表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/62

第34話:召喚と鍛冶の始まり

 鍛冶ギルドの作業場を借りることになったが、サーシャにはまともな鍛冶道具がない。ギルドの設備を使うにも制限があり、自由に鍛冶をするには不十分だった。


 「つまり、自分の道具を揃えないと話にならないってことか……」


 俺は腕を組み、考え込む。そして、自分の能力を使えば解決できることに気づいた。


 「よし、試してみるか」


 俺は深呼吸し、召喚の力を発動する。頭の中で、技術の授業で見た道具やホームセンターの工具を思い浮かべた。


 シュウッ!


 光と共に現れたのは、トング、万力、サンドペーパー、ベルトサンダー、金床、耐熱手袋、ハンマーセットなど、鍛冶に必要な一式だった。


 「うおっ……!」


 サーシャが驚きの声を上げ、道具を手に取る。


 「これ、本当に透が出したの?」


 「まあな。俺の力は無機物なら何でも召喚できる。ただし、重いものは体力を使うから頻繁には出せないけどな」


 サーシャは感心しながら、手袋を嵌め、ハンマーを振るってみた。


 「……軽いのに頑丈だな。すごい」


 「確かに、この国の道具とは違うね」


 リーナも興味深げに触れている。


 しかし、空を見上げると、すでに日は傾いていた。


 「もう遅いな。今日はここまでにしよう」


 鍛冶ギルドの職人たちに宿を尋ねると、親切なドワーフが街の一角にある宿屋を教えてくれた。


サーシャとは翌日ギルドで集合する約束をし、リーナと宿屋に向かう。


 宿の名は《ミシェル》。赤レンガ造りの二階建てで、鍛冶ギルドからそう遠くない場所にあった。建物の外には煙突が伸び、ほんのりとスープの香りが漂ってくる。


 宿の中に入ると、店内は活気に満ちていた。客のほとんどはドワーフで、豪快に笑い、酒を飲み交わしている。そのざわめきがまるで鍛冶場のように響き渡っていた。


カウンターの奥には、赤毛のドワーフのオーナーが立っていた。彼は元鍛冶師らしく、がっしりとした腕を組みながら宿の様子を見回していた。


「お、客か?ようこそ《ミシェル》へ! ここは一泊500バイトだ。飯は付かねぇが、名物のトマトスープと腸の肉詰めは絶品だぜ!」


オーナーは豪快に笑いながら案内してくれた。


宿の一階に戻り、注文した料理が運ばれてくる。


トマトスープは湯気を立て、腸詰肉はパリッとした焼き目が食欲をそそる。しかし、一口スープをすすった瞬間、俺は思わず顔をしかめた。


「しょっぱ……」


若干塩辛い。肉もまた、異様に塩辛く、硬めの食感。味は、以前現代で食べたイノシシ肉のように独特な獣臭が強い。


「おいしいね!」


対して、リーナはスープを飲みながら満足そうに微笑んでいる。


「これくらいが普通だよ。透にはちょっと塩辛いかもしれないけど」


「……ああ、そうだな」


俺は苦笑しながら酒に手を伸ばした。琥珀色の液体は薄めたウィスキーのような味がし、ぬるい。木製のカップにはところどころ黒カビが浮かび、衛生面で不安を感じる。


「こういうのも悪くないね」


リーナが酒の入ったカップを軽く揺らしながら言った。


「確かに。こういう日も必要だな」


細かいことは考えないこととし、しばし食事を楽しみ、宿の賑やかな雰囲気を堪能した。


食事を終えると、ようやく部屋へ戻ることにした。


部屋は簡素ながらも清潔で、木のベッドとテーブルが置かれている。窓の外からは、賑やかな酒場の音が漏れ聞こえていた。


ベッドが二つ並んでいるが、妙に距離が近い。俺は思わず視線を彷徨(さまよ)わせ、リーナもどこか落ち着かない様子だった。


「……先に寝る?」


俺が何気なくそう言うと、リーナは一瞬考えた後、「ううん、透が先でいいよ」と軽く微笑んだ。


こうして、お互いどこか遠慮しながら、俺たちは初めての同室の夜を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