第113章 師叔、ほんと世界一優しいね。
第113章 師叔、ほんと世界一優しいね。
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碎葉から暮雲城までは馬で二日あれば着くので、急ぐ必要はなかった。しかし、わずか二晩滞在しただけで、梵今は君儒にまとわりついて泣き叫び、もう一刻もここにいたくないと言い出した。君儒は仕方なく、洛清湖に事情を説明した。
洛清湖は少し考えて言った。「それもいい。早く彼を送り届けて、師匠に報告すれば任務は終わりだ。私が彼女に言って、数日余計に滞在させてやる。ゆっくり羽を伸ばせ。君は十八、九歳から白鶴山荘の管理を任されて、若いのに苦労してきた。今回は思い切り楽しめよ。」
君儒は謙遜して答えた。「師匠の雑務を手伝ってるだけです、たいしたことじゃありません。宮主のご配慮、感謝します。」
洛清湖は沈怡風にビロード張りの錦盒を君儒に渡させた。
「これは山神継承式で勾芒帝尊が授けた修霊血玉だ。昨日ここに届いた。ちょうど私も一つ持ってるから、まとめてお前にやるよ。」
君儒は洛清湖に礼を言い、血玉を受け取って丁寧に仕舞った。「それでは下界に戻ります。出発前にまた宮主に挨拶に参ります。」
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「宮主、君儒を見ると、なんでそんな優しい口調になるんです?」沈怡風がからかった。
洛清湖は自嘲気味に言った。「この数年、心が急におばあちゃんみたいになっちゃってさ。」
沈怡風は笑って尋ねた。「三十歳のおばあちゃんなんて聞いたことないですよ?」
洛清湖は微笑み、机の上の帳簿を手に取って尋ねた。「暮雲城那边の準備は整ったか?」
「すべて手配済みです。」
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猎猎が血玉を見たいと騒ぎ、君儒は皆に見せるために取り出した。二つの玉は色も質感も同じで、形が一つは四角、もう一つは丸いだけだった。
「どれが天界の賜物で、どれが洛宮主の贈り物?」玉海波が尋ねた。
「招雲の話だと、帝尊の賜物は四角い方だから、丸いのは洛宮主の贈り物だ。」
「丸い方が四角いより大きいね。千華宮ってほんと太っ腹だな。」
梵今が何か呪文のようなものを呟き、手のひらを軽く振ると、二つの玉がゆっくりと浮かび上がり、君儒の両掌に落ち、徐々に皮膚に染み込んで消えた。
皆が驚嘆した。
「君儒が毎日ちゃんと修行すれば、一、二年で血玉のエネルギーを吸収できる。この二つで五、六千年の霊力はあるだろう。」
猎猎がため息をついた。「師兄、めっちゃ強くなるじゃん。これから守ってよ。」
君儒は笑って言った。「そんな大それたこと言えないよ。それに、君は私の守りなんかいらないだろ。私の師兄が守ってくれるもんな。」
蘇允墨が眉をひそめて叱った。「またからかって!」
「いやいや!」君儒は急いで蘇允墨に謝った。「洛宮主が蘇大哥の弟子の身分を復活させたから、当然私の師兄だ。これからみんな家族だよ。」
「名ばかりの弟子だけどね。」蘇允墨は笑ったが、その身分はやはり心を温めた。それでも、猎猎が昔の恥ずかしい話を広めたせいで、この数日、両陣営からからかわれっぱなしだった。
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再び旅に出ると、千華宮の弟子がすべてを完璧に手配していた。茶の時間、食事、宿泊、物資の調達はすべて千華宮の事業が賄い、一文も使わせなかった。
玉海波が驚いて尋ねた。「仙門って商売できるの?」
