第5話:契約のはじまり
こんにちは、作者です。
今回はちょっとだけドキドキ回!
偽の婚約者から…まさかの「偽の恋人契約」へ!?
しかも同棲の提案まで飛び出しちゃって、Sayuriの心はもう大混乱。
ツンデレHiroshiくんの赤面と、周りの仲間たちのわちゃわちゃ感もお楽しみに〜!
第5話:契約のはじまり
混乱して、驚いて、…そして少しだけ希望が見えた。
(彼女のフリ…?)
変な感じ。でも、なんとなく筋は通ってる気もする。
心臓がドキドキして、ヒロシさんの提案の意味を考えてしまった。
タクヤくんが椅子にもたれ、少し考えるように言った。
「悪くない話だな。俺はもともとヒナコさんと結婚してほしくなかったし。お前が望むなら、協力してやるよ。ヒナちゃんとの縁談を潰せるならな」
(……)
カズキくんがまた茶化すように笑った。
「おぉ〜、これは物語の急展開じゃん? 偽の婚約者が、偽の彼氏になるなんてさ〜」
みんなを見回すと、なんだか妙な絆を感じた。
おかしな状況なのに、なぜか繋がってる気がした。
リョウくんは静かな顔で私を見て、小さくうなずいた。
「大丈夫だ」って、目でそう言ってくれてるようだった。
ハルキくんはにっこり笑って、ヒロシさんの背中をポンと叩いた。
今まで黙っていたトシおじさんが、ついに口を開いた。
「若いもん同士で考えたんなら、いい案だと思うぞ。お互いのためになるなら、俺は応援する」
そう言ってから、ヒロシさんをまっすぐ見つめ、口元だけ笑った。
「…ただしな、ヒロシくん。サユリは俺の姪だ。もう二度と、あの子を泣かせるようなことはするなよ」
笑顔のまま…でも、目は氷みたいに冷たい。
(うわ…おじさん、本気で怒ると怖いんだよなぁ…)
ヒロシさんは反射的に少し後ろに下がった。
「も、もちろんです」
自信ありげに言おうとしたけど、眉がピクっと動いてる。
「だ、だいじょうぶですよ。サユリさんに迷惑かけるつもりはないです。あくまで…お互いの利益のためですから」
そのやり取りを聞きながら、私はいろんな気持ちが混ざっていた。
ヒロシさんは何度も私を見てきた。
その視線は真剣で、目が合うとすぐ逸らすけど――
…正直、惹かれてしまっている自分がいた。
(え…私、ヒロシさんのこと…ちょっと気になってる?)
(ただの演技でも、一緒に過ごせるのは…なんか嬉しい。なのに、私って、ついこの前まであんなに悲しい婚約破棄したばかりなのに…)
「誤解するなよ、ユリさん」
ヒロシさんは強い声で、でも少しだけ不安を隠せないような響きで言った。
「今すぐ答えを出せってわけじゃない。時間が必要なら、それでいい」
視線を逸らし、ほんのり頬を赤くして続ける。
「…それに、君が断っても、俺は君の両親の前では婚約者のフリを続ける」
(…なんで? 私が断ったら、あなたには何の得もないはずなのに…
それに、“私の婚約者のフリ”しながら、別の“偽の彼女”なんて見つけられるの…?)
カフェが急に静かになった気がした。
私とヒロシさんだけが、この場にいるような感覚。
タクヤくんがまた口を開く。
「決めるのはサユリさんだ。俺たちはどっちにしても応援するよ。もちろん…もしお前がサユリさんを置いて消えたら、殴るけどな」
そう言って、柔らかく笑った。
ヒロシさんはむっとしてタクヤくんを見た。
「チッ…勘違いすんなよ。お前に頼まれたからやるんじゃない」
腕を組んで、子どもみたいにふくれる。
(わ…わかりやすいツンデレ…?!)
