宮殿にかい!?住むってどういうことなんだい!?」
「驚くよね?まあこれも色々あってね。でも驚くことはまだあるんだ」
「まだあるのかい?おおアリオン、これ以上は母さんを驚かせないでおくれ」
「これが最後だよ。実はその、王女様の宮殿に、母さんも住むことになっちゃったんだよ」
そう言うと母さんは、気絶せんばかりに驚いた。




