第55話:市場改革の本格始動
市場の区画整理が本格的に進み、商人たちの配置が変更される日がやってきた。
「おいおい、本当にこんな配置でやるのか?」
「奥の区画に移ると客が減るんじゃないか?」
商人たちは口々に不満を漏らしていた。これまで早い者勝ちで場所を取っていたのが、市場の構造改革によって売り場が固定されることになったのだから、反発があるのは当然だ。
俺は市場の中心に立ち、彼らに向かって説明を始めた。
「確かに、これまでのやり方と変わるのは不安だろう。でも、この配置なら通路が広がり、客が店を回りやすくなる。結果的に売上は伸びるはずだ」
「そんなこと言われても、奥の区画に回されるのは納得いかねえよ!」
奥の区画に配置された商人の一人が声を上げる。彼の言うことももっともだ。
「だからこそ、奥の区画は場所代を安くする。それに、入口近くには食べ物や軽い雑貨を並べて、奥に進んでもらいやすい仕組みを作るんだ。売れる仕組みは俺たちで作る」
商人たちは顔を見合わせ、しばし沈黙した。そして、最初に不満を口にしていた男が口を開いた。
「……まあ、しばらく様子を見てみるか」
「やってみて売上が落ちるなら、また相談に来い。改善策を考える」
「……わかったよ」
徐々に納得し始めた商人たちを見て、リーナが俺の隣で小さく笑った。
「説得力あるわね。やっぱり、あんたってただの旅人じゃないわ」
「それは……まあ、経験が活きてるんだろうな」
俺が誤魔化すように言うと、リーナは「ふぅん」と興味深そうな顔をした。
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「やることが増えてきたな」
市場を見回しながら、俺は小さく息をついた。
「市場の改革、雇用の創出……あんた、もう立派なこの街の商人みたいね」
リーナが冗談めかして言う。
「……俺はただ、できることをやってるだけさ。ただ、頼られるのは嬉しいな」
少しずつ変わっていく市場の光景を見て、達成感が湧いてくるのを感じていた。
これが、俺のこの街での役割なのかもしれない——そんなことを思った。