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第二話 剣聖と大賢者

 奈落の底で、しばらくして目を覚ました俺は、全身を襲う強烈な痛みに思わずうめき声を上げた。


 俺は痛みを我慢して腕を伸ばし、腰の辺りをまさぐってみる。


「あった」


 俺は腰のポーチから薬草を取り出すと、すぐさま何度もコピーをし続けた。


 そして大量に出来上がった薬草を飲んだり、患部に当てて治療した。


「ふう、あの高さを落ちて生きていられるとは思わなかったな」


 俺は仰向けに寝転がりながら、落ちてきた崖を見上げてつぶやいた。


「何階分落ちたんだろうか。二階分かな?いや、三階はあるな」


 俺は先程までいたところを下から見上げ、落ちた階数を三階分くらいだろうと判断した。


「さっきまでいたのが地下五階だから、今居るところは地下八階ってところか。滅茶苦茶まずいな」


 これは、とてもまずい状況だった。


 せっかく生き延びたというのに、一寸先は闇の状況だ。


 それというのも、先程は七人パーティーで地下五階がやっとだった。


 ところが今、俺は一人ぼっち。


 しかも俺はパーティーの中で、剣も使えず魔法も使えないという最弱メンバーだ。


 つまりこれは、考えられる限り最悪の状況だといえた。


「とにかく、上へ逃げなきゃ」


 俺は薬草のおかげでだいぶ痛みが引いたとはいえ、到底万全とはいえない身体を起こして立ち上がる。


 そして、上階へと通じる道を探した。


 だが、どこにもそれは見当たらなかった。


 俺は焦った。グズグズしていたら死ぬ。


 俺は焦りに焦り、急ぎ足で曲がり角を曲がった。


 するとそこには――


「ド、ドラゴン……」


 俺が硬直する身体で見つめる先には、数十メートルはあろうかという巨体が横たわっていた。


 だが、幸いなことにドラゴンは寝ているようで、その長い首を地面に下ろして瞼を閉じていた。


 俺はドラゴンに気付かれないよう、音を立てずにゆっくりと後ずさりした。


 だがそこで、俺のかかとが何かとぶつかった。


 それは握り拳くらいの大きさの石だった。


 石は俺の後ろ足に蹴られて結構な甲高い音を立てて、堅い地面の上をカランコロンと転がっていった。


 まずい。


 俺は恐る恐る視線を上げてドラゴンを見ると、なんと向こうもこちらを見つめていた。


 「アンギャ――――――オオウ」


 ドラゴンの恐ろし気な雄叫びが、ダンジョン内に響き渡る。


「さ、最悪だー!」


 俺は痛みに耐えて脱兎の如く駆けだした。もはや身体が痛いだの何だのと言っている場合ではない。


 とにかく逃げねば。逃げ切らねば。だが何処へ?上へと続く階段はない。何処へ逃げたら助かる?


 俺は必死に駆けた。


 だが後ろから途轍もない轟音を立ててドラゴンが追ってくる。あんな巨大なドラゴンが駆けたら、ほんの数秒で追いつかれる。


 ダメだ!俺は死ぬ!


 最弱の自分の最後の相手が、まさか最強クラスのドラゴンだなんて、なんという皮肉だ。


 その時、俺の足がもつれた。


「しまった!!」


 俺は無様に地面の上を転がった。顔を打ち付け、半回転して腰から落ちる。


 そして俺が仰向けに天井を見上げる形になったところに、ドラゴンの顔が覆い被さった。


 万事休す!


