表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

受け取って下さい!

 「これ、私の取扱説明書です!受け取ってください」


 「え? は、はぁ… 僕用事思い出したので、今日はこれで!」



 あー、今回も。これすると毎回引かれるんだよね。でも、この手法は止めない。


 私は、鳥野とりの 刹那せつな。デイサービスで勤務している26歳。高校卒業してからずっとここで勤務している。という事は、もうお分かりですか? そう、出会いが無いんです。学生時代や、友達の紹介で交際に発展する事はあったよ。でも、みーんな私の事を分かってくれないの。良かれと思ってやってくれる事でも、そうじゃ無いんだよなぁってなるし、私が喜んでもらえると思ってやった事も、何だかピンと来ない感じで…。 そこで、思いついたのが、私の取扱説明書。どういう時にこうされたいとか、何が好きとか、聞かれなくてもやってくれる。相手も迷う事がない。それってめっちゃ楽じゃん? 腹も立たないし、気を遣って喜んだふりもしなくて良い。なのに…


 

 仕事中のお昼休憩にササっとカフェでランチ。


 「今日もダメだったの?」


 「うん…。 私が取扱説明書を出したら引いて逃げちゃった」


 「マジ!? 本当に身近でそれする人居るんだ! テレビで取り上げられてて他人事だと思ってたよ」


 私の話を聞いてくれている人は、同じタイミングで新人社員として入った、田村たむら のぞみちゃん。気が合って、長く一緒に働く中で親友みたいな存在になった。同い年だけど、高校の同級生とすでに交際していて、最近結婚した新婚さんだ。


 「そうなのー? 私良いと思うんだけどなぁ。だって、言わなくても書いてるの見れば相手が喜ぶ事がわかるんだよ? 悲しい思いもさせないし、喧嘩にもならない。結婚するなら尚更だよ。それ…」


 「それって楽しい? 一緒に居て。そんな事しなくても、気が合う人と出会えれば付き合えば良いし、無理に付き合う必要ないんじゃない? 私たちの歳の人たちで早い人だったら結婚してる人も居てるけど、最近はもっと遅れてるって言うよ? しかも、付き合うけど結婚はしないで事実婚を選択する人も増えてるみたいだし。それって、相手と一緒に居て楽しいから、籍に入るかどうのこうのは関係ないってことでしょ?」


 「うぐっっっ!!」


 痛い所を突かれて、胸に矢が刺さる。でも私は、結婚して縁があれば子供も欲しい。だって、SNS見てたらみんな幸せそうだもん。結婚式の前撮りで海のところでオシャレな撮影してたり、子供が生まれて写真館で成人式の撮影と変わらないぐらい進化した写真を載せてたり、公園でただ子供と遊んでいる写真、夫婦でディナーに行った写真、言ったらキリがないぐらい、みんな幸せそう。


 テレビのインタビューで、子供を産むのは親のエゴではないかと言っていた同世代の人。言っていた事はすごく理解ができる。ただ欲しいだけで、経済力もあまり無いのに、子供が悲しい思いをするんじゃ無いか。本当にそう。私のお給料だけでは子供を養い、大学まで行かせれるかと言ったら不安しかない。だから、私は!高所得者と結婚するのだ!!


 「いつもどうやって相手探してるの?」


 「マッチングアプリの『LOVE &LOVE』だよ!」


 「なにそれ、うさんくさ。それちゃんとしたマッチングアプリなんだよねー? 審査とかしっかりしてくれた所じゃないと、こっちが心配だわ」


 希ちゃんと話していると、近くでパソコンを開きコーヒーを飲んでいる男が私の視界に入る。なんだか私の方を見てる気がするけど、1人だからきっと、ガラスの向こうの気色を見てるんだろうね。



 「うーん… わかんない! でも検索して一番上に来たから大丈夫だよ」


 「あー心配…。まぁでも、刹那がやりたいなら、ほどほどに頑張りなぁ。なんかあったらうちの旦那連れて行くから言ってきなよ!?」


 「大丈夫だよ〜。今まで取扱説明書出したらみんな逃げて行くだけだし」


 「あはは… そうね。ファイトっ…」



 長話をしてしまった私達は急いで仕事に戻った。


 「こんにちは〜」


 「こんにちは。ウォーターベッド空いてる?」


 「空いてますよ、どうぞどうぞこちらへ」


 午後の利用者さんが続々とやってきた。


 「血圧と体温測りますね〜」


 「この前言っていた人、どうだったの?」


 この人は、ここが開店して以来ずっと来てくれている利用者さん、青木さんだ。前に来てくれた時に、私に相手がいるのか?と聞いてくれたので、休みの日に会うと伝えた事を覚えてくれていた。


 「あー… 駄目でした。あははっ。また頑張ります!」


 「ありゃー。こんなにべっぴんさんなのに、今の時代難しいもんなんだねぇ。せっちゃんならきっと良い人に出会えるよっ。おばちゃん応援してる!」


 ガッツポーズで応援してくれる青木さん。

 流石に、取扱説明書を出して逃げられてるとは言えない…。でも、青木さんも応援してくれている。頑張れ私! 次、次〜!


 

 勤務が終わり、家に帰り『LOVE &LOVE』を開く。


 「んー…条件は… 高所得…っと。 おぉー、結構いるねぇ。この人は爽やかでいいかもっ!」


 ピコンッ。


 LOVE &LOVE

 新着メッセージがありました。


 「ん?まだマッチングしてないんだけどなぁ… 誰だろ」

読んで頂きありがとうございます。

現実味もありつつ、こんなの夢のような話だよと言うような、ワクワク、ドキドキ出来るお話が書けたらなと思います。

応援して頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