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第8話:まさかの展開!?思ってた話とぜんぜん違うんだけど!

第8話、今回のテーマは「まさかの展開!?思ってた話とぜんぜん違うんだけど!」です。

ヒロシが珍しく(?)自分のことを少し話してくれて、ユリとの距離がほんのちょっとだけ縮まった…そんな回。

でもその裏で、ユリの「子供の頃の記憶」に関する小さな謎も顔を出します。

ツンデレ全開のヒロシと、記憶のカケラを探すユリ。

さて、この“懐かしさ”はただの偶然か、それとも――?

第8話:まさかの展開!?思ってた話とぜんぜん違うんだけど!


ヒロシの話は、真面目な内容とちょっとしたユーモアが混ざってて、さっきまでのぎこちなさが少しずつ溶けていく。代わりに、じんわりあったかい空気が部屋を包み込んだ。


私も、自分の話をした。絵を描くのが大好きなこと、家族とすごく仲がいいこと、そして未来の夢のこと。

話している間、ヒロシが私を――本当に――見てくれているって気がした。ちゃんと頷いたり、たまにほんの少し笑ったりしてくれる。それが妙に嬉しかった。


(……ちゃんと聞いてくれてる…)


「……で、だ」

ヒロシが咳払いをして視線を逸らす。

「お前、ガキの頃はどこに住んでたんだ?」

そして、そっけなく付け足す。

「勘違いすんなよ。別に興味あるわけじゃねぇ。あくまで…設定上必要な情報だ。うちの親に“どこ出身”か聞かれるかもしれねぇからな。」


(あれ、最近のじゃなくて…子供の頃の住所…?)


「えっと…最近のじゃないんだよね?」

おそるおそる聞くと、ヒロシは一瞬じっと見つめてきたあと、視線を外した。


「今そう言ったよな?」低めの声で淡々と返す。

「勘違いすんな、全部知っとくべきだってだけだ。」


「あ、あはは…そ、そうだよね…」


(もうちょっと聞き方ってもんがあるでしょ…)


「えっと…小さい頃は…あんまり覚えてないけど、神奈川の東逗子にあるじいちゃんばあちゃん家に引っ越したんだよね。」

記憶をたどりながら言うと、ヒロシはソファにもたれ、顎に手を当てて考え込むような顔をした。


「ふーん…じゃあその前は? なんで引っ越したんだ?」

一瞬私を見たあと、また窓の外へ視線をやる。


(……結構食いついてる? やっぱ“婚約者”設定のため…なのかな)

私は小さく微笑んで、さらに思い出そうとする。


(でも…何かが引っかかる…これって、あの頃の出来事と関係ある…? 言ったほうがいいのかな…)


こっそりヒロシの顔をうかがうと、無表情で私を見つめていた。


(うわ…完全に答え待ち…! あぁ〜、脳みそ早く動いてよ〜!)


必死に思い出そうとしたせいか、無意識に顔がピクピクしていたらしい。

ヒロシの声で現実に引き戻された。


「ユリ、お前…ここ、シワ寄ってるぞ。」

そう言って、自分の眉間を指差す。


(あーー! 絶対変な顔してた…!)


「勘違いすんなよ。」腕も足も組みながら、ぶっきらぼうに続ける。

「急かしてるわけじゃねぇ。昔のことなんて忘れててもおかしくねぇしな。」

少し目を細めてから、また窓の外を見た。


「う、うん…ありがと…」

私も外を見る。新宿の夜景が宝石みたいに輝いていて、蛍の光みたいにやわらかくまたたいている。気づけば顔が緩んで、心がふわっと遠くへ飛んでいた。


(綺麗…シンと一緒に見られたらなぁ…)


「……ゴホン」

ヒロシの咳払いで現実に戻る。

横目で見ると、彼は私を見てから夜景に目をやった。さっきまでの不機嫌そうな雰囲気が一瞬だけ薄れた気がしたけど、すぐにいつもの顔に戻る。


(あ、やば…今、会話の途中だったじゃん! 絶対呆れてる…!?)


「えっと、ご、ごめん。ちょっとボーっとしちゃって…」

照れ笑いを浮かべると、ヒロシは相変わらずこっちを見ない。


「あ、そうだ…思い出した。親が言ってたんだけど、引っ越す前は四ツ谷サンクロームってとこに住んでたみたい。」

さらに記憶を探っていくと、頭の片隅に引っかかる何かがあった。


(そういえば…お母さんが言ってたっけ。昔の記憶が少し抜けてるって。でもなんでかは教えてくれなかった…)


チラっとヒロシを見ると――


(えっ…今ちょっと驚いた顔…? 気のせい?)


「で? それから?」

さっきまでの無表情に戻っている。


(やっぱり気のせいか…)


「よくわからないけど、引っ越した理由は何回聞いても教えてくれなかったんだよね。」

苦笑いしながら続ける。

「ただ、“友達がいた”ってことだけは教えてくれたけど…その友達が誰なのかも全然覚えてないの。」


(……まただ! 今ほんの一瞬だけ驚いた顔! 気のせい…?)

身を乗り出して反応を確かめようとしたけど、すぐにいつもの顔に戻る。


「……なに?」

低く、少しだけ荒い声。

「俺の顔になんか付いてんのか?」


「あ、い、いや、なんでもない!」

慌てて背筋を伸ばし、引きつった笑顔を返す。


ヒロシは首筋をかきながら、眉をわずかに上げた。

「つまり…記憶喪失ってことか?」


「う、うん。親がそう言ってたから…」

小声で答え、また苦笑い。


(まぁ普通なら“そういう質問”するよね…)


ヒロシは無表情のままじっと私を見つめてくる。

(そんなに見ないでよ…恥ずかしいってば…)


長い沈黙のあと、彼は小さく息を吐き、低い声で言った。

「何回も聞いても黙ってた…理由も言わなかった…」

顎に手をやり、考え込む。

「タダじゃねぇな。大きな出来事があったんだろ。…トラウマとか。」


「……トラウマ…」

小さくつぶやき、また視線を夜景へ。


(トラウマ、ね…確かに考えたことはあるけど…映画みたいに思い出そうとしたら頭が痛くなるとか、そういうのはなかったし…

それに、ヒロシと会ってから、これが初めてじゃない気がして…でも辛い記憶って感じでもない。ただ、前にどこかで会ったことがあるような…スーパーのレジとか、ほんとその程度かもしれない。)


自然とヒロシのほうを見ると、まだじっと私を見ていた。


(……これ、もはや“仲良くなる”っていうよりQ\&Aタイムじゃない?)

心の中で乾いた笑いを漏らす。

今回、ヒロシは終始そっけない態度を取りつつも、ユリの過去にやたら食いつくという…作者的には「お前、興味ないって言ったじゃん!」とツッコミたい展開でした(笑)

そしてユリの「記憶喪失(?)」設定、いよいよ物語の奥のほうに関わってきそうな予感。

次回も二人の距離感と、“懐かしさ”の正体にご注目ください。

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