第1話:最初の訪れ
これは、さゆりの物語のはじまり。
少しずつ運命がほどかれていく、やさしい出会い。
さゆりの世界に足を踏み入れてくれて、ありがとう。
この静かな「最初の訪れ」と『仮初めの誓い』の始まりを、楽しんでもらえたら嬉しいです。
土曜日の朝、新宿の街角を歩いてた。
お天気はよくて、空気も気持ちよかったけど……胸の中はずっと、そわそわドキドキしてた。
(……だって今日は、婚約者さんに会う日だもん。しかも、両親が選んだカフェで……)
(……うん、大丈夫……)
私はぎゅっと紙を握りしめて、もう一度住所を確認した。間違ってないよね、ここで合ってるはず。
(お母さんが「このカフェは人気がないけど、静かでいい感じよ〜」って言ってたな……)
そう呟きながら、ゆっくり歩いた。
やがて、目の前に現れたのは――なんてことない、ふつう〜のカフェ。
(……ここで合ってる?)
不安混じりに深呼吸して、そっとドアを開けると、頭上の小さなベルがチリンと鳴った。
中に入ると、ふわっとあたたかい空気に包まれた。
静かで落ち着いた雰囲気、そして香ばしいコーヒーの香り……なんだか、ちょっとだけ安心した。
照明もやわらかくて、椅子もふかふかそう。
(ふぇ〜……たしかに、大事な話をするにはぴったりかも〜)
私はちょっと安心して、ふにゃっと微笑んだ。
店内を見渡すと、すぐに目に入ったのは――五人のイケメン男子たち!
それぞれ雰囲気も違ってて、でも全員が目立ってる。
(……んん?な、なにこれ!?ここって静かなカフェじゃなかったの!?)
彼らは何やら真剣に話してたけど、私が横を通ったとたん、全員がこっちを見た。
思わず顔が熱くなって、視線を逸らして、そそくさと空いてる席に座った。
――と、そこで。
ふと見覚えのある顔が目に入った。
どこか……お母さんに似てるような気がする。
(もしかして……お母さんがよく話してた“お兄ちゃん”!?)
「こっちおいで〜」
優しい声に誘われて、その人の隣に行くと、なんだかホッとした。
「陽菜ちゃんから聞いてると思うけど、俺は真琴俊郎。お母さんの兄貴さ。」
(やっぱり!)
まだ名乗ってないのに、ちゃんと私のこと知っててくれてたの、なんか嬉しかった。
私は立ち上がって、ぺこりとお辞儀して、
「宮崎さゆりです……」って、小さく名乗った。
すると、俊郎さんはクスッと笑った。
「え?な、なんか変でしたか……?」って私が聞くと、
「いやいや、変じゃないよ」って、にこにこしながら言った。
「昨日の夜、お母さんから電話があってさ。婚約の話を聞いたよ。陽菜ちゃん、嬉しそうだったよ〜。でもちょっと心配もしてた。決めたあとで報告だったからね。でも、こうして君の顔見たら、幸せそうだし、ぜんぜん大丈夫だな〜って思ったよ。」
その言葉に、緊張してた気持ちが少しだけ軽くなって、私もにっこり返した。
でもやっぱり、胸の奥はまだちょっぴりドキドキしてた。
『仮初めの誓い』第1話を読んでくださって、本当にありがとうございました。
さゆりの物語は、まだ始まったばかりです。
これから彼女には、たくさんの気持ちと出会いが待っています。
感想やご意見など、いつでもコメントをいただけたらとても嬉しいです!