第9話:衣服選びの選択肢
市場の北側に足を踏み入れると、通りの雰囲気が変わった。
色とりどりの布地が店先に並び、仕立て屋の看板が目につく。しかし、その奥に目を向けると、所狭しと古着が吊るされた中古衣類の露店もいくつか見えた。
「なるほど、仕立て屋と中古屋が並んでるってわけか」
店を見回していると、細身の男が俺に声をかけてきた。
「お客さん、仕立て屋かい? それとも中古屋を探してるのか?」
男は派手な柄のローブをまとい、手にはメジャーを持っている。見るからに仕立て屋の職人らしい。
「うーん……正直、あまり金を使いたくないんだが……」
「おや、でもその服装だと仕立て屋向きに見えるねぇ。ほら、その滑らかな布地なんて、このあたりじゃまず見かけない。貴族か何かかと思ったよ」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
俺が困っていると、奥から別の声がした。
「お兄さん、こっちも見ていかないか? 安くていい中古品が揃ってるよ」
振り向くと、中古衣類を扱う店主が笑顔で手招きしていた。
「安いってどのくらいだ?」
「そうだな……普通の布製の服なら200バイト、ちょっとマシなもので500バイトってとこだ」
500バイトならそこそこ品質も良さそうだ。仕立て屋の服がどのくらいの値段なのか気になりつつも、俺は中古屋の品を手に取ってみた。
ジュートのような粗い生地だが、厚手でしっかりしている。
「……悪くないな」
仕立て屋でオーダーするのも興味はあるが、手持ちの金を考えると、まずは中古で揃えたほうが無難だろう。
さて、どうするか——。
そう考えていた時、背後から別の声がした。
「お兄さん、その服、ずいぶん変わった布地だね?」
振り向くと、そこに立っていたのは年の頃は20代前半の若い女性だった。くすんだ紫色のローブをまとい、胸元にはいくつもの布の端切れを詰め込んだポーチを下げている。
「私、リーナ。この店で働いてるの。お兄さん、珍しい服を着てるけど、どこから来たの?」
突然の問いかけに少し戸惑うが、どうやら彼女は仕立てや布に興味があるらしい。