第34章 勾芒の陰険
第34章 勾芒の陰険
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「見てよ、今、妖魔界には統領する指導者なんてまったくいない。一半は天界に、もう一半は五大派に管理されて、完全に抑えつけられてる。人間界には五大派があるけど、いろんなことに対して決定権なんてなくて、全部天界に報告して指示を受けてから動くしかない。はっきり言えば、五大派は天界の人間界での目と爪で、天界の俸禄で動いてるんだよ。」招雲は少し憤慨した口調で言った。
小鹿は頷いた。「伯盧城で人と妖が仲良く共存してるのを見て、悪くないと思ったけど、招雲の考えもすごく納得できるよ。」
「山で小妖たちと長く過ごしてるから、つい彼らのことを考えてしまうの。魔域は衰退してる。環境が厳しいだけでなく、指導者がいないから弱肉強食の蛮荒状態で、発展なんてほとんど無理。法力の弱い小妖たちは人間界で自由に生きるために、『妖魔籍冊』に自ら登録するけど、登録したら天界の管理下に置かれる。人間に害を及ぼす習性があると、無理やり改めさせられて、世代を重ねるごとに弱っていく。子孫を残せない種もいて、絶滅するものもいる。傲岸山には大小1,347の妖がいるけど、百年以上生きてるのはほんのわずか。ほとんどの妖は人間と同じく数十年の寿命しかなく、生きるのに精一杯で修練する暇もない。普通の鳥獣とほとんど変わらない。だから、この妖魔登録制度はめっちゃ陰険だよ。勾芒帝尊の人柄そのものだと思う。」
小鹿は言葉に詰まった。そんな複雑なことまで考えたことがなかった。
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「勾芒帝尊が妖魔族を抑えるために使ってる手はまだまだあるよ。例えば禁術。彼は禁術を五等級に分けて、五等から一等まで、百以上の種類、千以上の技が禁じられてる。禁術を修練してるのが見つかると、人間界でも魔域でも、天庭に連れて行かれて生まれ変わるように改造される。一度二度そんな目に遭えば、大妖だって弱り果てる。でも、考えてみてよ。もともと普通に修練してた技を、突然禁じられたって言うんだから。大妖で禁術を使ってないやつなんている? そういう術を修めないと大妖になるのはほぼ不可能だよ! この前、凛凛が倒した狼王の狼翡だって、よく隠れてたからあんなに長く生き延びられたんだ。でも彼の体はすでに煞気で侵されてた。だから小鹿を捕まえようと必死だったんだよ。君の鹿角で体内の煞気を浄化しようとしたんだ。でなきゃ、天界が放っておいても、反噬で滅びてたよ。」
招雲は凛凛を見て言った。「凛凛、君は傲岸山の1,348番目の妖だよ。私の心の中では仲間だ。だから、仙門の弟子として言うべきじゃないけど、忠告するね。『妖魔籍冊』に登録しないで。」
凛凛は頷いた。「招雲、忠告ありがとう。登録するつもりはないよ。」
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一瞬、場が静かになった。
招雲は太ももを叩いて言った。「本の欠けてるページの話から、なんでこんな遠くまで話が飛んじゃったんだろう? 話を戻すね。要するに、あのページには特別な大妖と特別な物語が書いてあって、たぶんその大妖は消されたんだと思う。そしてそのせいで、仙、人、魔の三界が今みたいな不均衡で不平等な状態になった。勾芒帝尊は天界が独占することを望んでるから、真相を隠したんだ。『古今妖魔録』は天界の本で、俗世には出回ってなくて、仙門の者しか見られない。そして、五大派が揃ってページを破るなんて、勾芒帝尊以外に誰ができる? 私の陰謀論だと、この秘密の過去は彼と絶対に関係があるよ。」
「大師兄に聞いてみられない?」
招雲は首を振った。「その話を持ち出すたびに、説教されるの。でも、大師兄も本当は興味あると思うよ。だから古い本をよく読んでるんだ。私が彼みたいに落ち着いて本を読めたら、もっと手がかりが見つかってたかも。」
「師父は?」
「師父ももちろん話してくれない。でも、別のことをちょっと聞き出したの。」招雲は身を寄せて小声で言った。「五大派の掌門はみんな不死身で、正確な年齢は誰も知らない。弟子たちは凡人で、数十年に一度入れ替わるから。昔、師父は天庭に自由に出入りできて、勾芒帝尊と酒を飲んで語り合い、友達として接してた。でも今は、明らかにただの部下だよ。師父も勾芒帝尊のルールに全部賛成してるわけじゃない気がする。このことは絶対外で言わないでね。」
「大丈夫だよ、招雲。外の人なんて知らないし。」
「蘇允墨と猎猎は?」
「彼らは凛凛の友達だよ。」小鹿はまだ少しイラついて、凛凛に言った。「今でもなんで彼らを助けたのか分からないよ。」
「二人が一緒に仲良くしてるのを見て、いいなって思ったんだ。一方がいなくなったら、もう一方が悲しむだろうから、一緒にいられるように助けたかっただけ。」
「なるほどね。」小鹿は気分が楽になり、凛凛が何も分からないわけじゃないと気づいた。
招雲も笑って言った。「凛凛ってクールに見えて、こんな優しい心を持ってるんだね。」彼女は小鹿に振り向いて、「なんで『古今妖魔録』を見たかったんだっけ?」
「え、うーんと…」小鹿は口ごもった。招雲の壮大な話の後で、自分の小さな思いを言うのが恥ずかしかった。でも彼女にせっつかれて、言い訳も思いつかず、認めた。「蘇允墨が、水妖の記録があるって言ってたから、ちょっと見てみたかっただけ。」
招雲は笑った。「凛凛が好きすぎて、直接聞くのが恥ずかしくて、わざわざ本を探そうとしたの? ハハ、わかるわかる。」
小鹿は顔を赤らめて頷いた。
凛凛は小鹿を見て言った。「何でも直接聞いてよ。全部話すから。」
小鹿は心の中で思った。あの「好淫」って話が本当か聞きたかっただけだけど、聞かなくても本当っぽいな。
招雲は言った。「その本に載ってるのは三千年前の水妖だから、凛凛とは関係ないと思うよ。」彼女は凛凛に聞いて、「三千年前から修練始めたんだよね? その頃のこと、覚えてる?」
凛凛は首を振った。「化形する前は霊だけを修練して、知覚が開いてなかった。だから、その頃のことは何も知らない。」
招雲は頷いた。「知覚を開かずに純粋に霊を修練すると、めっちゃ速く進むんだね。そりゃ、三千年で六千年の狼翡を倒せるわけだ。」
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君儒は砂時計を見た。一時間が過ぎていた。彼は正堂から出てきて、二人に言った。「今日の教訓、覚えたか?」
「覚えました。」
「白鶴山荘の弟子であろうとなかろうと、娼楼に出入りするのは名誉なことじゃない。君たちは純粋で天真爛漫だ。将来ここを離れても、こんな悪習に染まらないでほしい。」
「はい、師兄。」
「立て。早く部屋に戻って休め。他のことは明日話そう。」
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