第016章 招雲の危機
第016章 招雲の危機
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「待って!」猎猎が突然顔を上げ、蘇允墨を見つめ、唇を噛み、恥ずかしそうに言葉をためらった。
「なんだ?」蘇允墨の心臓がドキリと跳ねた。
「おっさん、花街に連れてって。」
蘇允墨はホッと息をつき、からかうように言った。「おや、ついにその気になったか?」
「うん。」猎猎は頷き、こう言った。「帰り道で考えたの。水妖の凛が悪い奴だったら、今頃おっさんも私も死んでたかもしれない。それって、めっちゃ勿体ないよね。」
「よし。この数日は下見と準備で忙しいけど、3日後に狩りを終えて体力回復したら、たっぷり楽しませてやるよ。」彼は指を折って計算し、こう付け加えた。「おっと、まずは銀を盗まなきゃ。花街は高いからな。」
「私、お金持ってるよ。」猎猎は起き上がり、ベッドの内側に隠してあった小さな包みを取り出し、警戒の目を蘇允墨に投げた。体を半分隠しながら包みの角を開け、銀票を一枚抜き出して渡した。
「百両!?」蘇允墨は思わず声を上げた。
「シッ!」
「どこでこんな大金手に入れたんだ?」蘇允墨は猎猎の包みをチラリと覗き、厚い銀票の束が見えた気がした。
「聞かないで。聞くなら縁切りよ!」
「わかった、わかった。」蘇允墨は猎猎を烈々に返し、「とりあえずしまっとけ。」と言った。
「あなたにあげたの。これからは盗みなんかしないで。」
蘇允墨は銀票を見て自嘲の笑みを浮かべた。「百歳以上生きてきて、まさか蘇允墨が金持ちの若旦那に養われる日が来るとはな。」
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「今日、白鶴荘に行ったとき、誰を見かけたと思う?」奪炎が笑いながら尋ねた。
「どうせ天界の連中だろ。」
「うん、大司命の朱厌だ。帝尊は小鹿の出自をよほど気にしてるらしく、朱厌に確認させに来た。彼は隠れてやってきて、小鹿を見た後、九閑大人には会わずに去った。」
「小鹿を見た後、勾芒に何て言った?」
「帝尊との伝言を盗み聞きしたけど、『故人とは無関係と確認』だって。」
「それは良かった。これで勾芒は小鹿に興味を失う。一ヶ月か二ヶ月もすれば監視をやめるだろう。その頃には俺の用事も片付いてるはずだから、そこでお前と合流するよ。」
「そしたら一緒に彼らと対面しよう。」
鏡風は心の中でつぶやいた。お前の子どもの世話はごめんだ。
「そういえば、朱厌は小鹿を見たらすぐ去ると思ったのに、街に滞在してるんだ。偶然にも、俺と同じ宿に泊まってる。」
「適当に宿を選んだって言わなかったか?」
「適当に一番高い宿を…」
「彼らがそこにいるなら、距離を取った方がいい。朱厌の修為は大したことないが、手下に隠形術を見破れる奴がいるかもしれない。」
「了解。」
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早朝、招雲が弟子たちと小鹿凛々を連れて山に登ると、青耕と嬰勺の二羽の鳥妖がバタバタと飛んできて、キーキー騒いだ。「大変だ、大変だ!」
「何が起きた?」
「黒い霊珠が見つかったんだ!」
「誰が?」招雲が急いで尋ねた。
「隣の又原山の長弘と長盛の兄弟だ。」
招雲の胸が締め付けられた。これは厄介だ。
話していると、招雲と親しい小妖たちが集まり、長弘と長盛が黒い霊珠を見つけた経緯を口々に語り始めた。
「今も山の中で、最後の金色の霊珠を探してるよ!」
「分かった。みんな、そいつらを監視して、随時報告して。」
「はい!」
小妖たちが去った後、招雲は重いため息をつき、表情が硬くなった。
「どうしたの、招雲? この兄弟、強い?」小鹿が尋ねた。
招雲は説明した。長弘と長盛は傲岸山東部の又原山に住む二匹のイタチ妖怪だ。又原山は貧しいため、彼らはよく傲岸山で狩りをする。鳥や獣だけでなく、弱い小妖も犠牲になる。彼らが放つ毒ガスは長く残り、山の生き物は皆頭痛に悩まされる。二妖の修為は四、五百年で、招雲ではとても敵わない。
「もし彼らが金色の霊珠も見つけて、どちらかを山神に推したら、山神の座は本当に飛んでっちゃう。」
「だったら、凛々と私が金色の霊珠を探すのを手伝うよ。」小鹿が提案した。「招雲が両方の霊珠を手に入れれば、安心だよね。」
「本当に手伝ってくれる?」招雲は指をこすり、目がキラキラと期待に輝いた。
「私たち、暇なんだから。」
「今夜は小厨房に料理を多めに作らせるよ!」招雲は興奮して小鹿の腕をポンと叩いた。
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傲岸山の頂上、凛々は突き出た岩の上に座り、南の山々を見下ろしていた。
「何か手がかり?」小鹿が近づいてきた。
「黒い霊珠はあの二妖が持ってる。山中を走り回ってるけど、金色の霊珠の気配は全然見つからない。」
「金色のはかなり深く隠れてるみたいだね。」
「あるいは、誰かに見つけられて、傲岸山から持ち出されたのかも。」
「それもあり得る。」小鹿は頷き、「じゃあ、どうする?」
「黒い霊珠を奪おう。」
「よし、じゃあ今からあの二妖を探しに下りるか。」
「その必要はない。」凛々は右手を上げ、山の下に向けて数回振ると、つかむ動作をした。たちまち山の中腹から強風が渦を巻いて上がり、茶黄色の二つの影を巻き込み、驚いた叫び声が響いた。風の塊が近づくと、凛々は握っていた右手を軽く開き、二つの人影を雪の上に投げ出した。
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長弘と長盛は森の中で鼻を利かせ、霊珠の気配を全力で追っていた。すると突然、原因不明の猛烈な風が襲い、二人を巻き上げて一気に空高く持ち上げた。渦の中で二人は枯れ葉のようグルグル回転し、なす術もなくただ驚きの叫びを上げた。幸い、すぐに風は二人を放り出した。
風の中でぶつかり合い、二人とも頭から血を流し、地面に落ちると目眩でうめき声を上げ、しばらく這い上がれなかった。やっと目の前の人物をハッキリ見た二人は、互いに顔を見合わせ、ニヤリと好色な笑みを浮かべた。凛々に近づき、拳を合わせて言った。「こんな美しい仙人、初めて見ました! 俺たち兄弟、失礼しました。仙人、又原山に遊びに来ませんか?」
「ご親切に…」
凛々が言い終わる前に、小鹿が前に出て、二人の目をつついた。二人は悲鳴を上げて倒れた。
「小鹿、ひどく傷つけたらダメよ。ルール違反になる。」凛々が警告した。君儒が言っていた。霊珠探しの最中に相手を重傷させると、山神の選出資格を失う。彼女は招雲を巻き込みたくなかった。
「大丈夫、半月は目が開かないだけ。」小鹿は二人に怒鳴った。「さっさと巣に帰れ! 傲岸山に二度と足を踏み入れたら命はないぞ!」
「神君、許して! この仙術を解いてください! 半月も目が見えないと、小妖どもにやられちまいます!」
「普段から他人をいじめてた報いだ。失せろ!」小鹿は手を伸ばし、長弘から黒い霊珠を引き寄せ、袖を振ると、二人は悲鳴を上げながら崖下にゴロゴロ転がっていった。
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