第二十話 恨みの目
「あの様子だと、当分は動けないでしょう。恐らくは長期入院かと」
ネルヴァは、ゲイスが運ばれていく様子から、そう判断を下した。
俺もそう思う。あれはかなりの火傷だ。
回復魔法である程度はなんとかなったとしても、当分は病院暮らしは免れまい。
「かなりの火傷痕が残りそうだ」
「ええ。ですのでわたしとしては、息の根を止めておくことを推奨したのです」
ひどい事を言う。
だがレイナもネルヴァに同意らしい。
「わたしも同感だ!ああいう奴は生かしておく必要を認めないし、生かしておくと後が面倒だ」
「俺はあれで充分だよ」
レイナは俺の顔を真正面から睨み付けるようにして言う。
「あれは、復讐を誓った目だったぞ」
そう、だと思う。
俺自身も、そう直感した。
あれは、自らの命を賭けてでも必ず復讐してやるぞと誓った目だったと思う。
だが今の俺なら、問題ないだろう。以前とは比べものにならないくらいに、俺は強くなっている。
だから俺は、笑みを見せながら自信たっぷりに言った。
「大丈夫。もう俺は、奴らが束になっても勝てる相手じゃないさ」
だがそんな俺にネルヴァは、レイナ同様の鋭い視線を向けて言った。
「確かに貴方は彼らよりも遙かに強いでしょう。ですが、彼らが汚い手を使えばわかりませんよ。決して気は抜かないことです」
確かに。
不意討ちや、寝ている隙に襲われたら、魔法を繰り出す暇もないか。
俺はネルヴァとレイナを交互に見ながら言った。
「わかった。気をつけるよ」
二人はグイッと顔を近づけ、慎重に俺の目をのぞき込んだ。
そして、俺が真剣にゲイスたちに対して油断なく気をつけるつもりであることを確認し、ようやくうなずいた。
「うむ!それならよしだが、本当にくれぐれも気をつけろよ」
レイナは心配性だな。
でもこうして気遣ってくれるのはうれしい。
だが対するネルヴァは、まだ浮かない顔をしていた。
右手であごをさすり、何やら考えた末、彼は言った。
「一応念のため、ギルドで冒険者登録をしておきましょう」
何故冒険者登録を?だがその前に、それは無理だ。
「ネルヴァ、前にも言ったけど冒険者登録は三人からなんだよ」
「知っていますよ。なので問題はないでしょう?」
「え?それじゃあ――」
「ここには、三人います。ですので問題ないかと」
レイナを見ると、にっこりと笑みを浮かべてうなずいている。
ネルヴァは続けた。
「貴方が我々とパーティーを組んだと知ったら、もしかしたら彼も復讐を諦めるかもしれませんからね」
「でもギルド登録をすると、ノルマが発生するよ?それが嫌で、これまで登録してなかったんじゃ?」
「ええ、嫌です。なのでノルマは、貴方が一人でこなしてください」
え――――――!?
「俺一人で?マジで?」
「ええ、もちろんマジです。我らは個人受注の仕事がありますので」
「そんな~、それじゃあパーティーを組む意味が――」
「ですので、我らの名を冠した抑止力です。彼らの復讐の気を削ぐためのね」
「それはまあ、確かにそうなるかも。剣聖と大賢者が仲間だと思ったら、ゲイスも諦めるかもしれないか」
「ですがこれは、貴方にとってもう一つ別のメリットがありますよ?」
「メリットがもう一つ?それは?」
「冒険者としてのノルマがあるとなれば、宮殿から抜け出すことが出来るでしょう?」
あ、なるほど。
リリーサによる宮殿での剣術修行から、息抜き感覚で抜けられるか。
「わかった。じゃあ登録しておこう」
俺はそう言うと、二人を見た。二人とも笑顔でうなずいている。
そうして俺は、剣聖と大賢者というとんでもない二人とパーティーを組むことになった。
「え?本当に?この三人でパーティーを?」
ギルドの受付係の兄ちゃんが、震える声で言った。
周りの冒険者たちは、驚きで声も出せない。
だよね?ビビるよね?だって伝説級の二人だからねえ。
「そうなんだ。なのでよろしく頼むよ」
俺は受付係に、にっこりと微笑みかけた。
「あ、ああ。わかった。じゃあそのう、お手数ですが、お二人にもこちらの書類にご記入をお願い出来ますでしょうか?」
受付係は恐る恐るといった様子で、冒険者登録用紙を差し出した。
その紙を、レイナは俺の背後から手を伸ばして取った。
「これに記入すればいいのか?よし、アリオン任せた!」
レイナはそう言って俺に用紙を無理矢理押しつけると、カウンターに置いてある酒瓶を手にして手近な椅子にどかっと座った。
そしてグラスに注ぐことなく、ボトルにそのまま口を付けて飲み始める。
おいおい。
そう思ったのも束の間、今度はネルヴァがにっこりと微笑みながら俺に言った。
「ではわたしの分もお願いします」
ネルヴァはそう言うと、レイナ同様カウンターに置いてある酒瓶を手に取った。
だがネルヴァはレイナと異なり、白い布巾の上で飲み口を伏せてある綺麗なグラスもきちんと手に取り、その上で座って飲み始めた。
二人の性格が出ている。
俺はそんなことを思いつつ、受付係に向き直った。
「そういうわけで、俺が代筆するってことでいいかな?」
受付係は首をブンブンと勢いよく縦に振った。
俺はそれを同意と受け取り、用紙に三人分の記入をし始める。
途中で受付係が何やら言いたそうだったので、俺は彼に問い掛けた。
「他に何かあるの?」
受付係は声を出さずに、視線だけでネルヴァたちを指し示している。
ああ、そうか。そういうことね。
「ああ、もちろん酒代は俺が払うよ」
受付係は満足そうにニンマリと微笑んだ。
俺は何とはなしに苦笑いを浮かべると、せっせと冒険者登録用紙に記入していった。




