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コンプラ上等  作者: 桐生正恭


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4/4

4話目 一回戦

漫才チャンピオンの開幕!

一回戦に挑む若山と雛形は自分たちの笑いを信じて立ち向かう。

遂にこの日がやってきた。漫才チャンピオンの一回戦だ。

俺と雛形は会場の前に立ち、見上げていた。

「いよいよだな……」

雛形が口を開いた。流石の雛形も緊張しているようだ。

去年の漫才チャンピオンは三回戦であっけなく散った。結成十五年まで出れるこの大会は、漫才の猛者たちの集まりだ。そんな中、戦い抜かなくてはならない。

勿論目標は優勝だが、最低でも去年の結果は超えたい。

しかし、一発勝負のこの大会は、そう簡単にはいかない。失敗は許されない。一回一回を全力投球しないといけない。

「また何か考え事か?」

「いいや。気合入ってるだけだ。全員ぶっ潰す」

雛形がニヤッとした。俺たちは会場に入ることにした。


会場に入った俺たちは受付を済ませた。周りを見渡すと、顔見知りだらけだ。知らない奴はおそらくアマチュアだろう。

ここではプロもアマチュアも関係ない。全員ぶっつぶす。そして、俺たちがてっぺんを取るんだ。

漫才衣装に着替えていると、大和さんが現れ、声をかけてきた。

「よお、ストレートのご両人……元気してっか?」

「おはようございます、大和さん。今日はえらい喧嘩腰ですね……」

「今日はお祭りだし、お互いライバルだからな。先輩後輩関係なく全力でいく。だが、一緒に上に上がれる事も願っている」

「はい。お互い頑張りましょう」

「……それにしても何か調子良さげな顔してるな。もしかしていいネタでもできたか?」

「はい。おかげさまで」

「そうか、結果を楽しみにしている」

そういって大和さんは立ち去っていった。この舞台では大和さんもライバルだ。


漫才衣装に着替えた俺たちはネタ合わせを始めた。本番前の最終チェックだ。周りも小声でネタ合わせをしている。

「ストレート、準備お願いします」

「はい」

スタッフの人に呼ばれた俺たちは順番待ちの列に並ばされた。いよいよ出番だ。

出番が近づいてくると思うと、色々な事を考えてしまう。

このネタでよかったのだろうか?

前のもっと漫才漫才したしゃべくり漫才の方がよかったんじゃないだろうか?

一度負けたら終わりの漫才チャンピオン。不安がよぎってくる。

ネタを飛ばしたらどうしよう。ネガティブな感情が渦巻いてくる。

すると、雛形が声をかけてきた。

「アマチュアの遊び人や大学生のサークルごっこのお笑いに負けてらんねえぞ」

不安に駆られていた俺に気づいたのか、いきなり鼓舞してきた。

そして、グータッチを求めてきた。

「ああ。プロの……そして、俺たちの笑いを見せつけてやろう」

そう雛形に言い放ち、だせえなと思いつつもグータッチを返した。

「次の方、お願いしまーす!」

呼ばれて出囃子が鳴り、俺たちは舞台袖から駆け抜けた。


センターマイクの前に立ち、俺たちの漫才が始まる。

「どーもー!雛形と若山でストレートです!よろしくお願いしまーす!」

拍手が鳴りやむと、雛形が身体を斜に構えてポケットに手を突っ込みだした。

「おい、雛形……お客さんに向かってそんな態度やめろ」

そんな上っ面だけの俺の言葉を無視し、雛形は一言、

「コンプラ上等」

と言い放った。

すると、会場は笑い声に包まれた。

よし、いけるぞ。これは今回考えたつかみだ。ここで笑いがこなかったら今回厳しいであろうと思っていたが、これならいけるんじゃないか?

このつかみから笑いの流れをもっと手繰り寄せる。

「今のこのご時世になに言ってるんだ!」

そうツッコむと雛形にも火が付く。

「なんだよ、ああ!?時代が変われば笑いも変わるってか!?そんな事ねえんだよ!なあみんな!?俺についてこい!」

雛形が観客を焚きつけると、笑い声というより歓声のようなものが沸きあがった。

芸歴五年目にして、ここまでウケたのは初めてだ。嬉しさのあまり、感動して泣きそうになったが、俺たちはプロだ。その感情を押し殺し、漫才を続ける。

ここから俺たちは自分たちの人生を、そして生き様をぶつけるように漫才をした。

本来、台本の文字が頭の中にあり、それを言葉として放つようにして漫才をしていたが、心の底から叫ぶ、何かエネルギーがビッグバンを起こすんじゃないか、そんな風に思える漫才ができた。

時代に対し、世間に対し俺たちは毒を吐き続けた。体裁なんてクソくらえだ。

「もういいよ。どーも、ありがとうございました」

一回戦のネタ時間は二分で、あっという間に過ぎ去っていった。

舞台を去り、自分たちの荷物の位置に戻ると、俺たちは顔を見合わせ、大笑いをした。

「あー、漫才楽しすぎるだろ!」

「こんなに楽しく漫才できたのは初めてだ!お前がネタを変えてくれたおかげだ。ありがとう」

「何だよ急に。気持ち悪いな……」

「まあおかげで、俺たちの笑いが見出せたかもな」

「……まあな」


帰りの支度をしていると、大和さんが怖い顔をしてやってきた。

「お疲れ様です。どうしたんですか、怖い顔して……」

「お前らやってくれたな」

何をやらかしたか、心当たりはなく、きょとんとしながら雛形と顔を見合わせた。

「若手であんな破壊的な笑いでしかもウケてるのは久しぶりに見た」

「ありがとうございます」

「もっと若手らしく丁寧に漫才しろ。クソ」

そういい残し、大和さんは去っていった。その後ろ姿は少し悔しそうだった。

夜に今日の予選結果が出て、俺たちは一回戦を通過した。


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