表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/62

第6話:異世界 はじめての宿泊

 部屋に通されると、そこは六畳ほどの狭い空間だった。壁は薄汚れ、カビ臭い匂いが鼻をつく。


 木のベッドにはくたびれた布団が敷かれ、壁際には傷だらけの小さな机と椅子がぽつんと置かれている。隣の部屋からは微かに女の話し声が聞こえてきた。笑い声と低く囁くような声が交互に響き、どうやら誰かと会話しているようだ。それだけのシンプルな部屋だが、雨風を凌げるだけでもありがたい。


 「部屋はこんなもんだ。鍵はないから、貴重品は肌身離さず持っておけよ」


 宿の主人がそう言い残し、扉を閉める。


 俺はベッドに腰を下ろし、大きく息を吐いた。そして、持っている金を確認するために机へ向かう。異世界に来てからずっと緊張しっぱなしだったが、ようやく少し落ち着ける。


 「……とりあえず、無事に泊まれる場所は確保できたな」


 机の上に30万バイトを置き、一枚ずつ数え始める。


 10,000バイトのコインを10枚ずつ重ねていく。それは金貨で、表面には王冠のような模様が刻まれている。隣には、1000バイトの銀貨、100バイトの鉛色のコイン、そして10バイトのひしゃげたアルミのような板が無造作に置かれていた。金属が触れ合う硬い音が部屋に響き、わずかな光を反射して鈍く輝いていた。3列目を重ねようとした瞬間、バランスを崩したコインが倒れ、カランと無情な音を立てて散らばる。金貨は光を反射し、銀貨や鉛色のコインは鈍く輝いた。ひしゃげた10バイトの板は頼りなく転がり、まるで俺の行く末の不確かさを象徴しているようだった。


 思わず手を止めて、それを見つめる。


 まるで、俺の今後の生活の不安を象徴しているようだった。


 しかし、問題は山積みだ。


 俺は財布を取り出し、日本円の残りを確認することにした。黒の革財布を開くと、そこには見慣れた紙幣と硬貨が収まっていた。


 1万円札が1枚、5千円札が1枚。五百円玉が2枚、百円玉が8枚、五十円玉が3枚、十円玉が6枚、五円玉が2枚、一円玉が4枚。


 さらに、JCBクレジットカードと楽天カード、使い道のないポイントカードも挟まっている。ビジネスバッグの中には折り畳み傘、チェックのハンカチ、名刺、そしてサンプルのチョコレート菓子が3個。そして、大切にしている『限界戦記トドリアン』のトレカが数枚。俺の推しキャラ、トドリアンの最強形態が描かれたカードは、どんなときでも勇気をくれる存在だ。


 「……これが、俺が持っている全財産か」


 異世界では価値があるかもしれない日本円だが、どこまで使えるのか分からない。改めて、この世界で稼ぐ方法を探さなければならないことを痛感する。まずはこの世界での生活費をどうするか。


 五円玉を売って得た30万バイトはあるが、使い続ければすぐになくなる。仕事を探すべきだろう。


 「冒険者……か」


 宿の主人が言っていた言葉が頭をよぎる。


 遺跡から発掘される日本円、冒険者が発見することが多いという話。それが偶然なのか、それとも何か理由があるのか。だが、今は考えても仕方ない。


 まずは、この世界で生きる術を身につけるしかない。


 俺は疲れ切った体を横たえ、異世界での初めての夜を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