第45話:契約と新たな依頼
「お前、こういう便利な道具をもっと持ってるんじゃねぇのか?」
イワノフが腕を組みながら俺を見つめる。その視線には、明らかに興味と期待が混じっていた。
「例えば、この台車とオリコン(折りたたみコンテナ)。ウチの商会で正式に買い取りたいんだが、いくらで売る気だ?」
俺は少し考えた後、価格を提示する。
「台車は10台、1台あたり2万バイト。
オリコンは100個、1個5千バイトでどうだ?」
イワノフは顎に手を当て、じっくりと考え込んだ。
「ほう……ちょっと待て」
イワノフは側近を呼び、何やら小声で相談を始める。
「……台車の導入で作業効率が上がれば、人件費を削減できる。オリコンも整理整頓に役立つし、破損率が下がれば長期的に見て利益になるな」
側近がうなずき、イワノフはゆっくりと頷いた。
「よし、条件は飲もう。ただし、追加発注の可能性も考えておいてくれ」
俺は少し考え込む。売ること自体は問題ないが、異世界での価格設定や取引方法がわからない。
「あと、この物流ローラーってやつ、他の倉庫にも導入できねぇか?」
「1レーンあたり20万バイト、設置費込みで25万バイトだ。どれくらい導入するか考えてくれ。」
「いいだろう。安くはねえが、どうしても欲しい。」
「……なるほど。じゃあ、まずは見積もりを出させてもらうよ」
イワノフは満足そうに頷いた。
「それでいい。契約書の締結までやっちまおう」
そう言うと、イワノフは奥の棚から羊皮紙の契約書を取り出し、俺の前で書き込み始めた。
……問題は、俺はこの世界の文字が読めない。
「悪いが、俺はこっちの文字が読めない。誰か、内容を説明してくれる奴はいるか?」
イワノフは少し考えた後、店の奥にいた細身の男を呼んだ。
「こいつは弁理士のセルゲイだ。契約書を読んでもらえ」
セルゲイは痩せた中年男で、小さなガラス眼鏡をかけていた。静かに羊皮紙をめくりながら、内容を一つずつ読み上げてくれる。
「契約の要点はこうだ。台車とオリコンを最低ロットの10台と100個納品、物流ローラーはまず試験導入として一つの倉庫に4レーン設置。その後、問題なければ追加発注の可能性あり。支払いは納品時に支払われる。納期は…」
「来週でいい」
「おーけー。納期は来週だ」
「ふむ……ほかは問題はなさそうだな」
俺は内容を確認し、契約書に署名する。
「よし、これで正式に契約成立だな!」
イワノフは満足そうに笑いながら、俺の肩を叩いた。
「お前、商才があるな。今後もいい取引ができそうだ」
俺は少し苦笑いしながら頷いた。
「俺はただ、便利なものを使ってるだけさ」
こうして、俺は正式に異世界で商売を始めることになった。
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契約を終えた後、イワノフは報酬として依頼料500バイトを支払い、さらに「何か一つ好きな商品を選べ。返品されて再販できないから、持って行っていいぞ」と言った。
選択肢1:食料(保存食の詰め合わせ)
選択肢2:衣類(高級な防寒着)
選択肢3:小型の道具(ナイフやポーチなどの冒険用装備)
俺は迷った末、高級な防寒着を選んだ。今後の冒険で寒冷地に行く可能性もあるし、何より品質が良さそうだ。
「いい選択だ。そいつは上質な毛皮でできてる。冬場になれば、その価値がよくわかるさ」
イワノフは笑いながら言った。
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商会を後にして商店街を歩いていると、古着屋で働くリーナの姿が見えた。
「仕事終わったの?」
彼女は手際よく服を畳みながら、軽く微笑む。
「ああ、そっちはどうだ?」
「まぁ、ぼちぼちね。悪くないわよ。たまに妙な客も来るけどね」
俺は笑いながら頷いた。
「それで、ちょっと気になる話があるんだけど……」
リーナは声を潜めて続けた。
「最近、街でちょっとした事件が増えてるのよね」
「事件?」
「夜中に倉庫から物が消えたり、商人が何者かに襲われたり……ギルドでも、調査依頼が出されてるみたいよ」
「……盗賊か、それとも別の何かか?」
俺は興味を持ち、ギルドへ向かうことを決意する。
異世界での商売が始まった矢先、街での異変に巻き込まれる予感がする。