第56話:ブラッドウルフ商会の介入
市場の改革が進み、商人たちが新しい配置に慣れ始めた頃、問題が起こった。
「おい、新しい市場のやり方のせいで、うちの売り上げが落ちてんだよ」
市場の入り口に、血気盛んな男たちが数人立っていた。その中央にいるのは、厳つい顔の男。真っ赤な毛皮のマントを羽織り、腰には装飾が施された剣をぶら下げている。
「ブラッドウルフ商会の副会頭ガルヴァスだ」
彼は腕を組み、俺たちを睨みつけた。
「ここの市場が売れるようになってから、うちが仕切ってる市場の客足が減ってるんだよ。これはどういうことか、説明してくれよ。不当に安い値段で販売したり、俺たちの市場から商人の引き抜きをしているんじゃねえだろな」
周囲にいた商人たちは息を呑み、市場全体に緊張が走る。
俺はガルヴァスをまっすぐ見据えた。
「説明もなにも、市場の仕組みを変えただけだ。それが結果的に客を呼んでいるなら、俺たちのやり方が正しかったってことじゃないか?」
「言ってくれるじゃねぇか……だがな、うちはこの街で長年商売を仕切ってきた。そう簡単に好きにはさせねぇぞ」
ガルヴァスは俺の前に歩み寄る。
「どうやって儲かるようになったか教えろ。でなけりゃ、お前たちのやり方がどれだけ続くか、保証はできねぇな」
暗に脅しをかけてくるガルヴァス。その背後の男たちも鋭い視線を送ってきた。
「……俺はイワノフ商会に雇われた顧問という立場だ。直接お前たちとの交渉をする権限はない。この話、イワノフに伝えていいか?」
俺がそう言うと、ガルヴァスは一瞬目を細めた。
「へっ、イワノフか。アイツがどう出ようと関係ねぇ。こっちはこっちのやり方で動くまでだ」
その時、後方から別の声が響いた。
「俺に用なら直接来いと、前にも言ったよな、ガルヴァス」
振り返ると、イワノフが悠然とした足取りでこちらに向かってきた。
「ガルヴァス、お前の言い分は聞いた。しかし、この市場のやり方に口を出す権利はお前にはない」
「チッ……」
ガルヴァスは舌打ちすると、腕を組んで考え込む。
「いいだろう。今日は引いてやる。だが、このまま黙ってるわけじゃねぇからな」
そう吐き捨てると、ブラッドウルフ商会の連中は市場を後にした。
「……良いタイミングだった。これで一安心か?」
俺はイワノフの方を見た。
「いや、むしろ厄介事が始まったな。簡単に諦めるような目はしてなかった」
イワノフはそう言いながら、空を仰いだ。
俺はこの件が今後の市場運営に大きく影響することを予感しながら、次なる策を練ることにした。