第63話:倉庫改革と新たな挑戦
市場の改革が進むなか、倉庫の運営もより効率的にする必要があった。すでに台車や物流ローラーは導入済みだったが、動線の改善、安全対策の強化、荷物の固定具、さらには貨幣流通の仕組みがまだ十分に整っていない、など思いつく課題は多くあった。
「イワノフ、倉庫の動線、もう少し整理できないか?」
俺は倉庫の入り口で腕を組みながら、積み上げられた荷物の山を見つめた。市場の取引量が増えたことで、倉庫の利用頻度が格段に上がり、混雑が生じていた。
イワノフは頷きながら、倉庫内を歩き回る。
「確かに、今のままだと効率が悪いな。動線を見直せばもっとスムーズに荷物を出し入れできるかもしれん。」
「だろ? まずは動線を最適化するために、入口と出口の役割を明確にしよう。それと、エリアごとに荷物の配置を固定しよう。」
「なるほど。入口と出口は今一緒だが、あえて分けるんだな。搬出が多い時に搬入があると、しばらく待つことがあるしな。一定のルールを作れば迷わずに済むな。」
俺はさらに続けた。
「それだけじゃない。荷物の固定具も必要だ。特に高く積み上げる荷物は崩れる危険がある。支柱を設けたり、ロープや金属製の固定器具を使うべきだ。」
イワノフは倉庫の棚を見渡しながら、しばらく考え込んだ。
「それはいい考えだ。だが、そんな便利な固定具は、まだない。ツテはあるのか?」
「俺が召喚する。俺の国の倉庫で使われている頑丈な固定具を持ってくるよ。」
イワノフは驚いたように目を見開いた。
「お前の召喚能力、本当に便利すぎるな。」
「まあな。ただし、大きなものは召喚するたびに体力を消耗するから、必要な数を見極めておく必要がある。」
俺はその場で、倉庫の現状を分析し、必要な数を計算した後、頑丈な金属製の荷物固定具とベルト、支柱を召喚した。
「これで荷物が崩れる心配はない。」
イワノフは固定具の使い方を確認しながら満足そうに頷いた。
「よし、これで倉庫の安全対策は整ったな。」
次は安全対策の強化だ。倉庫には高所に荷物を積む場面が多いため、作業者の安全を確保する必要がある。
「安全対策には、まずヘルメットを導入しよう。」
俺は倉庫作業員たちに向けて、現代の安全ヘルメットを召喚した。中世の世界では頭を守るものといえば鎧兜くらいだったが、軽量で頑丈なヘルメットはすぐに受け入れられた。
「さらに、転倒防止のために作業用の滑り止め靴を用意する。足元が不安定だと事故が増えるからな。」
作業員たちは興味津々に靴を試し、動きやすさに驚いていた。
最後の課題は経理の管理だった。支払いは基本的に手渡しだったが、大量の取引が行われるようになると記録が煩雑になっていた。
「イワノフ、この商会での取引、帳簿はどうやって管理している?」
「基本は手書きの記録だが、最近は取引量が増えて管理が大変になってきた。」
「なるほど。大口の契約が定期的にある取引先だけでもいいんだが、都度支払いではなく、ひと月分の支払いを一回でまとめられないか?」
「そうだな、相手に確認する必要はあるかもしれんが、契約を巻き直せばできないこともない」
「支払いがまとまれば、経理作業も楽になるし、金貨の管理も楽になる」
こうして、倉庫の動線改善、安全対策強化、荷物の固定具、貨幣流通の管理という新たな改革が進んでいった。
俺は倉庫を見渡しながら、少しずつ整備されていく環境を実感し、改めて異世界での挑戦に手応えを感じていた。