第305章 彼女は背面の邪悪に染まったのだ
第305章 彼女は背面の邪悪に染まったのだ
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正殿内では、真霧少君と勾芒が今なお白衣を引き止めるべく策を弄していた。白衣の顔にはわずかに苛立ちの色が見え始めていたが、それでも穏やかさを装って対応していた。
その時、奪炎は肩に乗った血蝶が不穏に騒ぎ出すのを感じた。彼はすぐさま鏡風に呼びかけたが、返答はない。
まずい!
彼は身を翻し、全速力で莫梭羅宮へと向かった。
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「鏡風! 鏡風!」 宮殿内を駆け巡り、幾度も彼女の名を呼ぶ。どこにも姿はなく、呼びかけへの応答もない。奪炎は焦りを感じた。彼女との連絡が途絶えたのはこれが初めてだった。数回探し回った後、彼は最後に鏡池の前に辿り着いた。池の水は異様なほど静まり返っている。彼は少し考えた後、水の中に飛び込んだ。
奪炎はすぐに、井戸と観鏡台の底にある隠し場所を見つけた。そこはすでに元の状態に戻っており、今は別の箱が置かれ、侵入者を誘い込もうとしていた。奪炎は水の形へと姿を変えて池の水と一体化し、その「記憶」を辿った。やがて、鏡風が井戸に吸い込まれる場面を目にする。彼女は気が短いが、行動においては常に冷静だ。おそらく、目的のものを見つけたと思い込んだのだろう。彼は再び姿を戻して体勢を整えると、呪文を唱えて数十本の水線を井戸の中へと送り込み、鏡風を捜索した。
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天火は狼牙の森の中央部へと飛んだ。そこには広大な沼地があり、濁った黒い水が不気味な黒霧を絶えず放っていた。彼は空中に留まり、背面の全範囲を計算して東西南北の四区域に分け、この湿地を個別のターゲットとして除外した。そして三つの霊分身を呼び出し、四方に向かって霊網を張り、四区域を同時に捜索した。湿地は最後の目標区域だ。
背面全体の霊場は非常に強力であり、その中から最強の一点を見つけ出すのは至難の業だ。しかし彼は天火である。まだ成長中とはいえ、鏡風や奪炎を遥かに凌駕している。この程度の任務、彼にとっては少しの時間が必要なだけに過ぎない。
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その頃、梵耶は口の中で呪文を繰り返し唱え続けていた。巫眼からは明滅する青い光が放たれ、紫藤の死魂を集めるべく招魂書を導いていた。凛凛は終始、彼の後ろから抱きかかえるようにエネルギーを送り込み、彼を支えていた。夫諸の心は激しく高鳴り、緊張に包まれていた。紫藤が亡くなってからあまりに長い月日が流れている。魂はとうに四方に霧散しているはずだ。梵耶族長でなければ、普通の巫師には不可能な任務だった。彼の心は希望に満ちていた。
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悪臭を放つ黒い水に腰を掴まれ、鏡風は地底深くへと猛烈に引きずり込まれた。何度も何度も回転し、もみくちゃにされた後、彼女はようやく平衡感覚を取り戻し、意識をはっきりとさせた。
これだわ。凛凛たちが鏡池から立ち上って白衣を侵食したのを見たあの黒い水は、これのことね。
彼女は背面の邪悪に染まったのだ。だからこそ、設定された美しい品格しか持たない純真無垢な「無関係な分身」から、支配欲の塊である歪んだ性格へと変貌してしまった。彼女は邪悪がもたらす快楽を享受しながら、他人がそれを持つことを恐れている。だからこそ正面の霊場を薄皮一枚になるまで削ぎ落とし、民が「悪く」なることも「強く」なることもできないようにし、二つの面を結界で隔てて立ち入りを禁じたのだ。
なんて嫌な奴。
