表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

これで満足?


 「よしっ。これで満足?」


 「え? あ、はぁ…」



 さっきまで甘く優しい声をしていたのに、急に冷徹な目になり、鋭い声だ。何なのこの人。さっきまでのは演技ってこと? そりゃあそうか、初めて会った人に、心からこんなに優しくする人居ないもんね。何でだろう… 何だか、虚しいと言いますか、苦しくなってきた…


 「ありがとうございました。今日は色々ありましたが楽しませてもらいました。では」


 「そっか…。うん、また」


 何だか、私のやっている事は自分の為しか考えていないと突きつけられている気がして、目の辺りが熱くなる。それを悟られる前に帰らないと。石田さんに背を向けて私がスタスタ歩き始めると、


 「あ! スカートに虫が!」


 と後ろから聞こえ、ワンピースを着ている私は思わず後ろを振り返り確認してしまう。するとそれを言ったのは石田さんで、ウインクしながら舌をぺろっと出して、いたずらっ子の様な顔でこっちを見ていた。

 

 (まずい! 泣いてる顔を見られてしまった)


 私はプイッとまた背を向け、家に帰った。しばらく経っても、石田さんからの連絡は無い。いったいあの時間は何だったんだろう。石田さんは何で私に会いたかったんだろう…


 朝になり仕事に行くと、希ちゃんに昨日の話をした。


 「うわー、なんか嫌味な人だね。でも、やり方は図星を突く様なやり方だけど、その人も、取扱説明書に囚われるなって言いたかったんじゃない? 初対面でそれを伝えるって結構凄いことだけど」


 「そー、図星だった。結局、私って自分の事しか考えられないんだよ。だから、今まで彼氏が出来ても上手くいかなった。それを分からせてくれたんだよね」


 空を見上げるように言う私に、こう言った。


 「おーい、蛍光灯見つめて何浸ってんだー。で、それからその人から連絡は?」


 「何も。きっと私が取扱説明書出したから、怒ってあの人なりの嫌がらせをしたかったんじゃない?」


 「んー、そう言う考えもあるけどさ、ポジティブに考えたら、初見で無いわってなった人と、プチデートする? 例え、それが刹那に現実を見させる理由だったとしても、全く興味無いのにそんなことするかな?」


 「えぇ〜無い無い」


 と言いながら、私は少し期待してしまった。


 利用者さんが来て、いつも通り仕事をする。だが今日はハプニングが多かった。入浴介助の際に、利用者さんが壁にかけたつもりだったシャワーヘッドが踊る様に落ちて、お湯が私の顔に命中。ヘッドの部分とホースが回らない構造で、捻れた状態で壁に戻したのであろう。

 まだ午前の枠なのに と、テンションは下がるが、利用者さんも悪くない。悪いのはこのシャワーヘッドを採用したデイのオーナーだ。


 午前の利用者さんが帰って行き、昼食が始まった。お昼当番だった私は、急いで準備するが…


 「やばい、ポットのコンセント抜けてた」


 毎朝、確認しているのに、今日に限って確認を怠ってしまっていたんだ。


 お茶っ葉は水出しでも作れるものだったから、ポットのお湯が沸くまで水出しで取ったお茶を配る事に。ワタワタとしている私に、優しい利用者さん達。私も微笑んで、お弁当を配っていると、他のスタッフが沸いたお湯でお茶を作って持って来てくれていたところに激突してしまった。幸い濡れたのは私だけで、持って来てくれたスタッフも利用者さんにもかから無かった。私も、かかったのは手だけ。


 「大丈夫ですか!?」


 正直熱かったが、私が周りを見れてなかったせいだ。


 「大丈夫、大丈夫! てか、私が悪いのよ。かからなくてよかった…」


 お弁当は全て配り終えた事で、もう一人のスタッフにお昼当番は一時的に任せて、手を冷やしに給湯室へ向かった。


 「手、大丈夫?」


 給湯室でお昼休憩をとっていた希ちゃんが心配してくれた。


 「大丈夫! 私の不注意でぶつかっちゃったから」


 手をサッと隠しながら笑う私。


 「なんか、今日色々ある日だね。今日スタッフ多い日だし、午後は帰って休む?」


 「いやいやいや、こんな事で帰っちゃまずいよ」


 「怪我してるんだから、まずかないけど、帰りたがらないのに無理に帰すのも酷だしなぁ… やっぱり帰るとかなったらいつでも言いな? 森さんに話つけとくから」


 森さんと言うのは、ここの管理者。


 「ありがとう、希ちゃんは優しいね〜」


 「ちょ、泣くな引っ付くな〜!」


 私は午前の間で色々ヘマを犯し過ぎてメンタルが弱り、希ちゃんに泣きながら抱きついた。しばらく手を冷やしながら、お昼当番が終わり、休憩をとって午後もいつも通り働いた。午後は何事もなく終わり、今日の仕事は終了。


 「あーー、今日が月曜日だと信じたくなーい」


 「ほんとね〜。 まぁ、働かないと家計が苦しくなるんだけど」


 入浴介助に使っている脱衣所で、カーテン越しに希ちゃんと着替えている所だ。


 「あのさ〜、今日の朝、私が言ったことで、頭回んなくなってるんだったら、ごめんね。でも、そんなに気になるんだったら自分から連絡したら?」


 (あぁ、そうか。確かに頭の中にずっと石田さんが居た。凄く嫌味な人だけど、私とちゃんと向き合ってくれたのはあの人だけ)


 「まぁ、今日ヘマしたのは私が注意散漫してたからで、石田さんは関係ないんだけどー、希ちゃんがそう言うなら連絡してみようかな〜」


 「はいはい、素直になったらいいのにー」


 と、呆れながらも私を応援してくれる希ちゃんの存在は大きいな。


 希ちゃんとは別れて、私も家に帰る。家に着き、すぐにシャワーに入って、冷蔵庫を開ける。


 「これが無いと寝れないよね〜… まじ!! お酒きらせてるの忘れてたーー!」


 渋々ウォーターサーバーの水を飲む。


 「お風呂入ったのにもう一回外出るのめんどくさいなぁ、何か作ろうと思ってたけど、お酒は飲みたいし、今日はコンビニで済ませるか〜」


 お風呂に入った後なので、伊達メガネをかけて完全オフモードな私。コンビニに着き、いつも買っているチューハイを3本、冷製パスタとチーズを購入。手に袋を下げ店を出ると、何処かで見た事がある人が車から降りて来た。


読んで頂きありがとうございます。

引き続き宜しくお願いします。

応援して頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