第44話:倉庫整理と異世界の道具
ギルドでの仕事を受け、俺は商店街の奥にある『イワノフ商会』へ向かった。
イワノフ商会は、この街でも規模の大きい商会らしく、建物は堂々たる石造り。入り口には荷車が並び、従業員らしき男たちが忙しく荷物を運んでいる。店内には食品や加工品、布製品など、多種多様な商品が並んでおり、確かにここが物流の要になっていることがよくわかった。
「おう、仕事を受けた冒険者か?」
入口をくぐると、ひときわ大柄な男が俺を見つめていた。がっしりとした体格に、口髭をたくわえた中年の男——こいつがイワン・イワノフか。
「そうだ。倉庫整理の依頼を受けてきた」
「よし、助かるぜ。見りゃ分かると思うが、ウチの倉庫はもう荷でパンパンだ。人手が足りねぇんだよ」
イワノフは俺を倉庫の方へ案内した。
扉を開けると、そこには想像以上の光景が広がっていた。
カオス状態——まさにそんな言葉がふさわしい。
木箱や麻袋が無造作に積み上げられ、奥の棚には商品がぎっしり詰め込まれている。商品リストと実際の在庫が合っているのかすら怪しい。
「どうだ、すげぇだろ? こいつを整理しねぇと、新しい荷物を運び込めねぇんだ」
「……確かにな。こりゃ骨が折れそうだ」
俺は軽くため息をついた。正直、手作業で片付けるのは非効率すぎる。
だが、俺には“召喚”がある。
「ちょっと試したいことがある」
俺はイワノフの了承を得て、倉庫の片隅に立つ。
脳内に思い描くのは、日本で物流を支えていたアイテム——。
「召喚!」
キャスター付きの台車(物流用カゴ台車)
光と共に現れたのは、金属製の骨組みとキャスターがついた台車。日本の物流倉庫でよく見るアレだ。
「お、おい! なんだこりゃ!?」
「台車だよ。重い荷物を載せて運ぶのに使える」
俺は近くにあった酒樽を台車に乗せ、軽く押してみる。ゴロゴロ……とスムーズに転がり、わずかな力で動かせる。
「すげぇ! なんだこれ、めちゃくちゃ楽じゃねぇか!」
従業員たちも驚きの声を上げる。今まで力仕事でヘトヘトになっていた作業が、あっという間に楽になった。
「これは使えるな……!」
イワノフが興味深そうに台車を見つめる。
だが、まだ終わらない。
「もう一つ試してみるか」
俺はさらに別のアイテムを召喚した。
物流ローラー(荷物搬送用の移動式ローラー)
俺はまず、倉庫の通路のスペースを整理し、平らな部分を確保する。そして、物流ローラー(荷物搬送用の移動式ローラー)を召喚した。
見た目は金属のフレームの上に並べられた無数の小さなローラー。長い一本のレーンのような構造をしており、荷物を上に乗せるとローラーが回転し、少ない力でスムーズに移動させることができる。
「まずはこれを並べて……よし、試してみるか」
俺は近くにあった麻袋をローラーの上に置き、軽く押した。
「お、おい……!」
作業員の驚きの声とともに、麻袋はスムーズに転がり、向こう側へ流れていった。
「おぉ、すげぇ! 力を入れなくても運べるじゃねぇか!」
イワノフも腕を組みながら唸った。「なるほどな……これなら重い荷物でも一人で運べるってわけか」
従業員たちは興味津々で触り、実際に荷物を転がしてみる。
「おいおい……まるで魔法じゃねぇか」
イワノフが唖然とする。
「これがあれば、荷物を転がすだけで出荷準備ができる。作業効率が一気に上がるぞ」
従業員たちは興味津々で触り、実際に荷物を転がしてみる。
「マジか……! これなら作業時間が半分以下になるぞ!」
折りたたみコンテナ―
さらに俺は、散らばった小物類を整理するため、折りたたみコンテナを召喚。
「こういう箱があれば、小さな商品をまとめて保管できる。積み重ねることもできるし、使わない時は折りたためる」
「……なんだお前、本当に冒険者か? 商人の間違いじゃねぇのか?」
イワノフは苦笑しながら俺を見た。
俺は異世界で、確実に“便利屋”としてのポジションを確立しつつあった。
「なぁ、透……この道具、ウチの商売に使わせてもらえねぇか?」
イワノフの目がギラリと光った。
「お前、こういう便利なモンを他にも持ってるんじゃねぇのか? もしそうなら、俺と取引しねぇか?」
ついに、俺の召喚能力が“商売”へと繋がる時が来たかもしれない。