そう確信した鏡風は、自分が今「背面」に向かっているのだと悟り、もがくのを止めて勢いに身を任せた。奪炎や凛凛と同様、彼女もとうに「百毒不侵(あらゆる毒を寄せ付けない身)」だ。これらの毒霧は彼女にとって養分ですらある。ただ、最初の混乱で口や鼻にその汚物が入り込んだのは、吐き気がするほど不快だった。幸い、目を閉じるのが間に合ったことだけが救いだった。
花都の厚さはせいぜい数里(数キロ)程度だと見積もっていたので、この通路も長さは限られているはずだ。しかし、背面に近づくほど黒い水は粘り気を増し、降下速度を妨げた。霊場が徐々に強まっていくのを感じ、ある臨界点を越えた瞬間、それは数十倍にも膨れ上がった。彼女は力を振り絞り、逆流を遡るかのように必死で下へと突き進んだ。それはまさに苦行だった。
しかし、そんな中でも奪炎の呼びかけが届いた。
彼はひどく怯えているようで、声が震えていた。
鏡風はすぐに返信した:「ここにいるわ。無事よ」
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奪炎は激しく息を吐き出し、涙が溢れた。ちょうどその時、彼が送り出した水線が鏡風の体に触れ、素早く彼女の周りを包み込んで、小さな空白地帯を作り出した。鏡風は安堵して言った:「白衣の仕掛けに触れてしまったわ。彼女に気づかれるのも時間の問題ね。すぐに正殿へ戻って、彼女の動きを監視して。帝尊を守るのよ」
「分かった」 奪炎は答えたが、心にある思いがよぎった。「自分が危険な目に遭っている時でさえ、彼のことを考えている。彼女は結局、他人の人になってしまったんだな」 これほどはっきりとそれを感じたのは初めてだった。彼女が自分のものだったことなど一度もないのに、その思いは少しだけ胸を締め付けた。
「……それでいい。彼女が幸せなら」
彼は念を押した:「僕は帝尊を守りに行く。君も気をつけて」
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天火が外側から霊網を引き絞っていたその時、下の沼地で暗流が激しく動いているのに気づいた。「もしや、ここか?」 彼はすぐさま作業を中断し、下の湿地の捜索に切り替えた。霊力を集中して暗流を追い、数周した後、それが生き物であると確信した。彼は隙を突いて一気に霊網を閉じ、獲物を手元に引き寄せた。どんな野獣か確かめるためだ。
鏡風は、おそらく天火だろうと見当をつけ、網にかかるに任せた。しかし、奪炎の水線に守られていたとはいえ、体中が黒い泥と汚れにまみれており、白黒はっきりした瞳を除けば、もはや人間には見えなかった。天火は彼女を間近でじっくりと眺めたが、やはり誰だか分からなかった。彼女がおとなしく抵抗しないのを見て、「お前は背面の妖怪か? 怖がらなくていい、僕は悪い人間じゃない。今すぐ逃がしてやるよ」と言いながら網を開いた。
鏡風は白目を剥いて言った。「私よ」
天火はびくりと飛び上がった。鏡風の声だと分かったが、まだ信じられず、彼女を上から下までまじまじと見つめた。
彼女は少し苛立って大声を上げた。「早く術でこの汚れを落としてよ!」
その気の強さは間違いなく鏡風だった。天火はついに信じ、すぐに術をかけて彼女を浄化した。しかし、泥は落とせたものの、黒い水は粘りつく油のように服や肌にへばりついて取れなかった。鏡風は、到着したばかりの頃に多くの人が汚され、最後は白衣が杖を使ってようやく完全に消し去ったことを思い出した。
仕方ない、汚れているだけだ。戻ってから考えよう。
彼女は天火に聞いた。「見つかった?」
「今探しているところだ」 天火は四方の霊網を指し示した。
「続けて。私はこの沼地を捜索するわ」
彼女の手には、観鏡台の下の隠し場所から見つけた箱が握られていた。あの吐き気のする通路を何度も転げ回った時でさえ、決して手放さなかったのだ。だが、開けてみると、中は空っぽだった。
あの小娘……私を嵌めたわね! この恨み……。いや、今は仕事が先、復讐はいいよ。
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