蘇允墨が説明した。「千華宮だけだよ。実はこれ、沈侍衛の家業なんだ。数千年前、沈家はすでに大富豪だったって。でも彼の兄貴が手段を尽くして敵を破滅させ、敵が結託して妖族を雇い、沈一門を滅ぼした。幸い、幼少から修行していた沈侍衛が、死んだふりで生き延びた。後に洛宮主が妖族を討伐し、沈侍衛にとっては血の仇を報じたも同然だった。さらに彼は妖毒で両足を負傷していたけど、宮主が自ら施術して治し、歩けるようになった。それで彼は全財産を千華宮に持ち込み、仙門の弟子として民を守りつつ、宮の影響力を使って事業を拡大した。東海の数城の半分は彼の家のものだよ。一人身で金を使う必要もないから、稼いだ金の少しは千華宮の資金に、大半は官府を助けて道や橋を造ったり、公学を建てたり、いいことをいっぱいしてる。」
玉海波は感心してうなずいた。「だから千華宮がこんな豪華な雰囲気なのか。けど、沈侍衛がそんな試練を乗り越えて、善を貫くなんて本当にすごいよ。」
皆がうなずいて賛同した。
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傷を負っていても、立てる限り、午後の戦術魔法訓練と夜の陣法・兵法の学習は必須だった。小鹿は傷を癒す暇がなく、胸の剣気で貫かれた箇所が冷たい風の吹き込む空洞のようだった。待機の隙に顔の傷だけはこっそり癒し、瘢痕を残したくなかった。やっと戌の時を過ぎ、隊長が隊列を解散させ、兵士たちは営舎に戻った。
帳幕が下りると、光恒が皆を率いて歓声を上げ、小鹿を六地の新武神と称えた。弱っていなければ、担ぎ上げて練り歩いていただろう。一通り騒いだ後、光恒は皆に早く洗って休むよう促し、小鹿のために水を汲ませ、彼の傷を拭うのを手伝った。
「薬はいるか?」
「いらない。明日も対戦があるから、今夜は内傷を集中して治す。外傷はそのうち治るよ。」
光恒はうなずいた。霊力の深い者はそんなもの、心配無用だ。
「けど、折光君、霊力があんなにすごいのに、なんでいつもボコボコにされてから本気出すんだ?」
小鹿は照れ笑いして言った。「実を言うと、霊力を自由に操れないんだ。追い詰められないと、なかなか引き出せない。」
光恒の目が輝いた。「なら、いい案があるぞ。」
「早く教えて!」
「対戦の時、兵士はよく起霊丸を食べて体内の潜在力を引き出し、強い敵に対抗する。けど、潜在力を引き出しても正常に使えないと、短時間で体力を消耗して自滅する。だから軍師団が運霊訣って技を開発した。『降魔天書』の五十八ページにある。自分で読んでみ、役立つかも。」
「ありがとう!」
「礼なんていいよ。修行しろ。新しい軍服持ってくる。」
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凛凛は今日、ずいぶん本を読み、朱厌にたくさん質問した。朱厌は無表情だったが、丁寧に答えてくれた。上神たちの争いには興味なかったけど、人の裏切りや策略は古今変わらず、将来、天界の腹黒い大人たちと関わらざるを得ないだろう。だから今のうちに学んでおけば、小鹿を守る時、今回みたいにドジ踏んで巻き込まれることもない。
今はまあ、こんな感じでも悪くない。奪炎も自分にかまう暇なんてないし。
考えすぎたくない凛凛は、布団に潜り、灯りを消して寝ようとした。
「待て!」熟湖がこそこそと大量の荷物を抱えてやってきた。
「何ですか」
「小鹿がいないと、お前は天河に行かないの?」
凛凛は「あ!」と叫んだ、彼はもうそのことをすっかり忘れて、昨夜は行かなかった。
「行こう、一緒に行くから」
凛凛はさと起き上がり、服を着ながら湖について外に出た。
「あれはなんですか?」凛凛は熟湖の荷物に気づいた。
「テント。」
「一時間だけだろ? テント張る必要ないよ。」
「毎日一時間じゃないか? 小鹿が戻るまで、毎日俺が付き合うよ。」
凛凛は心が温まり、口では甘ったるく言った。「師叔、ほんと世界一優しいね。」
「やめろよ。」
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