第33話:鍛冶師の見立て
老鍛冶師の視線は、じっと魔法鉱石に注がれていた。彼の指がごつごつとした表面をなぞるたびに、鉱石のかすかな光が揺れる。
「……ほぉ」
彼は低く唸ると、片目を細めて鉱石をじっくりと観察する。
「どうだ?」
俺が緊張しながら尋ねると、老鍛冶師は鼻を鳴らした。
「本物だな。しかも、ただの魔法鉱石じゃねぇ……」
その言葉にサーシャが目を輝かせた。
「本当ですか!?」
老鍛冶師は頷くと、腰にぶら下げた金槌で軽く鉱石を叩いた。
カンッ
硬く澄んだ音が鍛冶ギルドの奥まで響いた。周囲の職人たちが、何事かとこちらに目を向ける。
「おい、マジかよ……」
「そんな鉱石、滅多に見れねぇぞ」
ヒソヒソとささやく声が聞こえ、俺は不安を覚えた。
「おっさん、そんな貴重なもんなのか?」
俺の問いに、老鍛冶師はゆっくりと頷く。
「これは《ミスリル魔鉱石》だ」
「ミスリル……魔鉱石?」
リーナが驚いたように呟いた。
「ミスリルは希少な金属だけど、魔力を帯びたものはほとんど見つからない。武具に加工すれば、並みの魔法も防げる伝説級の素材だよ」
老鍛冶師はサーシャを見据える。
「これ、どこで手に入れた?」
サーシャは一瞬ためらったが、決意したように答えた。
「父さんの遺したものです」
老鍛冶師は短く息を吐き、鉱石を手のひらに乗せた。
「なるほどな……お前、こいつをどうするつもりだ?」
「売って自分専用の道具を買おうかと…」
「なんと…そりゃあ、もったいねえ」
「おまえも鍛治師なら自分で打ってみたらいいじゃねえか。炉や場所は貸してやるよ」
「自分で…私が……父さんの魔鉱石を…」
サーシャは少し迷った後、力強く言った。
「鍛冶師としての第一歩にしたいです。父の技術を継ぎ、この鉱石で最高の武具を作りたい!」
老鍛冶師はニヤリと笑った。
「いい度胸だ。だが、簡単にはいかねぇぞ」
彼は俺とリーナを見やる。
「お前たち、こいつを手伝ってやる気はあるか?」
俺は一瞬考えた。確かにサーシャの夢を応援したい気持ちはあるが、俺は冒険者として次の依頼をこなす必要がある。それに、まだ俺の召喚能力がどこまで通用するのか、検証も十分にできていない。
俺は少し考え、言葉を選びながら口を開いた。
「手伝いたいのはやまやまだけど、俺は冒険者として依頼をこなす必要があるんだ。ギルドの仕事をしながら、できる範囲で手を貸すって形じゃダメか?」
リーナが補足するように言った。
「透の言う通り。彼には彼の役割があるし、いきなり鍛冶に専念するのは難しいよ。でも、必要なときに助けるくらいならできると思う」
サーシャはしばらく考え込んだが、やがて頷いた。
「……そうだね。私も全部を頼るつもりはなかったし、それでも力を貸してくれるなら嬉しい」
新たな挑戦が始まろうとしていた。