2話目 笑いの在り方
今の時代のテレビや漫才、笑いの在り方についての苦悩。
大和さんに連れられた俺たちは、劇場の近くの居酒屋に来た。
個室に入り、座った俺たちに、大和さんは聞いてきた。
「何だお前ら。金岡の事嫌いなのか?」
「いえ。決してそういうわけじゃないですよ。ただ正直、中途半端な漫才や笑いをしている先輩はやっぱり尊敬できないです。」
雛形も続く。
「金岡さんどうこうじゃなくて、どうして芸人って上下関係こんなうるさいんですかね?普通の社会が嫌で芸人になってるのに、妙に社会的というか……」
「そりゃそうだろ。」
「え?」
俺たちは思わずきょとんとした。大和さんは絶対共感してくれると思った。
「お前ら二人だけでお笑いやってるつもりか?テレビとか出たら特にお笑いが好きでもない奴がいっぱい見るだろうし、出演者はチームプレーで番組を作り上げるんだ。俺も過激な発言はするが、周りのフォローがあるからこそできることだ。」
ぐうの音も出なかった。大和さんはこんなにも考えて笑いをやっていたんだ。
「確かに上下関係はややこしくて、厳しいものがあるが、大切にしろ。芸人同士はライバルだが、何かあった時には、お互いを助け合う仲間で宝物なんだから。」
大和さんは険しい顔で見つめながら言ってきた。それだけ俺たちの事に真剣に向き合ってくれているのだろう。
二人で下を向いていたら大和さんがニヤッと笑った。
「だが、お前らのその笑いに対しての尖り具合は買うけどな」
急に褒められて思わず雛形と顔を見合わせた。
「正直、笑いに対する真剣さ、熱量は今の若手にはねえよ。後輩にこんな事言いたくねえけど、下からのし上がってくる脅威と言ったらゾッとするよ。いい刺激になってるぜ。負けてらんねえって」
「はあ……ありがとうございます」
今日の飲み会は説教で終わると思ってたから、褒められる流れにきょどってしまった。
「お前らも漫才チャンピオンの予選でるんだろ?」
「勿論です。本当はあまり乗り気じゃないですけど」
「どうしてだ?」
俺は悩みながらも大和さんに話すことにした。
「近頃、漫才チャンピオンが漫才の頂点のように崇められてる感じが嫌で。賞レースが売れるための道標っていうのは分かってるんですけど。でも、漫才チャンピオンで勝つために分析して作られた漫才が嫌で、これは本当に面白いのか?ってなっちゃうんです」
「俺は時代をぶっ壊すような笑いをしたいから若山とコンビを組んだんです。こいつとならできるって。毒を吐いたり、世間を蹴落とす。そんな笑いがしたいです」
「大学お笑い上がりの頭を使う難しい笑いや、ボケツッコミのない二人でワンセットで笑いをとるような笑いとか作品的な笑いとか嫌いなんですよね」
「俺はボケだから余計思うんですけど、ボケをフリにすんなっつーの」
俺と雛形はこんなお笑いをみんなとやりたくてこの世界に入ったわけではない。そういった鬱憤から、愚痴が止まらなかった。
ハッと二人は我に返り、また怒られると思い、大和さんの顔色を窺った。
意外にも怒りの表情ではなく、悲しそうな、切なそうな表情をしていた。
「俺も自分の笑いの在り方には悩むもんだ……本来芸人は見てくれている人を笑わせる事が絶対条件。劇場では比較的好きな笑いができているが、テレビがな……」
「時代やコンプラですか?」
「そうだ。」
大和さんはちょくちょくテレビで暴れたり、放送ギリギリの過激な発言をして炎上したりする。
大和さん自身は炎上など気にするような性格ではないが、そういったことに敏感なのは、世間やネットだ。
何かあればすぐに無責任に何も考えもせず、クレームを入れたり、ネットに投稿したりする。
それをまた暇なバカが拡散したり、あえて悪く見えるように切り取ったりする。
週刊誌なども同様だ。
人の不幸を楽しんでバッシングする腐った世の中。
こういう世の中に笑いをもたらしたくて頑張っているのに、コンプラで出れない芸人や、番組自体が面白くなくなっている。
大和さんも面白いし、ファンも多いのに、テレビに中々馴染めず、オファーがあまり来ない。
「今の時代のテレビの在り方があるのはしょうがないことだ。それは分かってる。でも俺には俺の笑いの在り方、芸人の在り方、プライドがある。だからこそ、その狭間で悩んじまうんだよなあ」
大和さんが笑いの事で弱音を吐くのは珍しい。
「今の時代、サブスクやネット番組があるし、規制緩いし、力があるからそっちに移行するかなあ。漫才は劇場でとりあえずできるし。テレビはここらが潮時かな」
俺は悔しい気持ちが込みあがり、立ち上がった。
「そんな悲しい事言わないでくださいよ!」
大和さんと雛形がびっくりして顔を上げた。
「弱気にならないで下さい。世間や時代、コンプラが窮屈なら、俺たちが変えればいいじゃないですか!俺たちの笑いが世の中に押し付けて教えてやればいい!俺らが時代になりましょう」
「若山……」
「大和さん……コンプラ上等!」
「ああ……そうだな。ありがとう」
「勿論です!俺の兄貴であり、師匠のような人ですから。大和さんの笑いは最高です」
「俺もそう思います」
「便乗すんな」
俺たちの笑いの在り方は俺たちが決める。改めてそう思った。




