第十三話 リリーサ王女
「あ、貴方――」
リリーサ王女はワナワナと身体を震わせながら立ち上がり、俺の方へと向かってくる。
どうやら、俺をぶん殴ろうとしているらしい。
どうしよう。
相手はふらふらだし、避けようと思えば避けられると思うけど、いかんせん不憫だよなあ。
ちょっとくらいなら、殴られてあげようかな?
でもなあ、あのド鋭い剣技を見た後だからなあ。
いくらふらふらとはいえ、ぶん殴られたらぶっ飛びそうだ。
俺がそんなことを思っていると、リリーサはもう目の前まで近付いていた。
「あ、貴方は――」
うーん、どうするか。殴られるべきか避けるべきか。ここは思案のしどころだといえよう。
「な、なんて――」
うん?なんて?お前はなんてって言ったのか?じゃあその言葉の続きはなんだ?
俺がそんなことを考えていると、リリーサがあまりにも予想外な一言を口にした。
「凄いの!!」
へ?
今何と?
「貴方、年齢はいくつ?」
「14歳ですけど」
「わたしより一つ年下じゃない」
「はあ、そうですか」
「何でよ?何で全ての魔法を伝授してもらえたのよ。わたしだってまだなのに」
「それはそのう――」
俺はそこでチラリとネルヴァを見た。
ネルヴァはコホンと一つ咳払いしてから、説明しはじめる。
「以前貴方にもお話ししたことがありますが、神力のことを覚えていますか?」
リリーサは可愛らしく、人差し指をあごにちょこんと置き、上を向いて考え出した。
「ん~と~、ああ、あれね。神界の力を流用するって奴」
「その神力が、彼には生まれつき備わっていたのです」
「生まれつき?そんなことあるの?確か厳しい修行を何年もこなさないと備わらないって言ってなかったっけ?」
「貴方にしては、よく覚えていましたね。その通りです」
「何か今、余計なこと言わなかった?」
リリーサが耳ざとく、ネルヴァの言葉に噛みついた。
俺は思わず吹き出しかけたものの、なんとかこらえた。
「いえ、特に言っておりませんので話を続けます。本来は貴方の仰るとおり、厳しい修行の果てにようやく会得するものなのです。ですから、彼はかなり特別なんです。わたしもこのような事例は聞いたことがないくらいですから」
リリーサは、目を大きく丸くして俺を見つめている。
な、なんか気まずい。
圧が凄いんだけど。
「ねえ、貴方のご両親ってどんな人?」
「普通かな?母さんは、まあ普通だと思う。父さんに関しては、俺が物心つく前に亡くなっているからよくわからないけど、俺と同じ固有スキルを持っていたって、母さんから聞いたよ」
「どんな固有スキルなの?」
「『アイテムコピー』っていうんだけどね」
王女は可愛らしく首をちょこんと傾げた。
「聞いたことがないわ。ネルヴァたちは?」
「わたしも聞いたことがありません。レイナもです」
「そうなんだ。でも同じ固有スキルを持っていたんなら、神力に関しても遺伝なのかも」
確かに。俺もそう思わないでもない。ただ、こればっかりは母さんに聞いても判らないだろうな。
なにせ神力なんて普通の人は知らない言葉だし。母さんも神力が使えたかなんて聞いたところで、首を傾げるだけだろう。
「かもしれないけど、今となってはわからないな」
リリーサは、あっさりと納得した。
「そうね。貴方のお父様がすでに亡くなってしまっているのでは仕方がないわね」
だがそこで、またもリリーサが人差し指をあごに当てて考え込んだ。
そして何事か思ったのか、ネルヴァの方を向いて問い掛けた。
「ねえ、ネルヴァ。その神力があったら魔法を全部教えてくれるの?」
ネルヴァはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。そういうわけではありません。例え神力が生まれつき備わった特異体質だったとしても、その神力が少なければ、上級魔法を教えたところで発動出来ませんからね」
「そうよね。てことはアリオン、あなたの神力って結構凄いの?」
リリーサが興味津々といった様子で、今度は俺に食い入るように問い掛けた。
「あ、ああ。まあね」
「ねえ、どれくらいあるの?教えて!」
リリーサはさらに前のめりとなり、もはや俺とおでことおでこをくっつけんばかりの勢いで聞いてくる。
仕方ない。教えてやるか。
「十万以上あるらしい」
リリーサは無言で、ゆっくりと首を傾けた。
そしてそのまま数秒間固まった後、首を元に戻して言った。
「十万―――――!?」
リリーサの声は、俺の鼓膜を突き破りかねない程の大音量だった。
そのため俺は、思わず両手で耳をふさいだくらいだ。
だがリリーサはそんな俺に委細構わず、さらに大音量で叫び続けた。
「凄い!!何よそれ!?そんなことあるの!?そんな数値有り得るの!?ねえ、どうなの!?どっちなのよ―――!!!」
俺はようやく止まったリリーサの質問攻めに辟易としつつも、ここで答えないとさらなる攻撃が降りかかってくると思い、仕方なしに答えた。
「本当だと思う。パラメーター表示に99999って出てるし、実際使ってみたら全然問題なく発動したし」
「マジ?それちょっと凄すぎるんだけど」
リリーサがもの凄いショックを受けたような顔をしていたので、俺はそれを和らげてあげようと思った。
「でもレイナに教わった剣技魔法の方は、まだ一つも扱えていないんだ。なにせまだ筋肉が発達していないから」
それを聞いたリリーサは、急に意識を取り戻したようになって、俺の二の腕を凝視しだした。
「そうね。確かにこの細腕じゃ、レイナの剣技魔法を扱えるわけないわね」
リリーサはまたも小首を傾げて考え込んでいる。
だがすぐに結論が出たのか、勢いよく言った。
「よし、わかったわ!」
リリーサは突然何か決断を下したかのように握り拳を作り、すっくと立ち上がった。
そして床に座っている俺を見下ろし、命令口調で言った。
「わたしがこれから、貴方を鍛えてあげる。いいわね!」
…………え?
俺は突然の展開についていけず、三人の前で呆けた顔をさらした。




