第十六話 ギルドへ
「さて、それでは貴方のお宅へと向かいますか」
ネルヴァは何やら楽しげだ。
「何か、悪いね?」
「いえいえ、我々そう忙しいってわけでもないので」
「そういえば、二人って普段は何をしているの?」
「大賢者と剣聖をしています」
これってもしかして、笑いを取ろうとして言っているのだろうか?
だとしたら、笑ってあげた方がいいんだろうか?
いや、大まじめに言っている可能性もある。
ならばここは、無難にスルーするとしよう。
「いや、そういうことじゃなく、例えばギルドなんかに登録して冒険者をやっていたりするのかな、と思って」
ネルヴァはスルーされた事には反応せずに答えた。
「我々は、ギルドには登録していませんね」
「何で?登録した方が便利じゃない?」
「普通の人々からしたらそうかもしれませんが、我々からしたら面倒です。自由がなくなりますからね。ギルド登録をすると、一定数以上ノルマを稼がないといけないでしょう?それが面倒なんです。それに我々は名前が売れていますから、ギルドで依頼を探さなくても向こうから来てくれるんです。今回だってそうです。王家からの依頼が直接我々に届いたわけですから」
なるほどね。
ギルドに舞い込む依頼より、個人依頼の方が割もいいだろう。それに束縛されることもない。
彼らくらいの強者ならば、その方が楽って事か。
「そうか」
俺は思わず、そう一言だけ呟いた。
ネルヴァは、その俺のつぶやきに敏感に反応した。
「どうされました?」
「いや、俺はどうしようかなって思ってさ。確かにおかげで滅茶苦茶強くなったと思うけど、俺は二人のように名前が売れているわけじゃないから、個人依頼が来るわけもないし。かといって、ギルド登録は三人パーティーからって決まりがあるしね」
そう、俺はパーティーを追放された身だ。
もちろん強くなったからといって、元のゲイスたちのパーティーに戻ろうなんて気はさらさらない。
何せ、殺されかけたしね。
でも他の誰かを誘うっていうのも、俺は役立たずの荷物持ちってみんなに思われているだろうから、難しいし。
町中で、デモンストレーションでもするか。
広場かなんかで、空に向かって上級魔法なんかをぶっ放したりなんかして。
実はこうして強くなったから、誰かパーティー一緒に組まない?みたいな感じでさ。
いやあ、それも何か気が進まないなあ。
というかその前に、俺ってリリーサの元へ行ったら剣の修行ばっかりさせられて、冒険者の仕事やらせてもらえなくなるんじゃないだろうか?
俺は急にそのことが気になり、問い掛けた。
「あのさあ、宮殿に行ったらその後は俺、冒険者出来るのかな?」
あっさりとネルヴァは答えた。
「出来ると思いますよ。貴方が望むなら、王女様は反対しないでしょう。いや、多少は反対するかもしれませんが、基本は貴方に嫌われたくないという思いがありますからね。貴方次第でうまくやれると思いますよ」
本当にそうなんだろうか?
どうもその辺、俺にはそうは思えないんだが。
俺が女心に疎いだけなのかな?
そんなことを思っていると、レイナがいきなり問い掛けてきた。
「アリオンは冒険者を続けたいのか?」
「そうだね。続けたい」
「何故だ?」
「俺が物心つく前に死んだ父さんが冒険者だったんだ。母さんが言うには、とても立派な冒険者だったらしい。だから俺は、子供の頃から冒険者に――父さんに憧れ続けてきたんだ。だからだよ」
「そうか。それは立派な理由だな」
レイナはそう言って俺に向かって微笑んだ。
俺は何やら少しだけ恥ずかしくなって、はにかんだ。
そこで俺は、あることに気付いた。
「そうだ。家に帰る前にギルドに寄りたいんだけど」
ネルヴァが応じる。
「ギルドですか?構いませんが、なにをしに?」
「俺が生きていることを知らせておこうと思ってね。たぶんゲイスたちによって、死亡届を出されちゃってると思うし」
「なるほど。確かに彼らはそうしているでしょうね。判りました。まずはギルドへ向かいましょう」
俺たちは進む方角を変え、近くの町のギルドへと向かった。
「二人はここで待ってて。ここの料理は美味いんだ。俺は、ちょっとギルドへ行ってくるから」
町へ着いた俺たちは、中心部にあるギルドへと向かっていた。
だがギルドに用事があるのは俺だけのため、二人に付き合ってもらうのも悪いと思い、近くのレストランへと案内した。
「そうですか。では我々はこちらで待っているとしましょう」
「本当に美味いんだろうな?ここの料理は」
「保証するよ。じゃあ行ってくる」
俺はそう言い残して、レストランを後にした。
そしてすぐ近くにあるギルドへと、一人で向かった。
だがそこで、俺にとって実に聞き覚えのある、嫌な声が聞こえた気がした。
まさか――
俺は嫌な予感を胸に抱き、ギルドの壁越しに耳をそばだてた。
「あのガキ、魔物に食われて、それはもう無様に死んじまいやがった。まあ役立たずの末路なんて、しょせんはあんなものさ」
大当たりだ。これはゲイスの声だ。
しかも、どうやら俺の話をしているらしい。
ただし、自分が崖から突き落としたとは言っていないようだ。
俺はしばらく、ここで奴の言い分を聞いてやろうと思った。
「本当になあ。そりゃあもう、食われながら無様に泣き叫んでいやがったぜ」
これはパーティーの盾役で、三度の飯より暴力が好きなキリオの声だ。
「へい、まったくもって最後まで情けない奴ですぜ。それにあのガキ、結局ゲイスさんの力に一度もなることなく死んじまいやがった」
これは黒魔法使いのレットーレ。ゲイスの腰巾着で、口を突いて出るのはおべっかばかりだ。
「本当にねえ。ちっとも役に立たなかったからねえ。同情する気も起きないってもんさね」
女盗賊のミリヤ。サディスティックで、蛇みたいにネチっこい。
「おうよ。おでもそう思うどー」
馬鹿のグリエル。とてつもなくデカく、腕力だけが取り柄のグズ。
さて、となれば最後は奴かな?
「まあ、役立たずの能なしは死んだことですし、今後の事を考えましょう」
はい、来た。副将格のギョージャ。冷酷非情な性格。ちょっと気取った感じが鼻につく男。
一応全員出そろったみたいだな。
いや、もう一人いたか。今はもう、パーティーの一員じゃないけど。
そう――そろそろ俺の出番ってところだね。
俺は壁から背中を離し、踵を返してギルドの中へと入っていった。




