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風・芒  作者: REI-17
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第003章  凛水の化形

第003章  凛水の化形

*

五大仙門の筆頭に名を連ねる白鶴山荘は、傲岸山の麓に位置する。今日、門下の弟子たちは総出で山中に散らばり、秩序を維持し、事故を防ぐ。

山荘の最も高い場所には、望仙台と呼ばれる高台がそびえる。九十九の石段を登り、欄干に凭れれば、伯盧城の全景が眼下に広がる。

山荘の荘主、九闲大人は女性で、見た目は四十歳を少し過ぎた頃合い。灰白の道袍をまとい、飾り気のない簡素な姿ながら、清麗で柔和な顔立ちは、親しみやすい温かさを湛える。

彼女の傍らには青年の弟子が立つ。「七歳で白鶴山荘に入門し、修行を始めて今年で十九年目。こんな賑わいは初めてです。この二ヶ月は静かな日がなさそうですね。」

九闲は微笑む。「君儒、門下に命じなさい。山門外に二人の弟子を残し、茶と軽食を用意せよ。旅人が休息に訪れたら、できる限りもてなしなさい。」

「かしこまりました、師父。」

**

傲岸山の北側は陽光が届かず、草木はまばらで、鳥獣も寄りつかぬ。普段はひっそりと静まり返る。凛河の水だけが奔流となって流れ落ち、半山腰の緩やかな地形に凛池と呼ばれる清らかな水たまりを形成し、そこから下流へと続く。凛水は積雪が溶けた水で、氷のように冷たく、透き通る寒さを帯び、魚が泳ぐ姿は決して見られない。

だが、この北側の静寂も、今日、破られた。身軽な参加者たちが南側の混雑を避け、北側で霊珠を探す。彼らは流水をかき分け河底を調べ、凛池に潜って石をひっくり返し、さらには雪峰に登り、氷壁を砕く。長年の積雪が揺さぶられ、崩れ落ち、雪崩となって数人の宝探しを瞬時に飲み込む。

崩れた氷雪は深谷に突入し、山を揺らし地を震わせる。

宝探し人は多少の修为を持ち、冷静さを保てるが、春の行楽で訪れた民衆は大混乱に陥る。押し合いへし合い、泣き叫ぶ者も。山中に守備する仙門の弟子たちは急いで秩序を整え、群衆を下山へと導く。

幸い、雪崩の規模は大きくなく、間もなく平静を取り戻す。

数人の民衆が軽傷を負い、仙門の弟子に連れられ白鶴山荘で治療を受ける。惨事には至らなかった。

*

君儒は数人の弟子を連れて状況を確認しに来ると、ちょうど師妹の招云が一団の弟子を率いて山から戻るのに出くわす。皆、埃にまみれ、顔は土で汚れている。

「大師兄!」招云は手を振って君儒のそばに駆け寄り、満面の笑みを浮かべる。

君儒は首を振ってハンカチを取り出し、彼女に渡す。招云は顔を拭き、そのままハンカチを袖にしまう。

「山の上は落ち着いたか?」

「大丈夫、大師兄。民衆は全員安全に下山しました。怪我人は二師兄が三師兄と一緒に治療中です。今は宝探し人だけが山に残り、だいぶ静かになりました。熏池山神は交代で休息するよう命じ、明日また行きます。」

「ご苦労だったな。」

「ぜんぜん!」招云は花のような笑顔を見せる。

**

雪崩の後、熏池山神は山北を一時封鎖し、静寂を取り戻させる。

だが、凛水の中では暗い流れがうごめく。

雪崩で落ちた氷雪が河底に叩きつけられ、幾層もの淤泥を巻き上げる。数千年静かだった凛水が渦を巻き、奔流となって水面から数丈の高さに舞い上がり、竜巻のように回転しながら上昇する。凛河の水は半分以上が空に巻き上げられ、底部の泥と石が渦の底で滑り落ちる。上に行くほど水は清らかになり、渦の頂では水晶のように透き通って輝く。

その水は回転しながら濁った底部と分離し、徐々に人形を形作る。それは空中に浮かび、風に軽く揺れ、色を帯び始める。薄暮の頃、ついに化形を完成し、池辺の巨石の上にゆっくりと降り立つ。

*

水の妖怪は石に伏し、裸のまま、全身が雪のように白く、柔らかな光を放つ。長い白髪が絹のように背と腰を半ば覆い、髪の先は凛池に垂れ、水の波に合わせて軽く揺れる。

まるで仙人のように。

挿絵(By みてみん)

