第7話:目覚めと朝の市場
目が覚めると、薄暗い部屋の中に朝の気配が漂っていた。
隣の部屋からはまだ微かに話し声が聞こえている。昨夜の女の声だろうか。俺はゆっくりと起き上がり、硬いマットレスの上で軽く背伸びをする。
「……寝た気がしねぇな」
寝ぼけたまま、自分の格好に目を落とす。異世界に転生したときはスーツ姿だったが、さすがに目立ちすぎる。昨夜、シャツとスラックスに着替えたが、それ以外に着る服がない。
「このままじゃまずいな……」
この世界の人々が着ているのは、ジュートのような素材のゆったりとしたトップスと、紐で結ぶタイプのパンツだ。俺も早めに服を揃えないと、変に目立ってしまうだろう。
服を探すついでに、朝飯も調達しよう。
異世界に来てからの疲労が溜まっているのか、体が妙に重い。寝具の質もあるが、慣れない環境が原因だろう。
財布を確認し、金貨や銀貨がそのままの位置にあることを確認すると、俺は軽く息を吐いた。少なくとも盗まれることはなかったようだ。
「さて、飯でも探しに行くか。ついでに服もな」
金はあるが、無駄遣いはできない。市場で安く食えるものがあれば、それで済ませるのが得策だ。
宿を出ると、外はすでに活気づいていた。気候は日本と似た温度だが、湿気が少なくカラッとしている。過ごしやすいが、日差しは強めだ。カミノケマーケットには朝から多くの人が行き交い、露店が並び始めている。
「おい、そこの兄ちゃん! 朝飯ならこれがいいぜ!」
威勢のいい声に振り向くと、黒パンを掲げた商人がいた。硬そうで、そのままでは食べづらそうだが、腹が減っているのでとにかく買うことにした。
「……いくらだ?」
「100バイトだ!」
俺は財布から鉛色の100バイトコインを取り出し、商人に渡した。
「毎度あり! ところで兄ちゃん、見ねぇ顔だな。どこから来たんだ?」
また聞かれた。この世界での身分をどう説明するか——俺は軽く肩をすくめた。
「まぁ、遠くから来たんだよ」
商人は笑いながら黒パンを渡してくれた。
「これ、どうやって食うんだ……?」
黒パンを一口かじろうとしたが、予想通り硬すぎる。歯が立たない。
仕方なく周囲を見渡すと、スープを売る屋台を見つけた。
「おい、スープ一杯いくら?」
「50バイトだ!」
100バイトの鉛色のコインを渡し、温かいスープを受け取る。黒パンをちぎって浸し、ようやく食べられる柔らかさになった。
「ふぅ……なんとか食えるな」
「へぇ、まぁいいさ。あんたも長居するつもりなら、この市場の掟くらい覚えときな!」
市場の掟? 俺はパンをちぎりながら、その話を聞くことにした。