 ドラゴンは舌舐めずりしながら、途轍もなく巨大な前足を振り上げる。


 嗚呼、俺の死因は圧死か。


 せんべいみたいに平たくなったところを、ずたずたに噛み砕かれるのか。


 そう思った刹那、突然雷光が走った。


 俺が驚き目を見開くと、雷光はドラゴンの巨大な右脚を切り裂き、そこから激しい血飛沫が噴き上がっていた。


 俺はオーロラのように頭上から降り注ぐ血飛沫をまぼろしのように見上げた。


 すると突然、俺の身体がふわりと浮いた。


 そして次の瞬間には、俺はだいぶ離れたところへと避難していた。


「もう大丈夫ですよ」


 優しげな男性の声が降り注ぐ。


 俺は、自分を抱えている男の顔を、恐る恐る見た。


 年の頃は二十代後半、すらっとした長身で、切れ長の綺麗な目をしていた。端的に言って、かなりの美青年である。


「あ、あの、俺、もしかして助かった?」


 男は俺を地面に下ろしながら、あくまで優しく言った。


「ギリギリでしたけどね。なんとか助けることが出来て良かった」


「あ、ありがとう、その――」


 俺は、自分を踏みつけようとしていたドラゴンを探した。


 見ると、二本の剣を構えた燃えるような赤髪の女性剣士が、ドラゴンと戦っていた。


「あの人は」


 男が答える。


「レイナ・ベルンです。わたしの友人でして、相当強いんで大丈夫だと思いますよ」


「レイナ・ベルン!?もしかしてあの有名な剣聖の!?」


「そうです。良くご存じですね」


「よくご存じも何も、かの有名な大賢者ネルヴァ・ロキと、常に行動を共にしているっていう――」


 そこで俺は、目の前の人物が誰か想像がついた。


「あの、もしかして――」


 男は居住まいを正して自己紹介をした。


「はじめまして。ネルヴァ・ロキと申します。ネルヴァと呼んでください」


 俺が度肝を抜かれてあわあわしていると、ネルヴァがまじまじと見つめながら言った。


「だいぶひどい怪我をしていますね?あのドラゴンにやられたんですか?」


 ネルヴァはのんびりとした口調で言った。


「い、いや、崖から落ちて」


「それは災難でしたね」


 ネルヴァはそう言うと俺に向かって手をかざした。


 みるみるうちにネルヴァの腕は輝きだし、気付けば俺の身体の痛みはほとんど消えていた。


「もう大丈夫ですよ。完治したはずです」


「痛みが、ない」


 俺は驚きながら自らの身体をさすっているところで、まだ自己紹介をしていないことに気づいた。


「あ!そうだ。自己紹介がまだだった。俺はアリオン・レイス。アリオンと呼んでくれれば」


 その時、突然巨大な悲鳴が上がった。


 俺は驚き、その声のする方向を見た。


 すると、驚くべき事にドラゴンのあごから先が一刀両断に無くなっていた。


「どうやら決着のようです」


 ネルヴァがそう言った刹那、新たな雷光がドラゴンの首に走った。


 またも俺は驚き、刮目すると、ドラゴンの首はすーっと横にずれ、次いで地面に大きな音を立てて落ちた。


 俺はあまりのことに呆気にとられて眺めていると、剣聖レイナ・ベルンが凄まじい勢いで飛び上がった。


 その瞬間、首の無くなったドラゴンの巨体が、轟音を立てながら地面に倒れた。


 凄まじい地鳴りが響く中、レイナ・ベルンは一足飛びに俺たちの元へとやってきた。


「無事か?」


 レイナ・ベルンは、俺に向かってぶっきらぼうに言った。


 年齢は二十代半ばくらいだろうか。燃えるような赤髪の下に端整な顔立ちを隠し、豊満な胸と艶めかしくくびれた腰つきは、実に均整の取れた美しいプロポーションと言えるだろう。


 俺基準で言えば、絶世の美女と言って差し支えないと思われた。


 そんなこんなを考えていると、ネルヴァが先んじて答えた。


「もちろん無事です。わたしが付いているのですからね」

 

 ネルヴァの返しに、レイナが鼻白んだ。


「ふん、わたしはレイナ・ベルンだ。レイナでいい。お前は?」


 俺は慌てて自己紹介した。


「俺はアリオン・レイス。アリオンで」


「アリオンか。ところで何故こんなところに一人でいたんだ?」


 俺は言いにくいなあと思ったものの、命の恩人に対して答えないわけにもいかない。


「あの、実はパーティーに崖から蹴り落とされて――」


 レイナが、ネルヴァと顔を見合わせて驚いている。


 そりゃそうだろう。まさかこんなところでいじめに遭い、その末に殺されかけただなんて。


 さすがの剣聖も、大賢者だって思うまい。


「何があった?説明しろ」


 レイナが厳しい表情で聞いてきた。これまた答えないわけにもいくまい。俺はこれまでのいきさつをかいつまんで説明した。


「ひどい話だ!」


 レイナが憤る。


「あまり気分のよい話ではありませんね」


 ネルヴァも同情してくれている。


 その時、レイナの剣が目に入った。


 二本の剣の内、一本に刃こぼれがある。


「レイナ、よければその剣を見せてもらえる?」


 俺はレイナの持つ、刃こぼれのしていない方の剣を指さして言った。


 レイナは怪訝な表情を浮かべたものの、俺に渡したところでどうなることもないだろうと判断したのか、すぐ差し出した。


 俺は剣をレイナから受け取ると、丁寧に地面に置き、すっと左手をかざした。


 すると、右手の下にまったく同じ形の剣が突然現れ出でた。


 これには、さしものレイナたちも驚きを隠せなかった。


「何だ!どうした!?剣が増えたぞ!」


 レイナが叫ぶように言うのに対し、俺は冷静に答えた。


「俺のスキルなんだ。まったく同じものをコピー出来るんだよ」


「凄いな!」


「いや、レイナのそっちの方の剣が、刃こぼれしていたようだから」


 俺がそう言うと、レイナは自分が手に持っている剣を調べた。


「本当だ!刃こぼれしている」


「だからこれを。お礼がわりといったら何だけど」


 レイナは大喜びで新しくコピーされた刀を受け取り、マジマジと見て比較した。


 だがその横で、何故かネルヴァが眉根を寄せていた。


 俺は気になり、声を掛けた。


「ネルヴァ、どうかした?」


 するとネルヴァが、俺の人生を大きく変える驚くべき事を言った。


「アリオン、あなたの神力(しんりょく)は、途轍もないレベルですね」

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