化形に全霊力を費やしたのか、その小仙は裸のまま石に伏し、動かない。双眸はまだ開かず、穏やかな表情で、精緻な顔立ちは天の工芸のよう。眉と睫は白羽の如く、微かに開いた唇も血色を欠き、壊れそうな儚い輝きを漂わせる。

小仙はぽつんと石の上で休んでいたが、危険が近づいていることを知らなかった。

熏池山神の言うことを聞かない宝探し人が2人こっそり折って帰ってきて、凛水が化形した絶美の妖怪を見て、邪な心を起こす。そっと近づき、十数尺の距離で互いに目配せし、唾を飲み込んでその小仙に飛びかかる。

*

危機の瞬間、ある幼い鹿は驚きの声を上げ、木の陰から飛び出し、全速で駆ける。

頭を下げ、鹿角で悪人を突き飛ばそうとする。だが、近づく前に二人が飛びかかる。鹿は血が沸騰し、怒りが胸を突く。金色の瞳が一瞬で血紅に変わる。その氷のような玉の骨の仙人は、この2人の悪人に触っただけでも、耐えられない。

小仙は今にもひどい目に遭いそうになったが、電光石火の間に、その周囲に水の屏障が現れ、半円のガラスドームのように包み込む。二人の悪人は水屏に激突し、まるで虫が蜘蛛の巣に張り付くように絡まる。必死にもがくが、瞬時に虚無と化し、水屏も消える。

この小仙の修为は浅くない。

鹿は安堵し、近づく。

小仙は石に伏したまま、微動だにしない。近くで見ると、完璧な身体が露わ。鹿は顔から全身に熱が広がる。深呼吸して落ち着き、頭を下げ、声を張る。

「仙子、ご安心を。私は小鹿、折光。この山にはまだ人がいるかもしれません。仙子、服を着た方がよろしいかと。」

*

声を聞き、小仙はゆっくり目を開け、顔を上げて音の方を見る。瞳は淡い青で、焦点が合わず、ぼんやりと霞む。

「小鹿、こちらへおいでよ。」彼は静かに呼び、清冽で心を揺さぶる声は、明らかに若い男のもの。

鹿は一瞬固まる。女の子だと思ったのに男だった!慌てて近づき、頭をさらに下げ、囁く。「仙子、何かご用でしょうか?」

「小鹿、ずっと待ってたんだってば。」小仙は柔らかい声で言った。

「なぜ私を?」鹿は胸の中でぴくぴくしていて、彼はこの仙人と何の縁があるか覚えていない。

小仙は答えず、逆に問う。「雪崩に驚いて、洞窟から出てきたんだろ?」

鹿は頷き、背後の霧深い森を振り返る。数時間前、隠れた洞窟で眠っていた。雪崩の落石に起こされ、混乱の中を彷徨い、ようやく出てきた。そして、凛水の化形を目撃し、驚かせぬよう木の陰で眺めていた。

「仙子、決して覗くつもりでは…」鹿は弁解する。男でも、覗きは言い訳できない。

小仙は気にせず、ニヤリと笑う。彼は柔らかく腕を上げ、支えを求める。鹿は鹿角を差し出し、彼が起き上がるのを助ける。

隠す気がないのを見て、鹿は呪文を唱え、身に絡む薜荔藤萝を青いマントに変え、鹿角で掲げて彼の身体を覆う。

小仙は首を振る。「寒くないよ。」

鹿は知っている。化形したばかりの妖怪は人性に疎く、羞恥を知らない。丁寧に説明する。「寒さのためではなく、人と獣の違いです。仙子は今日、人となった以上、人の衣をまとい、人の道を尊ぶべきです。」

「でも、私はまだ妖形だよ。小仙はそう言ってマントを突き落とした。

鹿は代わりに恥じ、急いでマントをかけ直し、叮囑する。「妖形は原形と人形の中間でも、外見は人に近く、人として扱うべきです。」

その熱心さに、小仙は「まあいい。でも私はこの色が好きではありません」と言った。

折光は理解する。妖形は本性を残し、元の色を愛する。「白がいいんだろ?」

「うん。」

「安心して、少し我慢すれば、必ず白い衣を用意するよ。」

小仙はためらいつつ頷き、マントを受け入れる。疲れたのか、ゆっくり目を閉じる。

「仙子をどう呼べば?」鹿光は遠慮がちに問う。

「凛凛だよ。」

「凛凛。」鹿は名前を心に刻み、彼が安らかに眠るのを見る。

**

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