第006章 狼王・狼翡
第006章 狼王・狼翡
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凛池のほとり、凛凛は石に座り、修行に集中した。小鹿は化形の興奮が収まらず、行ったり来たりした。手足を確認したり、白鹿の姿に戻って走り回ったりした。鹿角にぶら下がるキラキラの果実が、暗闇でほのかに光った。その光は細く揺れる軌跡を残した。
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「このバカな小鹿、悪い奴らに狙われやすいよ。」招雲は笑った。
空はすっかり暗くなった。君儒は心を落ち着け、四方を見回した。無数の緑色の蛍光が闇に静かに浮かんだ。四方八方から小鹿の方へゆっくり近づいた。
「来た!」
招雲はすぐに緊張した。柳の笛を唇に含んだ。
君儒が言った。「軽率に動くな。狼王が出てきたら、笛を吹いて師匠に知らせろ。」
招雲は話せず、頷いて「うん」と言った。
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小鹿が急に立ち止まり、左右を見た。遠くから近くへ、疎らだった緑の蛍光が密集して押し寄せてきた。「狼の群れだ!」と叫んだ。
彼は人型に変わり、数歩で凛凛のそばに跳んだ。急いで言った。「凛凛、水に戻れ!僕が相手する!」
凛凛は体を起こし、小鹿を後ろに引き、言った。「君は大人しくしてて。」
「ダメだ!」小鹿はもがいたが、凛凛に石に押さえつけられ、動けなかった。凛凛がこんなに強いとは思わず、驚いた。
凛凛は立ち上がり、密集する緑の蛍光に向かった。目は半分閉じたまま、冷静だった。
狼の群れは小さな円を作り、彼らを囲んだ。
小鹿は凛凛に背を預け、戦う準備をした。
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「師兄、」招雲は笛を噛み、ぼそぼそと言った。「まだ動かない?」
「動かない。」
招雲は師兄を信じた。でも、小鹿と凛凛が心配で、焦った。
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狼が目の前にいた。口を半開きにし、長い赤い舌を出した。唾液が滴り、臭い匂いが風に乗った。前足を地面につけ、体を低くした。いつでも飛びかかり、小鹿と凛凛を裂く準備だった。
小鹿は低く唸り、妖形に変わった。白髪に金の瞳、高い鹿角が生えた。
妖形は原形と人型の間で、戦うのに最適だった。
凛凛は人差し指を立て、目の前で小さな円を描いた。「光れ。」と静かに言った。
一瞬で、空に無数の光が灯った。数千の蝋燭が同時に燃えるように、暗い山北が昼のように明るくなった。
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「わ!」招雲は驚きの声を上げ、笛が唇から落ちた。素早く拾い、口に戻して噛んだ。
君儒もこの幻想的な光景に衝撃を受けた。こんな美しい妖術は初めてだと密かに称賛した。
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「小さな水妖が、火の術を使えるとは。面白い。」低いかすれた声が響いた。抑えつけられるような笑い声と共に、濃い黒霧が空から降り、狼の群れの上に落ちた。霧が晴れ、体長一丈の真っ黒な巨狼が現れた。そばには少し小さい灰色の狼が従った。
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「狼王だ、笛を吹け!」君儒はまずいと思った。岩の後ろから跳び出した。この狼王は強い妖気と殺気を放ったが、君儒は全く気づかなかった。これは大妖の特徴、隠息の術だ。この狼妖の修行は浅くない。君儒の力では対抗できないが、背後に回り、凛凛と小鹿のために少しでも時間を稼ぐつもりだった。
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凛凛は狼王の黒い目の穴を見上げ、人差し指と中指を合わせ、霊力を灯した。軽く弾くと、二本の剣光が狼王の目に向かって飛んだ。
狼王は動かなかった。
剣光が近づく前に、狼王の体から湧き出る黒霧に弾かれた。
狼王は嘲るように笑い、右前足を軽く踏んだ。「殺せ。」と低く唸った。
我慢できずにいた五六百匹の黒狼小妖が黒い影になり、競うように凛凛と小鹿に飛びかかった。
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君儒が最初に狼の群れに突入した。君達も命令を受け、弟子たちを率いて戦った。一対一なら小妖は敵ではないが、数が多すぎた。
その時、二弟子の君雅と三弟子の君賢が援軍を連れて来た。皆で協力し、外側から中心へ少しずつ進み、狼に囲まれた小鹿と凛凛に近づいた。
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小鹿は両手を振り下ろし、二本の長剣を生んだ。押し寄せる狼の群れを斬った。剣気が通るところ、妖は悲鳴を上げ、黒煙になって消えた。小鹿は自分がこんな力を持っているとは知らなかった。でも、凛凛を守れて嬉しかった。
凛凛は結界を張った。飛びかかる黒狼は結界に触れると、弱い者は黒煙になり、強い者は弾き飛ばされた。彼は小鹿を振り返った。結界の外で狼と戦う小鹿を見て、水の帯を放ち、彼を引き入れた。「ここで動くな。」
小鹿は結界を抜けて戦おうとした。でも、凛凛の確固たる目を見て、疑問は許さないようだった。周りを見ると、黒狼は彼らを傷つけられなかった。少し安心した。
「でも、こんなの終わらないよ。どうする?」
「じゃ、別の技に変える。」凛凛は言い、内力で声を送った。「白鶴の弟子、退け。」
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君儒は凛凛の指示を受け、迷わなかった。剣を振って防ぎながら、狼の群れで戦う弟子たちに叫んだ。「白鶴の弟子、退け!」
君雅と君賢も聞き、「退け」と叫び、弟子たちを率いて狼の群れから抜け出した。
その瞬間、後ろから巨大な力が押し寄せ、彼らを十数丈押し出した。
弟子たちは散らばり、君儒、君雅、君達は数歩下がって踏ん張った。君賢はつまずき、倒れそうになったが、誰かに支えられた。振り返ると、招雲だった。
「三師兄、まだこんな下手ね。」招雲は笑った。
君賢は彼女を睨み、拳を振ったが、ただのポーズだった。すぐに師兄たちと師匠に会いに行った。
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九闲と熏池山神は後ろの岩の上で戦いを見ていた。彼女は狼王を見て、考え込んだ。
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狼王は手下の小妖が結界を破れないのを見た。軽く頭を下げ、黒霧を放った。霧の先が巨大な狼の爪になり、透明な結界をつかんだ。鋭い爪が締まり、結界は卵の殻のようだった。雷光と割れる音がし、一瞬で崩れた。狼妖たちが一斉に飛びかかった。
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白鶴の弟子たちは驚きの声を上げ、心配した。でも、次の瞬間、凛凛が両手を上げ、袖を振った。無数の氷の針が袖から飛び出し、四方八方に飛んだ。一匹の狼妖に十数本の針が追いかけ、刺さると悲鳴を上げ、動きが鈍った。残りの針が隙をつき、体のいろんな場所に刺さった。妖の体は倒れ、痙攣し、黒煙になって消えた。
君儒はようやく分かった。凛凛は氷の針で彼らを誤って傷つけないよう、退かせたのだ。
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