3話目 相方
自分の笑いを模索しているうちに相方について考える若山。相方とは何か。
俺は自宅で一人、考え事をしていた。
こないだの飯会での出来事で、俺も改めて自分の笑いの在り方について考えていた。
大和さんには偉そうにあんな事言ったけど、正直、自分の笑いができている自信はない。
俺はネタ帳を見つめる。
「本当にこのネタでいいのだろうか……」
漫才チャンピオンの一回戦のネタ動画は配信サイトで配信される。
このネタが色々な人に見られるのか……予選のネタに不安を覚える。
ネタを見返すほど、このネタが面白くなく感じてしまう。
無意識に自分たちを押し殺して、漫才チャンピオンに合わせたネタを作ってしまっているんじゃないか?
俺たちの笑いはこれで合っているのだろうか?
違うに決まっている。こんなネタを予選でやって配信されるなんて恥さらしもいいとこだ。
俺は居ても立っても居られなくなり、雛形に連絡した。
ファミレスの席に座って待っていると、雛形がやってきた。
「何だよ、ネタ合わせならファミレスじゃねえ方がいいだろ」
疑問そうな表情で俺の前に座った。しばらく黙っていると、しびれを切らした雛形が口を開いた。
「もしかして……お前解散してえのか……?」
不安げに雛形が聞いてきた。その顔をみて思わず笑ってしまった。
やっぱりこいつは天然でバカだ。
「アホか……そんなわけねえだろ……」
「本当かよ。ならいいんだけどよ……そんな真剣に悩んだ顔して何があったんだよ」
「俺……予選のネタを作り直したい!」
一呼吸置いて、俺は雛形に言った。折角ネタを覚えてくれたのに、全部やり直してもらうのは正直申し訳ない。
わがままなのは分かってる。それでも俺は俺の笑いを追求したかった。
「……まあ、いいんじゃねえか?」
何の否定もせず、素直に受け入れるとは思わなかった。
「雛形……お前は何も考えてないのか?」
失礼だとは思うが、思わず聞いてしまった。
「そんなわけねえだろ!ふざけんなよ全く……ネタを作っているのはお前だからな。漫才に関しては、お前のやりたいようにやれよ」
「でも、あと二週間で一回戦始まるんだぞ……いいのかよ」
「何でお前が急に弱腰になってるんだよ。俺に関しては、必死にネタを覚えるのと、時間の許す限りネタ合わせをすることしかできねえけどな。お前の作ったネタを、ボケを、お前の予想を超えるようにするのが俺の役目だ」
いつも隣にいるから気づかなかったけど、芸歴を少し重ねて頼もしくなったんだな。
「俺の事よりお前の方はどうなんだ?予選までにネタ作れるのか?」
「意地でも作る」
「まあ覚悟してるもんな。それでどんな漫才にするんだ?」
「……雛形。お前の頭、思いっきり沢山叩いてもいいか?」
「何で今!?」
「今じゃねえよ!漫才でだよ」
「ああ、なんだ……ツッコミか」
「現代の笑いって、バイオレンスもあまり良しとしないだろ?叩いたとしても目に見えて手加減してるし、冷めんだよな。それに叩くことによって視覚的にツッコミって分かりやすいし、リズムやメリハリがついて漫才も見やすくなると思うんだ」
「まあ確かに最近の漫才師叩く人減ったよな……今の時代だと暴力的なのってイジメだなんや言われるからな」
雛形は腕を組んで唸って悩んでいる。そしてニヤリと笑った。
「おもしれえ……それでこそ漫才じゃねえか……」
やっぱり俺と雛形はお笑いの相性がいい。思えば、学生時代から好きなテレビだったり、憧れる芸人も一緒だった。相方になってから、こうやって笑いについて語る事は減っていったが、学生時代の時はいつも二人で語っていた。
俺は久しぶりのこの感覚が嬉しくて楽しく、もっと語りたくなった。
「俺さ、もっと毒とか悪口を取り入れた笑いしてえんだよ」
「お、いいじゃねえか!どんどんネタに取り入れろよ!今の時代の大喜利漫才には飽き飽きしてたんだよ」
「ボケのお前が世間や世の中に対して、悪口を言う」
「お前の思ってる事を俺が代弁するのかよ」
「それを俺がツッコミで訂正する」
「お前だけよく映る良い役目じゃねえか」
雛形が爆笑しながら言った。こいつも学生時代思い出して楽しんでるのかな。
そんな事を相方に聞くのは粋じゃないから聞かないけど。
にしても相方って不思議だな。いまだに慣れない。
養成所や芸歴一年目の頃は、毎日のように一緒にいてネタ合わせしたりしてたな。
五年目になった今、毎日会ったりするが、ネタ合わせも話す回数も減った。でも、不仲というわけではない。現にこうやって盛り上がって話している。
相方って、親友だったり、戦友だったり、ビジネスパートナーだったり。
多分コンビによって色々な解釈があるだろう。
俺は少なくとも雛形とは相方である前に、親友でいたいな。この先もずっと。
だってこいつと一生バカやって、こいつの事を笑わせたいから。
「若山……気持ち悪い顔してどうした?」
相方について思いを馳せていたら、雛形が声をかけてきた。
「なんでもねえよ。そろそろ帰るか」
「いいネタできそうか?」
「ああ、ありがとな」
二人で立ち上がり帰ろうとすると、雛形が何か思い出した顔をして、真剣な目になった。
「俺はネタ作ってねえから、なるべくお前の作る笑いに口出さねえようにしてっけどよ、正直、最近のお前は日和ってた。もっと世間に、世の中に牙を向けろ。それでこそお前だろ」
雛形の言う通りだ。俺の笑いは毒がモットーなのに、最近は無意識にネタが丸くなっていたのだろう。普段何も言わないのに言ってくるのだから、よっぽどの事だ。
言ってくれたのが嬉しかった。
やっぱり……
「お前が相方でよかったよ」
思わず口に出してしまった。
「気持ち悪い通り越して怖いわ」
変な空気になってしまった。やっぱり相方って難しい……