思わず苦笑いしてしまったけど、その目はちゃんと理解してくれてる目だった。
私はうなずいた。
「…わかった。やろう。カップルのフリ」
少しぎこちなく、でも笑顔を見せる。
「前に助けてもらったし…それに、婚約者のフリしてる間に、別の“偽の彼女”なんて無理でしょ?」
その瞬間、ヒロシさんの肩から重荷が下りたように見えた。
笑いはしなかったけど、表情の緊張がやわらいだ。
「…よし」
低い声でそう言い、真剣な目で私を見る。
「じゃあ、ちゃんと計画を立てよう。リアルに見せるために、一緒に暮らすのも考えないと」
頬がほんのり赤いけど、視線はまっすぐ。
「……え? 一緒に…暮らす?」
怖いような、でも少しワクワクするような響き。
(ヒロシさんと一緒に…? 会って間もないのに?)
でも、たしかに説得力はある。
(同棲すれば、話はもっと本物っぽくなる。
…そして、それは…元カレのシンと、両親に紹介した後で考えてたことでもある…)
「大きな一歩だってわかってる。だけど、それが一番リアルに見せられる。誤解を避けるためにルールも決めよう。あくまで“契約”だからな」
真面目そうに言うけど、耳まで赤い。
カズキくんはニヤニヤ全開。
「へぇ〜、“契約のためだけ”ねぇ? サユリさんの両親に話すエピソード、いっぱい作れるな〜」
リョウくんは静かにコーヒーを口にして、
「もし二人がいいなら、俺たちで部屋を探そう。カップルらしい、居心地のいい場所がいいな」
そう眼鏡を押し上げた。
(ヒロシさんと…普通の日常を送れるかも。
ただの演技でも…彼のことをもっと知れるかもしれない。
…でも、なんでだろう。少し何かが足りない気がする…)
みんなの顔を見た。
どこか楽しそうで、優しい。
それが、怖さを少し減らしてくれた。
「…いいと思う」
不安は残るけど、強く言った。
「同棲すれば、両親も疑わないはず」
ヒロシさんの表情がやわらぎ、ほっとしたようにうなずく。
「わかった。安心しろ、ユリさん。境界線はちゃんと守る。ただ…話を信じてもらうためだ」
全員がうなずいた。
そこへトシおじさんが、穏やかな笑顔で近づいてきた。
「知り合いが近くでいい家を持っててな。空いてるか聞いてみよう。お前らの“演技”にはぴったりかもしれん」
(…おじさん、やっぱり優しいな)
一人じゃないって思わせてくれる。
「引っ越し手伝うぞ!」とハルキくんが笑う。
「普通の部屋をラブネストにするなんて、燃えるじゃん!」
カフェに希望が満ちる。
なんだか…良い方向に進みそうな気がした。
タクヤくんは作戦会議みたいに言った。
「ハナコの縁談を知ってる人たちへの対策も考えないとな。全部筋を通すために」
リョウくんもうなずき、
「そうだな。話の辻褄は合わせないと」
カズキくんは笑顔で、
「これってロールプレイゲームだな」
トシおじさんは落ち着いた声で、
「本物に見せたければ、本当の部分と作り話を混ぜるんだ。お互い似てるところを見つけて使え」
そして、私を見て優しく続けた。
「昔の婚約のことを知ってる友達には、ちゃんと説明しておけ」
(…そうだ)
(シンとの破談のことも、ヒロシさんと初対面でフィアンセのフリをしてることも…全部話さなきゃいけない)
胸の奥から重いため息がこぼれた。
(ウソは良くないってわかってるけど…もう、両親に心配かけたくないんだ)
みんな性格は違うのに、私を助けたいって気持ちは同じ。
ヒロシさんの隣にいると、安心できた。
そして、この不思議な旅路も…一人じゃないと思えた。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
契約開始早々、波乱の予感しかしませんが…果たして無事に「恋人役」を演じきれるのでしょうか?
次回も、ツンデレ×ふわふわの空気感をお届けしますのでお楽しみに!