第4話:カミノケマーケット
『コリドー西側』の裏路地を抜けると、突如として、耳をつんざくような喧騒が耳に飛び込んできた。見渡せば、狭い通りに200を超える屋台がひしめき合い、人の流れが絶えない。
「ここが……カミノケマーケットか」
俺は改めて息をのんだ。目の前の光景は、日本の市場とはまるで違う。奇妙な姿の商人が鮮やかな布を売り込み、別の背の低い男が鉄製品を並べ、荒っぽく値段を交渉している。人間とは少し違う雰囲気を持つ彼らを見て、俺は不安とともに、この世界が現実のものだと実感せざるを得なかった。
目の前に広がるのは、異世界特有の活気に満ちた市場だった。道幅は広く、人々がひしめき合い、その姿はさまざまだ。人間に混じって、異様な姿の者たちが行き交い、長い耳を持つ者や、ずんぐりとした体格の者が見受けられる。長い耳の方は、もしかするとエルフと呼ばれる存在なのかもしれないが、確証はない。威勢のいい声があちこちで飛び交っている。露店が軒を連ね、粗末な布で覆われた台にはさまざまな品物が並ぶ。野菜や干し肉、魚らしきものもあるが、日本のスーパーにあるような整然とした陳列とは無縁だ。どれも無造作に積まれ、客が直接手づかみで選んでいた。
「おい、そこのお兄さん! いい肉だぞ! 今日獲れたばかりの上物だ!」
いかつい顔の肉屋が大声を張り上げ、串刺しの肉を掲げる。その肉の色は見慣れたものではなく、淡い紫がかっていた。まるで何かの爬虫類の肉のようだ。筋が浮き出ており、独特の光沢を放っている。日本で見慣れた牛や豚の肉とは違い、妙に弾力がありそうに見える。果たしてこれが美味いのか、それともクセのある味なのか……少なくとも、焼肉で出されたら躊躇うレベルだった。
「お兄さん、どこから来たんだ? その服、見慣れねぇな?」
ふいに声をかけられた。振り向くと、スキンヘッドで浅黒い肌をした屋台の主人が、俺を値踏みするように見つめている。黒の革製エプロンは油と血で汚れており、唇は熱を持ってひび割れていた。
「……ちょっと遠くから来たんだ」
曖昧に答えると、男は鼻を鳴らして包丁を研ぎ始めた。
「そうか。まぁ、カネさえあれば誰も気にしねぇよ」
それを聞いて少し安堵するが、財布には日本円とゲームセンターのコインしかない。今後の生活を考えると、この世界の通貨を手に入れなければならない。
「働き口を探してるなら、東側の宿屋に行ってみな。あそこには腕っぷしに自信のある奴が集まってるぜ」
情報を得た俺は、カミノケマーケットをさらに奥へと進むことにした。