第49話:市場調査の開始
リーナを連れて市場へ向かうと、朝の賑わいがすでに広がっていた。露店がひしめき合い、色とりどりの商品が所狭しと並べられている。人々の掛け声、値段交渉の声が入り乱れ、市場独特の活気が満ちていた。
「カミカム市場は食料品から日用品、時には珍しい輸入品まで手に入るのよ」
リーナが説明しながら市場を歩く。俺は辺りを見渡しながら、人の流れや店舗の配置を確認した。
「なるほど……店の配置は割と自由なんだな」
「そうね。場所ごとに固定の売り手はいるけど、毎日少しずつ変わることもあるわ。あと、人気の店は人が集まりすぎて混雑しやすいの」
市場は想像以上に雑然としていた。通路は狭く、客と商人、荷物を運ぶ者たちが入り乱れ、前に進むのも一苦労だ。肩がぶつかり、足を踏まれそうになりながら、慎重に歩を進める。
「入口付近に人気店が集中してるのはいいが、客の流れが悪いな……。このままだと、奥の店が全然売れないんじゃないか?」
「その通り。でも、市場の管理者も古いやり方を続けてるだけで、あまり改革には興味がないみたい」
地面には食べかすや包装紙のようなゴミが散らばり、通路脇には異臭を放つ液体が滲んでいる。俺の足元を素早く何かが横切った。視線を落とすと、ネズミのような小動物が腐った野菜の皮を咥えて走り去っていく。
「……衛生管理も問題だな」
リーナは苦笑しながら頷く。
「市場に来るたびに思うけど、これはどうにかしたいわよね」
その時、不意に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おう、お前さん! 前に、うちでパンを買ったろ?」
振り向くと、以前この市場で俺が転移直後にパンを買った店の主人だった。小麦粉で白くなった手を振りながら、嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる。
「この前の黒パン、うまかったろ? 今日は新作があるんだ、試していかねぇか?」
思わぬ再会に、俺は少し驚きながらも笑みを浮かべる。
「おお、覚えててくれたのか。あの黒パンは助かったよ」
「おうともよ! 今日はもっと柔らかいパンもあるぜ、試してみな!」
こうして、市場の管理者に話を聞く前に、まずは旧知の商人たちと再び触れ合うことになった。
「それにしても、市場ってのは無秩序に見えて、実は工夫次第でずっと効率的にできるんだよな」
「どういうこと?」
リーナが首を傾げる。
「俺の国では、食料品や日用品をまとめて売る『スーパーマーケット』っていう仕組みが発展していた。最初はある商人がセルフサービス型の店を始めて、その後、同じ種類の商品をまとめて売る形が確立されたんだ。そこから、客が必要なものを効率よく見つけられるよう、商品の配置や売り場の導線が研究されるようになった」
「なるほど……つまり、商品を分類して売場を作ることで、お客が探しやすくなるってことね?」
「そういうこと。今の市場は、客の動線が悪すぎる。何をどこで売ってるのか分かりづらいし、人気の店に客が集中しすぎて、他の店が埋もれてしまってる。改善の余地は大いにあるな」
リーナは少し感心したように腕を組む。
「……本当に面白い考え方するわね。よし、市場の管理者にその話をしてみましょうか」
こうして、俺たちは市場の改革に向けて動き出すのだった。